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タイ側から見たスーパーレック対武尊戦~ONE Champinship日本大会・1月28日

ONE Championshipフライ級(ONEでは61.2キロ)のキックボクシング部門の世界王者である、スーパーレック・キアトモー9は、1月28日に東京、有明アリーナで行われたONE 165 において、元K1の3階級王者である武尊に判定勝ちを収め、ONE世界王座の防衛に成功した。

日本、そしてタイで注目されたこの一戦、勝者スーパーレックは、これで9連勝となり、ONE Championship での戦績を、13勝1敗、通算戦績は140勝29敗4分(諸説あり)とした。一方の武尊は ONEでのデビュー戦を白星では飾ることはできず、通算41勝3敗となった。

One 165の全カード(タイ版)

タイでは現在、6人のONE世界王者がおり、うち男子の世界王者は4人、フライ級はスーパーレックがキックボクシング王座を、ロッタン・ジットムアンノンがムエタイ王座を保持している。

前列左より、ストロー級(ムエタイ)プラジンチャイ、フェザー級(ムエタイ)タワンチャイ、女子アトム級(キックボクシング)ペットジージャー、後列左より、スーパーレック、ロッタン、女子アトム級(MMA)スタンプの蒼々たる面々

スーパーレックは武尊戦の前戦では、2023年9月22日にロッタンとのフライ級頂上決戦をムエタイルールで行い、これに判定勝ちを収めている。しかしこの試合は、スーパーレックに、計量時に2キロの体重超過があったが試合は強行され「本来のウェイトだったら勝敗は分からなかった」など、ファンや関係者の批判的な意見にさらされた。スーパーレックの体重超過でタイトルマッチの5回戦からノンタイトル3回戦になった経緯もある。

今回の武尊戦にあたっては「そもそもス-パーレックがフライ級の身体をつくれるのか」というのがタイのファン、関係者の関心事でもあった。幸い、ス-パーレックは、1月13日にバンコクでの、ONEのイベントであるONE fight night 18でキックボクシング世界王座防衛戦を行う予定だったこともあり、武尊とはタイプが異なるが、エリアス・マモウディ(フランス、アルジェリア)をターゲットに試合準備をしていた。

武尊対ロッタン戦が中止になる前、昨年末にエリアスは怪我を理由にONE fight night 18の出場を辞退し、メインイベントに穴が開いた。ここでONE側はエリアスの代役を探さず、セミのシャミル・ガミノフオー・ホーテックをメインに昇格させ、連続KOで話題となっているスアブラックトープラン49ステファン・コルディカードをセミに追加した。

幻のスーパーレック対エリアス・マモウディ戦ポスター

この時点でONE側は、武尊と対戦させる選手として、ロッタンからスーパーレックへの交代を決定していたと思われる。

 ↓ ↓ スアブラックがスーパーレックの実質的な”代役”を勤めた ONE fight night 18 のレポート

武尊の名前は、これまでタイではほとんど知られていなかったが、ふとしたことで知られるようになった。昨年来タイした武尊がONE 元フェザー級キックボクシング世界王者のスーパーボン・シンハ・マウインのジムで練習し、そのジムで行った、こちらもONEの元バンタム級ムエタイ世界王者のノンオー・ハマとのスパーリング動画が出回った。

”ノンオーにガチのスパーリングを仕掛けてくる、変わった日本人ファイター”ということで、メディアやSNSに取り上げられて、少し武尊が知られるようになったのだ。そしてロッタンの対戦相手ということで「武尊は、ノンオーとスパーやってたあの日本人か」と、タイのファンに武尊の名が広まった。

そしてロッタンは怪我でONE日本大会欠場となり、代わりにインしたスーパーレックもビッグネームなので引き続き注目されることとなった。

PPVはタイでは399バーツ(約1600円)で販売し始めたものの、ONEは普段は地上波テレビやネット中継で無料放送されている為か、売れ行きが思わしくなく、すぐにプロモーション価格として99バーツ(約400円)に値下げされた。

