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Photo by
uranus_xii_jp
秋の気配
八月も終わり九月になっても
まだまだ暑い日が続いてはいるものの
真夏の酷暑には
到底想像も出来なかった
湿り気を含んだひんやりとした
心地よい涼やかさを
時折吹く和やかな風の中に
わずかだが感じられるようになった月半ば
朝と言うにはもう遅く
昼と言うにもまだ早く
人々がようやく活発に動き出し
一月前よりは少し
遠慮がちになった太陽が
頭上に登り切る前の頃合い
とぼとぼと歩く私の背後から
低空飛行でトンボが追い抜いて行った
目の前でそのまま上昇しつつ
遠くに飛んで行く素振りを見せたかと思えば
トンボは突如
羽だけをバタつかせながら
ちょうど引力と斥力が拮抗した状態のように
ピタリと空中で静止した
トンボの静止とほぼ同時に
ひんやりとした心地よい
涼やかな少し強めの風が
私の頬を撫でた
私にとっては心地よい風が
トンボにとっては
行く手を遮る障壁になるのだと思うと
トンボも大変だなと
つい独り言のように
小声で呟いていた
しばらくすると風は止み
空中で静止していたトンボは
左右にサッサッと高速で短く移動した後
当初の予定通り
上昇して遠くに飛んで行った
「あんたらよりはマシさ」
雲ひとつない青い空に向かって
遠ざかっていくトンボが
吐き捨てるように
そう呟いた気がした
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