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日本私立大学協会令和元年度就職部課長相当者研修会講演録より(2)〜「キャリア教育と教学マネジメント」

日本私立大学協会主催「令和元年度就職部課長相当者研修会」(2019年11月14日)の講演録をもとに加筆・修正したものを数回に分けて転載します。転載を許可いただいた日本私立大学協会の関係者の皆様に感謝いたします。今回は2回目です。

■北陸大学での改革方針

北陸大学経済経営学部では、4年前に私が着任したときから、キャリア教育とは、正課カリキュラムのなかで、入り口から出口、つまり社会に学生をつなげていくことだと位置づけました。ですからキャリア教育を担うのは主に教員です。初年次からキャリア教育をやるのですが、それは初年次ゼミの担当教員がやるというふうにしました。

もちろん、課外で就活トレーニング系の講座もあります。ですが、そういった課外講座に依存してしまって、課外講座が肥大化するなんてことが起きないようにすることが大事です。北陸地域には2000年代にキャリアセンターで名をはせた大学があります。その大学と差別化を図るという意味でも、キャリアセンターに過度に依存せず、正課カリキュラムを通じた新しいアプローチが必要だと考えてきました。

一方、社会では、多くの職業で質的変化が起きています。例えば、これまでは、地方の大学から見れば、地方公務員といえば、県庁が一番よくて、次が市役所で、警察官は体力勝負だとか、そんな序列的イメージを持っている大学関係者もいます。だから県庁に合格させるのが大学のステータスだと。しかし今は、警察官こそ知識基盤化と言いますか、ハイテク化が進んでいます。課題解決型の発想も求められています。私は、ずっと警察官育成に力を入れているのですが、その理由は、合格しやすいからではなく、警察官に求められる資質・能力がどんどん高度化していて、大卒人材として送り出していく先としてふさわしいからだと考えているからです。

あと、汎用的技能、社会で必要なスキルですね。先ほどから、リテラシーとか、ジェネリックスキル、あるいはリベラルアーツという話が出ています。こういう抽象的なスキル概念は、学内でコンセンサスがないと、なかなかうまくいきません。リテラシーとかコンピテンシーとかも、何がリテラシーで、何がコンピテンシーかを教員と職員が共有しないと話が噛み合いません。また、そういう力の育成をカリキュラムや授業に埋め込んでいくかが大事で、そういうことを含めて「組織的な教育改革こそ最大のキャリア教育」と思いながらやってきています。

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■実例紹介(1)−初年次ゼミの改革∼キャリア科目との一体化

本学部には1年生からゼミがあり、私が着任したときのカリキュラムには1年次からキャリア科目もありました。キャリア科目はキャリア担当教員がやると想定されていたのですが、それを変更して、ゼミの担当教員全員がやることにしました。

そのうえで、ゼミとキャリア科目を2コマ連続でやるようにしました。ゼミは4単位科目なので90分×30回。キャリア科目は2単位科目なので、1コマ45分×30回として、両方で135分授業です。つまりゼミが毎週1.5コマになるのです。そうすると、残り45分間が余るので、ここでゼミ担当教員が集まって打ち合わせの時間ができます。

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最初の90分間は主に探究型の学修で、次の45分間がキャリア教育です。当初、多くの教員は「キャリア教育なんてできない」と言いましたが、そうではないと。キャリア教育のスタートは、まず、学生が自分を知り、自己のマネジメントができるようになることだと。それにはリフレクションが大事なので、学生に自分を振り返る話をさせ、教員はその話を聞くだけだからと言って、全教員で担当することにしました。学生に10分間スピーチをさせて、教員も学生もみんなで輪になって話を聞くのです。1年生には、今まで人生で頑張ってきたことを話してもらうというようなことをしました。最初の年はスポーツ推薦の学生が多かったという話をしましたが、彼らはスポーツを10年以上ずっとやってきているのです。だからスピーチをさせると、スポーツとの出会いから目覚め、ライバルとの出会いや指導者との葛藤、成功体験、挫折体験などをいっぱい持っていて、それを話すだけで深いライフヒストリーになります。

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多くの教員は、教科学力だけを見て、スポーツ推薦で入ってくる学生を軽視しがちなのですが、そういう学生のライフヒストリーに耳を傾けていくと、教員たちがだんだん学生をリスペクトしていく。終了後の45分間、教員が集まって情報交換をします。最初のころは1学年120人と学生数も少なかったこともありますが、先生たちは、あの学生がこうだった、この学生がこんなことを話してちょっと感動したなどということを語っていました。それが自然と学生の情報共有につながっていきました。また、1年次からこのようなことをやっていれば、4年生になって就活直前対策講座などで、自分を語る練習などをする必要がないはずです。

