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【映画感想文】世界で一番美しい少年 The Most Beautiful Boy in the World

どこぞの映画館にあったポスターの少年のあまりの美しさに目を奪われ観に行ってしまいました。

そんなきっかけで観に行ってしまったことを心の底から申し訳なく思った。そんなドキュメンタリー映画でした。

!映画の内容に触れていますので、観ていない方はお気をつけください!

イタリア映画界の巨匠ヴィスコンティが『ベニスに死す』を映画化するにあたって、ヨーロッパ中でイメージに合う少年をオーディションで探し回り、抜擢されたのが、後に「世界で一番美しい少年」ともてはやされることになるこの物語の主人公。ビョルン・アンドレセン。

15歳で「世界で一番美しい少年」の称号を手にしてしまった少年は、それから50年経って今何をしているのか。

66歳になったビョルンの現在と、過去が交差しながら物語は進んでいきます。

この映画を観るまで、ルッキズムというものをあまり真剣に考えたことがなかった。

人並みに、誰かの容姿を貶すような発言はしないように、とか見た目が全てじゃない、とかそんな価値観は持っていますが、それはあくまでもいわゆる「よくない」とされているものに対してのみ、私が持っていた価値観だったのだと気づいた。

綺麗なもの、美しいもの、美人、イケメン、そうゆう類のものに関しては別に綺麗、かっこいい、かわいい、そうゆう言葉を遠慮なしにぶつけていいものだと思いこんでいたし、正直、美人とかイケメンだとか容姿に対する褒め言葉に対して過敏に反応する人に対して「別に美人なんだから、イケメンなんだから、ありがとうございますでいいじゃない」と思っていた自分がいたんだなと気付かされた。
うまく言えないけれど、人の容姿に対して自分の価値を押し付けること自体が、そもそも間違ってることなんだとやっと腑に落ちた。
綺麗だろうが汚かろうが、それは私の価値観であって、人の持っているものに対して軽率にそのラベリングをしてはいけないのだと。


映画の中で当時のオーディションの時の映像が流れるんですが、その時のビョルンは本当に息を呑むほどに美しく、誰もが魅了されずにはいられない妖しげな魅力を放っていました。

端正な顔立ちにどことなく影を潜めたような瞳。すらっと伸びた手足。透き通るような白い肌に、美しいブロンドの巻き髪。

これを美しくないと言ったら多分嘘になるだろうという、圧倒的な美しさ。
でもその美しさが、彼の人生を狂わせることになる。

元々彼はそのようなことに興味はなく、自分がそのように特別な存在だとも思ったこともなく、ステージママ的な祖母に半ば無理矢理オーディションに参加させられたそう。
オーディション中、突然監督にセーターを脱ぐように言われて不安そうにキョロキョロする姿がとても切なかった。
そりゃいきなりそんなこと言われたら怖いよ・・
※ちなみに監督は同性愛者の方でです。

たった15歳の少年は、よくわからないままに大人の世界に放り投げられ、彼らの食い物にされて、そして捨てられます。
映画を撮り終わり、16歳になったビョルンを連れてワールドプレミアに参加した監督は、ビョルンがフランス語をあまり理解していないのをいいことに「彼は15歳がピークだった。あの頃は本当に美しかったが今は歳をとってしまってもうだめだ」と言った発言をして、馬鹿にしたように笑っていました。記者も笑ってた。
その横で、困ったように笑うビョルンが切なかった。

その後、監督が所属する富裕層のゲイコミュニティに放り込まれたりしながらも、ビョルンは祖母のすすめで日本で活動をすることになりますが、そこでもとんでもないアイドル的な扱いを受け、
よくわからないままに写真を撮られ、よくわからない日本語の歌を歌うことになり、そして、精神が不安定にならないようにたまに薬も飲まされていたと告白していました。
祖母は、大スタービョルンの祖母となりとても喜んでいたそうです。

美しいともてはやして自分の作品のためにいいように使い
孫の活躍を見て自分もスターになったように感じ
まだ年端も行かない男の子を囲んで夜の街に連れ出し
そして、何もわからず一生懸命言われたことをやる少年を金儲けの道具にする

