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黒いさくらねこと住む


前の話の続きです。

名前をどうしよう、というのは、シェルターに伺う前からずっと考えていたことだった。あまり二人であれこれと候補を出し合ったりはしなかったように思う。というのも、私が以前から「ルドン」という名前を推していたからだ。
「ルドン」とは19世紀のフランスの画家、「オディロン・ルドン」のことだ。白黒の奇妙で不思議な作風の版画などを描き続けたが、それが一転途中から色彩溢れる鮮やかな油彩やパステル画を描いた。私が学生時代研究していた画家だった。
初めて恋人とルドンを見に行ったのは、初デートの時だった。美術館なんてろくにいかないという男の子に初デートでルドン(しかも黒の時代の)なんてまた難易度の高いことをする……と今の私なら思うのだが、当時の私は同じように思いはしたが「うるせえ私の好きなものを知れ!!!」と勢いで連れて行った……気がする。恋人とはその後も何度かルドンを見に行ったが、その度私が「気持ち悪い!気持ち悪い!でも好き!!」と叫ぶことの方が絵より面白いと思っているようだ。知らんけど。

さて、猫の方に戻って。
黒猫ということもあり、私は「ルドン」という名前をずっと推していて、「でも変な子に育ったらどうしよう」「女の子なのにルドンなんていかつい名前やめた方がいいかな」とあれこれ理由をつけてはひより、しかし最後は「名前はルドンにして普段は可愛くるーちゃんとか呼んだらいいと思う」と宣言した。譲渡日二日前のことだった。

シェルターで感じた彼女の性格から必要なものはチョイスした。以下、るーのために買ったもの。

・エサ皿&水皿(ステンレスのお皿×2と台がセットになっているもの)
・トイレ(実家猫の様子からシステムトイレ一択だった。デオトイレの屋根付きを購入)
・おもちゃ(興味はなさそうだったと解っていたけれど念のため。鈴が入っているボール)
・爪切り
・爪とぎ
・ブラシ(シリコン素材のものにしたが、失敗した。毛は取れるがブラシ自体の手入れがうまくできない)
・猫用ベッド(屋根有・屋根無で使える2wayタイプのもの)
・猫用キャリー(ソフトタイプで折りたたみできるもの)
・ペット用フェンス(柵)
・子猫用の餌

ペット用フェンスはシェルター側から用意するよう言われた。帰宅する度玄関まで迎えに来てくれる子は可愛いが、それと同時に脱走される可能性もある。玄関だけでなく、ベランダへの掃き出し窓も同じ。
また、シェルターによってはケージの用意が必須の所もあるが、るーは大人しくいたずらをしたりする子ではないのと、先住猫がいないとのことでケージはあえて買わなかった。※ただ、今後災害が起きた際や緊急時には絶対必要になるので、改めて購入を予定している。

そして、ついに譲渡日がやってきた。シェルターで対応してくれた方と、もう一人団体の方がいらした。プラキャリーに入れられてやってきた黒猫は、部屋に着くなりぐーっと伸びて、部屋中を歩いて回った。大体の猫が物陰に隠れてしまうことが多い中、知らない環境にもビビらない子は珍しいと言われた。ただ探検が過ぎてキッチンの棚に入り込んだりコンロの上に乗るのは勘弁してほしい。
譲渡契約書を書いたり、既に受けたワクチンの説明を聞いている間も、るーは部屋中をぐるぐるまわって、最後は私の膝の上にやってきた。シェルターで食べていたという餌を少し頂き(ロイヤルカナンだった)来て下さったシェルターの方を見送った。トライアルは2週間と聞いていたが、結局大した問題もなかったのでそのままうちの子になっている。

恋人の股の上でくつろぐ来たばかりのルドン

るーは、本当はほかにもきょうだいがたくさんいたらしい。心無い人が捨てたところを捕まえられて、さくらねこになった。しかし、るーが保護されたときは、るーは独りぼっちで、同時期にトラックにひかれタイヤに巻き込まれて死んでいる同じ黒猫数匹を見つけたとのことだった。ひとりで地域猫としているよりも、こんなにもなつっこい子なら望んでくれた家族のもとで過ごすのがいい。そう判断して保護し、私に連絡をくださったとのことだった。
実際、るーはかなり飼い猫向きの猫だった。いたずらはほとんどせず、爪とぎ以外の場所で爪を研ぐこともない。最近家に慣れてきたのかおもちゃで遊ぶようになったが、騒がしく鳴いたり走り回ったりすることもあまりなく、トイレだって失敗しない。一度動物病院へ連れていくキャリーの中でおもらしをしていたことがあり、今後またトイレ以外のところでやるのでは……と思ったが、現状おもらしはあの一度だけだ。何よりるーが飼い猫向きなのは、人間が大好きなところ。ソファーに座っているといそいそと膝に乗ってきたり、恋人と二人でいると「集まらなきゃ」と思うのかすぐ間に入ってくる。とてもなつっこくて甘えん坊でいつもゴロゴロ喉を鳴らすご機嫌にゃんこなのだ。サイコー。

るーがやってきた初日は恋人が夜飲み会に行ってしまったので、私と二人きりだった。食事の用意をする間、るーはずっとうろうろしながらむあむあ鳴いていた。カウンターキッチンなのだが、脱走防止フェンスをひとまずキッチンへ侵入しないよう置いたら、「そっち行けない!!」とばかりにフェンスの前でずっと鳴いていた。「もうちょっとだよ~」「もう少し待って~」「すぐ行くよ~」などと返事をしていたら、ついにしびれをきらしたるーがフェンスを飛び越えて足元へやってくる。キッチンに登らないように注意しながら、料理の完成とともにフェンスの外に出した。るーがフェンスを越えたのは今のところこの時だけだ。それ以外は入ってはいけないところと認識しているのか、決して入ってこない。賢い子だと思う。
食事中の私の膝の上で、るーは丸くなってなうなう言っている。こんなに甘えたでさみしがりだったら、これから平日私たちが仕事に行ってる間待ってられるだろうか……?と不安になってしまう。膝の上のるーが私のごはんをちょいちょいするのを防ぎながら、食事を済ませる。真っ黒なさくらねこが、家族未満の暮らす家の家族になった。

#コラム #保護猫 #猫

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