■実例紹介(2)−21世紀型スキル育成AO入試(コンピテンシー入試)の導入

先程、コンピテンシーという言葉が出ましたが、本学部ではコンピテンシーを評価する入試を3年前からやっています。「21世紀型スキル育成AO入試」という入試です。すでにいろいろな受験雑誌で紹介されているので、ここでは詳しいことは説明しません。ルーブリックなどの評価基準も紹介したりしていますので、よろしければそういった媒体を御覧ください。

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カレッジマネジメント「高大接続を担う入学者選抜改革の最前線」 201
河合塾Guideline「特集 高大接続改革の現在」2017年9月号
キャリアガイダンス「変わる大学入学者選抜」 vol.418 2017.7
ベネッセ 「Between」(2018 9-10月号)「入試改革特集」
(その他)
Between情報サイト「北陸大学-体験型学習を活用したAO入試で主体性、協働力を評価」2016年08月24日
Between情報サイト「北陸大学の高大接続改革―入試と教学の連動に高校教員から好反応」2018年05月17日

この入試では、1日かけてアドベンチャープログラムをやり、その中でコンピテンシーを受験生が自己評価し、評価者が観察評価し、そのギャップを見て、さらに振り返りや面談を含めてといったプログラムです。評価者たちは、朝8時に集合し、夜9時ぐらいまでやっています。

評価者は、教員と職員がペアになって、事前に研修も受けながら、観察評価をします。教員と職員が協働で受験生を評価するというのがポイントで、詳しくは説明いたしませんが、この入試を通じて、コンピテンシーの考え方が教職員の間で共有化されたというのが大きいです。職員はアドミッションだけでなく、全部署から広く参加します。進路支援課の職員も、学部の教員も、当たり前のようにコンピテンシーという言葉を使ってコミュニケーションを取っています。これらの実例の詳細は、『今選ぶなら、地方小規模私立大学!』(レゾンクリエイト)という本に書いていますので、よろしければお読みいただければと思います。

■実例紹介(3)−カリキュラムを通じた未来の汎用的技能育成

もう1つお話ししたいのは、正課カリキュラムと出口、つまり社会との関係です。本学部の前身は未来創造学部という学際的というか様々な専門が混在する学部でした。いろいろな専門の先生がいて、経済、経営、法律、会計、IT、それぞれがコース制を取っていたのですが、私はこれらを「経済、経営、会計、法律、ITは社会人のための5教科」と言いました。「高校までは英数国理社、北陸大学経済経営学部に来れば、社会人に必要な経済、経営、法律、会計、ITの5教科を学びます」と言ったら、学内だけでなく、高校の先生もなるほどと納得してくれました。これで経済経営学部のコンセプトが一気に明確になりました。

この5教科の中にITが入っているのが一つの特徴です。元々300科目あったものを200科目に減らした新しいカリキュラムでは、1年から「プログラミング入門」という科目があって、「Javaプログラミング」「Cプログラミング」「アプリ開発」などの科目も置いています。

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北陸大学経済経営学部ページ
2019年度以降カリキュラム(PDF)

1年生の前期は「プログラミング入門」しかないのですが、そうすると、1年生の学生が、授業では物足りないと言ってきて、プログラミングの同好会みたいなものをつくって、情報系の先生が面倒を見ているうちに、ビジネスコンテストに出場して入賞するということが起きました。

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今は、文系でもこういうことができてしまう学生が出てくるのです。1年生の後期の「情報学入門」という授業では、クラウドを理解するためだけに、AWS(アマゾンウェブサービス)を使って、その中でサーバを立てて、WordPressのようなCMSをインストールしたうえでブログを書くみたいなことをやっていて、授業中はかなり阿鼻叫喚の世界が広がっているらしいですが、でも学生はちゃんとついてきているそうです。もはやITは文系、理系に関係なく身につけなければいけないスキルなのです。

他にも、「統計学」や「数学」もあります。特に、統計学は全員履修です。今では、プログラミングや統計学の知識やスキルは汎用的技能といってもよいのではないでしょうか。プログラミングや統計学はもはや教養教育やキャリア教育の範疇に入ってきているとも言えます。

■実例紹介(4)−PROGテストによる就活分析

質保証という観点からみると、教育プログラムを実施するだけでなく、その結果がどうなのか、学生の成長をちゃんと評価しなければいけません。その一つの方法として、PROGテストという外部テストを使っています。今年度は、就活を頑張った学生と、就活を微妙に頑張らなかった学生、あるいは苦戦した学生を比較してみました。すると、GPAもPROGテストのコンピテンシーもリテラシーも、就活を頑張った学生は、1年生のときから全部高いという結果が出たのです。これが次の年度の学生にも当てはまるのかどうかなどをチェックしながら、教育の成果をいろいろな角度から見ています。

(次回に続きます)

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