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音楽よもやま話-第7回 Awesome City Club-繰り返すアンビバレンス


2017年の秋、ドライブの休憩がてら、街はずれの中華料理屋であんかけ焼きそばを食べているとき、僕はそのバンドの名前を知った。
「今度さ、ある音楽学校の演奏会に特別ゲストでオーサム来るんだよね、行かない?」と友人Aは友人Bを誘う。知らないバンドだったけれど、僕はなんとなく仲間外れにされたくなくて連れて行ってくれとAに懇願した。

当時、僕は高架下のレンタルCD・DVDショップでバイトをしていたのだが、そういえば確かに何人かの客が時折彼らのCDをレンタルしに来ていることを思い出した。まだSuchmosが爆発的に売れる前で、シティポップが復権を果たす前のことだった気がする。


架空の街Awesome cityのサウンドトラックをテーマにした4つのCD。蛍光色を纏った都会の朝のような音楽。ネオンの海に沈む夜の街のラジオから流れているような。ということは、どこか遠くから聞こえてくる音のような。でも日本だ。けど、日本であって日本でないような、未来でも過去でもないような。ハリウッド映画がいつの時代になってもイメージする近未来の日本のような。極東オリエンタルミュージックのルーツに海外先鋭インディ音楽。
彼らが当初描いていたAwesome Cityはまさに「無国籍な過去でも未来でもない現実逃避できる街」と言っていたような気がする。
そして、当時の僕はまさにそういう街に憧れ、そういう音楽を求めていた。九州の田舎に生まれ、なぜか北海道の地方都市で大学生活を営む僕が、そういう洗練された都会の音楽に憧れないはずがない。社割で安くオーサムのCDを借りる僕に、バイトの先輩は「オーサムとか聞くんだ、似合わないね」と言った。いいのだ、音楽は聴く人を選んだりはしない。極東架空都市のゲートは開かれている。
札幌の街には、早くも木枯らしが吹いていて、誰もかれもがポケットに手を突っ込み、首に巻いたマフラーに顔をうずめ、コートの襟を立て、伏し目がちに歩いていた。そりゃ、どこかに行きたくもなる。

何度かライブに足を運び、そのたびPORINちゃんの「うそつき」に胸を射抜かれたりもする。とある日、狸小路の小さな映画館を改造したライブハウスでの公演で、atagiさんがバンドを辞めようと思っていたことを吐露した。マネージャーの顔を窺っていたから、ほんとは言うつもりもなかったのだろう。こんなんじゃだめだと思って、限界だ、もう辞めようと決意してた。だけど、Rising Sun Rock Festivalでいい音楽がやれて、北海道の人に救われた面があったんだ、と。まだやれんじゃん、と。
なんて裏も表もない代わりに、揺れやすく生真面目で正直で温かな人なんだろうと僕は思った。
そういう風に「可能性はまだある」と感じることが、前を向いて進んでいくことをどれだけ後押ししてくれることか。閉じられかけた架空都市のゲートは、大手を振って再び開かれたわけだ。

妄想ばっか膨らましてたって
現実は待ってちゃくれないなんて わかってんだ
“ダンシングファイター”

彼らの音楽がおもしろいことの理由の一つが、どんどん架空がリアルに置き換わっているようなところだ。現実が虚構を飲み込み、よりリアルで等身大の彼らが垣間見えてくる。だけど、大きく当初のバンドコンセプトを逸脱しているわけでもない気がする。街のがらんどうに響くこだまのようなサウンドを、僕がちゃんと音楽として、作品として、ちゃんと目の前にあるものとして聞き取れるようになったからかもしれない。その街の一角のClubで、飲めないお酒に浮かぶ氷を指で回しながら、今夜も僕は『青春の胸騒ぎ』を聞く。
結局のところ、足元に潜む巨大な地下空間のようながらんどうを感じていたのは、僕自身が空っぽな人間だったからに他ならないことに気づく。グラスの縁に氷が当たって、音が鳴る。あまりにも恣意的な判断かもしれないが、現実を生き抜いていくためには、常に夢のある建設的な思惟が必要だ。音楽とはそういうもので、Awesome City Clubの音楽とはそういう夢と現実、二つの相反するカテゴリーを内包する音楽に収束し、進化し、そしてまた発展していっている。まさにアンビバレンスだ。


今の彼らは、メンバーの脱退なり、レーベルの移動があったにせよ、ありとあらゆる可能性を感じて歩いているといった印象だ。地に足つけても、浮ついた気持ちで僕らに夢を見せたいのだろう。変わらずユートピアや桃源郷をこれからも変わらず歌いながら、一方で目を背けたくなるようなリアルさ、理不尽なことも歌おうとしている。それって、夜ごと絶え間なく心苦しくなるようなニュースに抱きかかえられている僕らにとって、かなりの救いになりそうだ。
好きになってよかったと思うバンド、Awesome City Club


P.S.
僕がオーサムで好きな曲

Lessonは灰色の空模様が黒くなりかけた夜なんかによく聞く。

WAHAHAは、何か嫌なことを投げ出した後によく聞く。ラップが好き。


Girls Don't Cry、エンドロールやVampire、台湾ロマンスなんかと合わせてスウィートでナイーブなPORINの歌に慰められたいときに。


Magnetはライブでのダンスが好き。都会で惹かれあう二人がくっつき、離れて、また抱き寄せ合う。色んな運命全てを肯定してあげるその思いきりの良さがポップに響いてとても好き。




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