彼の人生は、大人たちに食い尽くされていった。

当時、誰か一人でも、本当に彼のことを心配して、守って、
子供なんだから、って言ってくれる大人がいたら。


ここでお母様の話を。お母様は彼が有名になるよりも前に亡くなっています。
お母様は旅をされてた方で、ビョルンの父親は誰かわからないそうです。そして、ある日母親は失踪します。

そして、彼が10歳の頃、森の中で死んでいるのが発見されます。自殺でした。

あまりにも悲しい。
これがドキュメンタリーだとは信じたくないほどに悲しすぎる。
他人の人生に対して失礼な表現なのは承知で、あまりにも悲しい人生。

母の死は彼の心に確実に暗い影を落としました。
でもそれがまた彼の魅力になってしまったのかもしれない。
オーディションの時、他にも可愛らしい少年たちがたくさんいたのですが、なんか全然違った。影がある感じというか、どこか少し寂しそうな感じというか。悲しい。

しかもビョルンさん、20代の時に一度結婚されててお子様が二人いらっしゃるのですが、うち一人のお子様を、小さい頃に亡くされてるんです。(その頃は酒に溺れており、あまりちゃんと子供のことを見れていなかったとおっしゃってました)

なぜ彼ばかりがこんなにたくさんのことを背負わないといけなかったんだろう。

今は音楽のお仕事などをされながらパートナーの女性がいたりしてらっしゃるのですが、なんか66歳とは思えないくらいに、すごくあどけない感じがするというか

何だか常に不安そうに見えました。

普通の人が普通に経験できることを経験できなくて、普通の人は普通は経験しないことばかりを経験してしまったから、
ずっと大人たちに何かを奪われ続けてきたから、登るべき階段を登れずに、彼の心はずっと15歳の頃のままなんじゃないだろうかと思った。

人生は失いすぎると、何も期待しなくなる
死にはしないがそのまま消えたくなることがある

そんな言葉を言わせたのは誰だ

ドキュメンタリー映画はほとんど見たことがないのですが、何も事前情報がなくてもわかりやすくできていました。
ただ、とにかく観終わった後の、憤りと、何とも言えない悲しさと寂しさ。

彼が、かわいい男の子のままで、ちゃんとした15歳の少年として扱われて、好きな音楽をやって人生を送っていたとしたら。

最近進撃の巨人をやっと全部読み終わって同じこと思ったんですけど、
15歳なんて、めちゃくちゃ子供や。

どんなに見てくれがよかろうが、背が高かろうが、意志が強かろうが、落ち着いていようが、ただの子供。

それを大人は忘れてはいけない。ただの子供なんだよ。私も15歳の頃とか一人で新幹線にも乗れなかったし、たかが福岡→大阪に受験に行くだけでも母親についてきてもらってました。(だって不安だったもの)
15歳なんて本当にオムツが取れたばかりの子供。


正直に言って、あの息を呑むような美しさに出会ってしまったら、何かが狂わされてしまう気持ちはわからなくはない。
それほどに本当に美しかった。映画を撮りたくなるのもわかるし、きゃいきゃい騒ぎたくなるのもわかる。すれ違い様にコレクションのために髪を切ろうとするのはわからん。(日本でファンの女の人に髪を切られそうになったらしい・・)

でも、子供だから、彼のそばにいる大人はちゃんと彼を守ってあげてほしかった。特に芸能界というか人前に立つ仕事なんて、まだ自分の心が出来上がってない頃に放り込まれていきなりスターダムにのし上がってしまったら、周りの大人がちゃんとしてないと、どんな人間でも変な方に転ぶに違いないさそりゃ。
そう考えると芦田愛菜ちゃんってすげえな・・・

どうか、彼の残りの人生が、少しでも、心穏やかであるように願う。

誰にも波風を立てられることなく、誰にも何かを奪われることもなく

そんな人生が彼のもとにありますように。







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