”カレン族の蜂”、ソムラッサミーがガオプラチャンを下し、女子バンタム級で優勝~2023年9月30日のRWS
9月30日にラジャダムヌンスタジアムで、今年のRWS(ラジャダムヌンワールドシリーズ)のトーナメント決勝戦が3階級で各5回戦で行われた。
注目の女子バンタム級では、ソムラッサミー・マーノップムエタイジムがガオプラチャン・ルークサイゴンディンを判定で下して、前年のフライ級に続いての二年連続優勝を果たした。
ソムラッサミーは、これまで43勝6敗、タイ語で少数民族のカレン族系を指す「ガリアン」の初の女子ボクサーと各メディアで紹介されている。
昨年末に女子フライ級(50.8キロ)トーナメントで優勝後に、今年からバンタム級(53.5キロ)に転向し、6月のリーグ戦でガオプラチャンを判定に下した。ニックネームは蜂を意味する ”プン”で、まだ20歳。
ガオプラチャンはこれまで2度このブログで取り上げた”母親ファイター”で、ムエタイ十六人兄弟の一人でもあり、これまで34勝10敗10分の戦績を誇る23歳。
出産、子育てを経て、今年4年ぶりにリング復帰を果たし、そのストーリーは歯磨き粉「Colgate」のCMでタイでお馴染み。
妹のアイダや、アイダの結婚相手で義理の弟となるロッタンが見守る中、娘を抱きかけて入場するガオプラチャン、6月の敗戦の雪辱を果たしたいところ。
「シングルマザーファイター」対「カレン族ファイター」いう見方もできるが、もちろんそれぞれが決勝まで残った実力派。
6月の初戦は、3-0でのソムラッサミーの勝利に終わったが、競った内容で、再戦もどちらに勝負が転ぶか分からない好勝負が期待できた。
初回からガオプラチャンはアグレッシブに身体を左右に動かしながらパンチを、ミドルキックを繰り出していくがどれもクリーンヒットには至らない。
ソムラッサミーはフライ級上がりで、ガオプラチャンよりもひと廻り小さく見えるが細い身体からサウスポースタイルで鋭い攻撃を魅せる。また首相撲からのヒザ攻撃でも負けてはいない。初回を終えて3人がソムラッサミーを支持した。
2回もお互い激しい攻撃が交差するも、ソムラッサミーはディフェンスが良く、一見派手なガオプラチャンのパンチを決してまともにもらわない。2回も、3回もソムラッサミー。ガオプラチャンは良いパンチを時々もらう。
セコンドの父や兄やの激が飛ぶ。ピンクのエクステンションを編み込んだ髪も乱れてくる。一方のソムラッサミーは冷静で、第一戦と比べても攻撃をもらわず、より" 実力差" を見せつけている。「ハチ」を思わせる鋭い左ストレートが時折、ガオプラチャンの顔面を襲う。
そして最終回の第5ラウンド、残り20秒となったところでソムラッサミーの左ハイキックがガオプラチャンの顎をとらえ、フックをふるう態勢のままガオプラチャンは両手をキャンバスに着きダウン。ダメを押した。
判定はもちろん、ソムラッサミーを支持、ガオプラチャンも敗北を受け入れ、笑顔でソムラッサミーの勝利を讃えている。試合後は「ここままで終わらない。またこのリングに戻ってくる」と、早々と再起を誓っている。
ソムラッサミーはリング上のインタビューで「バンタムに上げて不安があったけど、なんとか勝ちぬけた」と不安から解放された安堵の表情を魅せた。
今回の優勝でも賞金300万バーツ(約1200万円)を獲得した。昨年は獲得した賞金で母親に家を買ってあげたという。あるスポンサーは、優勝の祝いに一家での日本への旅行チケットをプレゼントするという。
ソムラッサミーはRWSのトーナメントで2度優勝と実力もトップだが、それに加えて異色のカレン族(ガリアン)出身ファイターとしてメディアに取り上げられることが多い。
チェンマイのローカルファイターから、バンコクに進出し、チャンネル8のMUAY THAI SUPER CHAMPなどに出場、悔しいKO負けなども経験しながらキャリアを積んだ。
コロナ渦が始まるとリングに上がる機会もなくなり、収入を断たれた。父を亡くして、一家の大黒柱となった彼女は別の仕事を探し、皿洗いや工場の工員、インターネットでの商品販売などで日々を凌いだという。
コロナが沈静化すると、アマチュアムエタイ協会からの勧めもあり、アマの試合に出場し、アブダビで行われた2022年のアマムエタイ世界選手権にタイ代表として出場して銀メダルを獲得した。それから間を置かず、プロファイターとしては、スペインに乗り込んで勝利を挙げた。
それらの実績から、昨年のRWSの女子フライ級トーナメントに出場の権利を得た。それからRWSのリングで目を見張るような活躍を見せて、タイの女子ファイターの中でも、トップとなった。
タイのニュース動画でも彼女のインタビューが取り上げられていたので、その一部を紹介したい。
ムエタイを始めたのは12歳でした。家の近くにジムがあったんです。ムエタイの試合に最初に出たのは、携帯電話が欲しかったから。
お母さんにねだったところで家にはお金がありません。12歳から今まで、両親に金銭面で負担を掛けたことはありません。
デビュー戦ではファイトマネーは500バーツでした。でも携帯電話代に足りないから、3試合ほど出場して、ようやく携帯電話代が稼ぐことができました。
ネットで色々モノを売って、生活費に充てたりもしました。それからムエタイは、プロとアマチュアと両方で活動を続けました。
昨年はラジャダムヌンスタジアムで初めて女子をリングに上げるということで、女子のフライ級トーナメントが開催され、そこに出場する8人に選ばれました。そして、そこで優勝して、お母さんに家を買ってあげることもできました。
正直なことを言うとムエタイで試合をして、お金が欲しいのです。ムエタイで活躍して有名になりたいとか、他のことを望んだことは全くありません。
家族の面倒も見るためにムエタイを選びました。そしてムエタイで稼いだお金で、私自身も山を降りて、チェンマイ市内で勉強をしています。※彼女は大学に通う大学生でもある。
「山の子なんて」と差別されたことも多々ありました。※山の人=タイでは少数民族全般を指す。山の子=少数民族の子の意味。
私は今、山の下に住んで生活していますが、山の村はなかなか発展せず、道なんかも酷い状態です。政府には、もっと山の村の環境を良くしてほしいです。私たちカレン族は、深い山の中で貧しい暮らしを送っている人が多いのです。
※試合はRWSサイトでの観戦、写真はRWSとYoutubeより。また翻訳の元ネタはBradthinkmeから。photo from RWS and Brandthinkme
↑ ↑ ソムラッサミー対ガオプラチャン、試合ハイライト
↑ ↑ Bradthinkmeのインタビュー(タイ語)
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