PPVは99バーツ

タイでのスーパーレック対武尊戦の戦前のネットでのファンの予想は68(スーパーレック)-32(武尊)で、7割がスーパーレックの勝利を予想していた。著名人や有名選手の予想も、ほぼスーパーレック勝利、とはいっても、武尊の過去の試合を観ずに予想していたものがほとんどだろう。

スーパーレック側の武尊戦の不安事項は、まず体重である。試合直前に現地寒い日本で体重が落ちるのか、という点だった。1月初旬に公開された練習光景では、スパーリングパートナーを勤めたバンタム級(ONEのバンタム級〜65.8キロリミット)のスアブラックと比べても身体は大きく見えて、お腹にも少々贅肉が付いていたが、日本に出発前の1月20日にはタイで3キロオーバーまでは落ちていたようだ。そして27日、有明アリーナのONE 165の前日計量にはリミット内でパスした。

ONE代表のチャトリ氏が後日話したように、それまでスーパーレックは減量面で問題を抱えていたが、今回は栄養士を雇い、新たな減量プログラムでこれまでになくスムーズに体重が落ちたとのこと。しかしながら通常時から、15キロの減量を強いられるフライ級の継続はスーパーレック側は難色を示しており、次戦以降でバンタム級に転向する可能性もある。

28日のスーパーレック対武尊の試合自体は3ラウンドに武尊にボディ責めを受けてスーパーレックが劣勢に回るシーンがあったものの、’キッキングマシーン’のニックネームの通りの激しいキックを繰り出して、その他のラウンドは明確に抑えてスーパーレックが王座防衛に成功した。

ONE日本大会、スーパーレックの入場曲はブアカーオの入場曲と同様、タイの有名ロックバンド、カラバオのバーンラチャンワンペン(บางระจันวันเพ็ญ)

試合後の会見でスーパーレックは、試合を振り返って以下のように語っていた。

日本の報道では、第3ラウンドのピンチに「漢を魅せろと思った」などど誇張された表現が目立ったが、実際のタイ語のコメントはあっさりしていた。

「3ラウンドはフットワークが使えなくなった。少しもらってしまって自分の状態を保つだけで精一杯になった。自分の意志と異なり、全身が硬直してしまった。でも、そうなったのはこのラウンドだけ、そして次の4ラウンドに入った」

「(ロッタンと武尊を比べて)ロッタン戦のほうがより疲れましたね。それはやっぱりムエタイだから。キックボクシングはパンチと脚だけですが、ムエタイは色々とできる。ロッタン戦も武尊戦もどちらも戦っていて楽しかったです。武尊もロッタンもどちらも強いですよ」

武尊はスーパーレックのキックにフルラウンド耐えたことで、タイのファン、関係者にもインパクトを与えた。なかでもスーパーレックと対戦経験のある元ルンピニー3階級王者のスアキム・PKセンチャイムエタイジムは「あれだけ蹴られたら、自分だったら2ラウンドでKOされている。武尊は素晴らしいとしか言いようがない。尊敬する」と武尊へ称賛のコメントを残している。

そしてスーパーレックが2021年2月に、ONEで唯一の敗戦を味わったのがイリアス・エナッジで、昨年はバンタム級に階級を上げてONEに復帰し、アリアスガ―(イラン)を相手にKO勝ちを収めている。今回のスーパーレックの勝利にイリアスはSNS上でスーパーレックへのメッセージを投稿、「一番になるには私を倒さないといけない。また対戦しましょう」と再戦を呼び掛けている。

ONR側は、ロッタンとの再戦、また武尊との再戦がより話題になるからフライ級で継続させたいと思うが、果たしてどうなるか。

今回のスーパーレックのファイトマネーは、推定700万バーツ(2800万円)で、ONEによると、次戦からは、1000万バーツ(4000万円)となる見込み。

↓ ↓ スーパーレックの試合後会見Youtube(タイ語)

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