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春の鏡

その一

澄んだ空の奥底からは
柔らかい光が溢れ
淡い雲の狭間からは
冷たい結晶が零れる

優しい陽に照らされた
小さな水溜まりに
まどろみから目覚めた
生命がうつりこんでいる

……それは追憶の鏡だった
雷鳴とともに訪れる雨と
静かに打ち震える花との

明るくも寂しいアルモニーが
湿った大地に描いて行く
ふたたびは帰らぬ日を
   
その二

露に濡れた花びらは
乾いた光にさらされ
明るくきらめいている
夢を匂わせながら

色を失った花びらは
軽やかな結晶をうけとめ
寂しく横たわっている
現実を透き通らせながら

……緩やかな風の流れが
形の定まらない水晶に
さざ波を引き起こす

そして翳の落ちた心にささやき
あの巡り合いの日のように
どこか遠くへ去って行く


2020年4月15日作

一言メモ

今作は昨年の3月頃に作成した作品で、銀紗という同人誌にも掲載した詩です。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、この詩はソネット形式(韻は踏んでいませんが)を採用しています。また、この作品で一気に作風を変えたという点で、個人的に非常に思い出深い作品になっています。と言うのも、今までは抒情的な文言を前面に出していましたが、この作品から風景の中に抒情的な側面を織り混ざるという方法を採用したからです。例えるなら、抽象的な風景画を言葉で表現しようとしたものであり、従来の作品に比べて読み手の解釈が複数成り立つものになっているかと思います。また、堅苦しい言葉もあえて使わず、全体的に柔らかい作品にしたいという思いもあって、このような作品になりました。ソネット組詩は春夏秋冬で合計4つの作品がありますので、順次 note に上げていきます。最後になりますが、皆さんがこの詩から何を感じ取ったのかも教えていただけると嬉しいです。

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