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「科目数の少ないカリキュラムをどう作るか」北陸大学経済経営学部編その4

見えてきたカリキュラムツリー

前回の記事について、FB上で阪大の佐藤浩章先生から「リアリティがある」と褒められて気を良くしております(笑)

それはさておき、突如としてひらいめいたカリキュラムツリーとはどんなものだったでしょうか。それはこんな図です。

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たくさんの専門科目があるごった煮学部(学際的学部)のツリー構造としてはわかりやすくないでしょうか? こうやってみると、単に分野ごとに並べただけ、という印象があるかもしれません。でも実は最大のポイントは、下の方に見える「科目群」にあるのです。左から、要卒単位と関係のない「自由科目群」、次がいわゆる語学とかパンキョーと言われることが多い「一般教育科目群」、本丸の「専門教育科目群」、その右に、あまり聞き慣れない「汎用的技能科目群」と並んでいます。

科目を分野ごとに並べることはそれほど難しいことではないのですが、それらをまとめて「科目群」のラベルを貼り、全体との関係の中で位置づける(つまりは分類する)のためには、知恵を絞らないといけません。

カリキュラムの構造いろいろ

ところで、大学のカリキュラムってどういう構造になっているものが多いか知っていますか? 40歳代以上だと、大学のカリキュラムは、1・2年が教養科目(一般教育、いわゆるパンキョー)で、3・4年が専門科目だと思っている人がまだ多いかもしれません。確かに、これは戦後の日本の多くの大学で取られていたカリキュラムの配列方法です。しかし、今は多くの大学のカリキュラムはかなり変わっています。1990年代半ば以降、文部省の規制緩和(大綱化)が行われました。その結果、1年次から、教養科目だけでなく、専門基礎科目が入りこむという「楔形カリキュラム」をとる大学が増えました。

このカリキュラムツリーも、1年次からど真ん中に専門科目があるので、楔形カリキュラムの一種です。ただし、一般教育と専門教育という2つではなく、右側の「汎用的技能科目群」という項目があるのがポイントです(本当はこんな形のカリキュラムの呼び名があるのかもしれません)。「汎用的技能」とは、英語ではジェネリックスキルなどと言われることがあります。「社会でどんな職業につこうとも、誰もが必要になってくるスキルや態度」のことです。コミュニケーション能力がその代表例として言われることが多いのですが、それだけでなく、論理的思考力とか、文章表現能力なども重要です。今の時代だとICTのスキルとか統計学のスキルは、もはや汎用的技能と言ってしまってもよいのではないでしょうか。

この「汎用的技能科目群」には、ライティングなどの言語リテラシー科目や、統計学や数学などの数的リテラシー科目が入る予定です。一般的にこういう科目は初年次(1年生)だけに置かれることが多いのですが、このカリキュラムは3年次まで展開されるようになっています。つまり、専門教育を、一般教育科目とジェネリックスキル育成科目が支えるという構造なのです。

そして、全体としては、これらの科目群が相互に関連しながら、DPに向けて展開されていく、というイメージです。よく、「今の学生は卒論が書けない」っていう大学関係者がいますが、そんなのは当たり前で、卒論を書くためのトレーニングのための科目を1年次から配置してないからです。リサーチクエスチョン(研究的な問い)をたてる能力とか、論文を書くための文章表現能力なんて一朝一夕につくものじゃないし、それこそ、「問いを立てる能力」とか「論理的に物事を理解し、自分の意見を述べる能力」とかは、実は社会でマストな力なんだから、「汎用的技能科目群」は、そういう意味では、4年間の学修の集大成である専門科目の「卒業研究」を支える科目群でもあるわけです。

また、科目群が並んでいる順番も、左側が「知識・スキル重視」で、右側に行くほど「社会接続重視」になることを意識しています。DPが「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」、「主体性・多様性・協働性」という「学力の3要素」を意識して作られているので、分野の順番もそれを意識しました。

そして、科目群の一番右側に、「正課外活動」とあります。正課外活動がカリキュラムツリーに入ってくるなんておかしいと思われるでしょうが、実際には正課外活動に関する科目はありません。ただし、ここに記載している理由はいくつかあります。まず、本学部には、スポーツ推薦の学生が多くいます。実は、彼らスポーツ学生を対象として、部活の活動や経験を言語化し、成長につなげるための授業を構想していました。また、多くの学生はアルバイトにかなりの時間を費やしています。学生ボランティア等も単位化しているわけではないですが、課外活動として推進しています。これらの豊かな「経験」をみずからふりかえり、次の目標につなげるという意味で、正課外活動は、学生の成長面からみて無視できない役割を果たしています。実際、うちのキャリア科目では、アルバイト経験のリフレクションや、アルバイト先の企業分析をテーマとしたスピーチを行うことがあります。すると学生はすごくいいスピーチをします。だから、ここにあるのは、正課外活動もカリキュラムと結びついてるんですよ、学生の学習の一部ですよ、というメッセージなのです。

ともあれ、このカリキュラムツリー、我ながらよい出来だと思いました。そして、沖縄出張中に、このツリーに、それまで候補として出てきた科目を入れ込みました。これをパワポで作っちゃった僕のちまちまとした作業を想像してくれたら、それだけで僕の努力は報われます(笑)

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科目数をどう設定するか?

このたたき台を次のWGに提出しました。いままで、いまだ目の前に現れてないカリキュラムについてあれこれ議論していても、結局、話が噛み合わなかったり、現実的な話からずれていったりということもあったかと思います。しかし、このようなたたき台があると、議論は一気に進みます。

やはり、みんなのアイディアをもとに、目に見えるたたき台というか、総論的な枠組みを設定し、それをもとにみんなで議論をしながら各論に入っていく、というプロセスを繰り返していくことが、カリキュラムづくりを含めた制度づくりのポイントなのかもしれません。

ここまできてやっと、具体的な科目数をどうするか、という議論に入れます。この時点では、科目をだいぶ減らしたにも関わらず、科目数は140科目はこえていたと思います。他方で、増やしたい科目もあります。どうすれば120科目に収まるのでしょうか。

そうした検討に入る前に、もう一つやるべきことがあります。それは、卒業要件を決めることです。卒業要件とは、どの分野から何単位を取れば卒業できるかというルールです。専門科目の卒業要件をどうするかで、具体的な科目数のおおまかなイメージも決まってくるはずです。

卒業のためには、専門科目だけをたくさんとればよいのではなく、バランス良く履修してもらうことが大切です。いろいろ議論がありましたが、結局、教養と語学の「一般教育科目群」で計20単位、リテラシー科目とキャリア科目の「汎用的技能科目群」で計18単位、専門教育科目群で計62単位(ゼミを含む)、残りを自由16単位履修可能、合計124単位というようにしました。

ゼミと卒業研究を合わせて4年間で22単位です。それらを除いた専門科目の卒業要件は48単位、1科目2単位として、つまりは24科目です。4年間(日本の大学は実質は3年間ですけれど)で24科目の専門科目を履修する、ということは、専門科目はどれくらいあればよいでしょうか?

さて、いいところで次に続きます。
今回もお読みいただきありがとうございました。

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