大人になりたくない
「大人になりたくない」なんていうとアラサーが何言ってんだ、という感じもするけれど、あまり「社会のジョーシキ」なるもので思考を固まらせたくないな、と思っている。
春から初夏くらいにかけて、ネットでは「ヤバい新人」や「ヤバい会社」の話題がたくさん出てくる。
例えば終業後にある職場の親睦会をさらっと欠席して早々に帰る新人に「協調性ない」ってリプがつく反面、「給料も出ないのに親睦会なんて先輩にこびへつらうようなの行きたくない」というツイートに同感を示すRTが集まる。みたいな。
そういうツイートを見ると、「協調性ないやつだな~」と思いながらも、「確かに給与が付く時間の外で仕事の延長みたいなことしたくないよな」、という気持ちも同居している。どちらにより共感するか、その天秤がゆらゆら境目をさまよう。
現在、仕事では就活生や新入社員といった、社会の入り口に立ったばかりの若い世代とよく関わる。
そういう時、自分が新人だった時の、社会の理不尽さへの憤りやよくわからない慣習への反発心をなるべく思い出すようにしている。社会人を始めてまだ数年くらいしか経っていないはずなのに、もうすでにいろいろに飲み込まれて諦めている自分がいて、同じ目線に立ってあげられなくなりつつあるのをほんのり感じる。
恋人とはお互いまだ社会に出る前に出会い、私が一歩先に社会人になった。
彼との数年の付き合いの中で、転職も2度経験した。初めての会社は体育会系と昔ながらの古い因習をごちゃまぜにしながらも、新しく先進的な会社を装っているところだった。表面上何かと私の意見を聞くが、いざ口を開けばそれは即黙殺された。少なくとも私はそう感じた。経験の浅い私が、社会のこともよくわかっていない私が出したアイデアなんて、聞いてもらう価値もないのだと思ったけれど、でも聞いてきたのはそっちじゃん!という怒りもあった。強引に辞めたけれど、辞める前に面談という形で「不満な所はなかった?」と聞かれたときに、最後だしと思って少し意見を出したら「それ関係なくない?」と言われた。受け止められないなら聞かないで欲しい、と思って、「すみません、大したことじゃなかったですよね」と返した。
そんなわけで私のキャリアは実質2社目から始まった。最初の会社はビジネスマナーも仕事の進め方も何も教えてくれなかったので、ほとんどのことはこの会社で学んだ。新卒みたいにマナーブックを与えられたり座学でしっかり教えられたことはないけれど、上司に恵まれて初歩の初歩から応用編まで幅広く身に着けることができた。それと同時に、たくさん理不尽や意味わからんと感じたこともあって、そういうものとの折り合いのつけ方を学んだ会社でもあった。それはある意味諦めでもあり、そういう過程を経て人は社会に組み込まれるのだと思った。
2年目の時に初めて後輩ができ、業務を教えたり面倒を見たりしていたのだが、気づいたら彼女の「ビジネスマナー」のなさや業務の進め方など、その時の私から見て「斜め上」なことをチクチクいう側になっていて、かといって的確な指摘もできなくて、「私、嫌な社会人になってしまった」と感じた。「中庸」とか「狭間」なんてなかった。あっという間に私は「社会」人になって、理不尽な社会に溶け込んでいた。思えば一社目の時の最後の面談だって、先輩たちからすれば「斜め上」な回答をしていたのかもしれない。それを私は受け止めて欲しかったはずだ。
その後転職し、しばらくたって恋人も社会に出ることとなった。4月の頭の頃は、自分の会社に入ってきた一部の新入社員の「ヤバさ」に頭を抱えつつ、恋人が初めての「社会」でもがくさまをフォローしていた。恋人はかなり現実的かつ合理的な所があり、かつたまに言い方が過激で尖っていてオイオーイと思うこともあるのだが、次第に恋人が零す愚痴は「ヤバい新人」のソレでは?と思うようになってきた。そして「それ大丈夫なの」とついチクリと刺してしまって、また自分が嫌な社会人になってしまったと思う。またしても、一社目で私の話を聞いてくれなかった先輩と一緒になっている。
先日、恋人とこの数年でお互い変わったよね、という話をしていた時、「あなたは"社会人"っぽくなったよね」と恋人に言われ、ドキリとした。「わたし、なるべく新卒や学生と近い目線で、あの頃の尖った感性忘れないように心がけてるつもりなんだけど、やっぱ変わったかな」と返すと、恋人は慌てたように「悪い意味じゃないよ」といった。だけれども、私が社会とかマナーとか態度とか礼節とかその他もろもろよくわからない理不尽な何かにまみれつつあるのはもう間違いない。例えば今の上司はどちらかと言えば保守派で私と意見が対立することもあり、ああいう新しい意見や新しいシステムを拒むような大人にはならんと息巻きながらも少しずつそうなっているのを感じる。それが悲しいし、仕事柄やっぱなるべく若い世代の感性にピントを合わせたいと思うし、せめて進行を遅らせたいなとは思う。
ちなみにフォローしておくが上司は経験則だけでなく先の状況も予測して物事を考える人なので、保守的なのもきちんと理由があり決して頭の固い頑固な人ではない。むしろ私は上司のことはかなり尊敬している。いつも「なめた態度取りやがって」「ソンナコトナイデスヨー」「笑かすなwww」とふざけあってはいるけど。
今も隣のデスクには社会人なりたての新人がいて、彼女にはなるべく優しく物事を教えようというのと、もし今の私が「斜め上」と感じるような出来事があってもしっかり受け止めようと思ってはいるが、新人の私が欲しかった「先輩」になれているかはわからない。まあ、新人ちゃんはとてもいい子で特にチクチクするところがないのだけど。それでも、なるべく新人の私が持っていた「尖った感性」や「憤り」を忘れずに、たくさんの新社会人たちと「理不尽な社会」の中庸にいる人間になりたいと思う今日この頃である。
ちゅーる代になります