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#0053 ヤバ銀シリーズ:銀行員のリアル

まちづくり専門家の木下斉さんが、「ヤバい銀行から預金を守れ!!」というタイトルで3回、有料放送2回の計5回に亘って、銀行を取り上げていました(初回放送リンクを貼っておきます)。

私のキャリアは銀行員から始まったので、とても懐かしく時に笑いながら聴かせていただきました。

一般に、銀行員という職業は、フォーマルなスーツに身を包み、安定と信頼の象徴とされがちです。しかし、この職業の実態は、よくあるイメージとはかなり異なる面が多々あります。本記事では、銀行員の日々の業務、彼らの仕事にまつわる一般の方が抱きがちな誤解とギャップにスポットを当て、銀行の内側を詳しく探ります。銀行員という職業の真実に迫ることで、読者の皆さんにこの職業への新しい理解を提供できたらと思います。(2973文字)

○銀行員の日常業務

銀行員の一日は、支店などの現場、営業本部や国際部門等によって、多くの人が想像するよりも多様で複雑です。私は中小企業を担当する行員でしたが、彼らの主な業務には、顧客対応(法人・個人)、資産管理(法人・個人)、融資の審査、与信管理、リスク評価、財務分析、融資事務、横串(部店の目標項目ごとに担当がおかれ、それぞれの項目[預金、融資、運用、外為、デリバティブ等]の目標達成に向けたロードマップの作成や施策展開を部店長の名代で実施します)などがあります。

これらの業務は、高度な専門知識と緻密な判断力を要求されるため、日々の業務は常に変化に富み、挑戦的です。特に中小企業オーナーは、経営方針や性格など多種多様で、真正面から向き合うには胆必要です。単に話し相手が欲しくて数時間に亘って拘束されたり、ねずみ講のような怪しいビジネスをやっている社長だったり、元銀行員でマウントを獲ってくる社長や、江戸時代から続く企業で大した能力もないくせにプライドばかり高いボンボン社長など、動物園よりも多種多様な担当先を新人の頃は30社程度、5年目くらいには上場企業や回収先も含めて80~100社程度担当します。朝は早いし、日中は社長に拘束されるし、夕方は残った事務タスクに追われ、夜は社長や先輩行員に連れまわされるという地獄のような毎日が続いていました。

最近は、デジタル技術の進化に伴い、銀行業務も大きく変化しており、本部機能から徐々に適応を進めていると聞きますが、昨今は銀行の就職人気が低迷している影響で、優秀な人材が獲得できず、現場は結構疲弊していると聞きます。銀行を退職した人との接点を求め、Uターンを推進しているのもこうした背景があろうかと思われます。

○誤解と現実

一般に銀行員は安定した職業と見なされがちですが、実際には高いストレスとプレッシャーが伴います。特に、私の経験から言えば、上司や先輩行員からの「ババ詰め」と呼ばれる、部下を精神的に追い詰める行為が伝統的に横行していました。このような厳しいノルマと精神的圧力のせいで、良心が蹂躙され、多くの同僚が精神的な変調を来していました。例えば、支店のエースと呼ばれた先輩が、取引先の会社で倒れて救急車で運ばれ、その後はPC作業中に気付かず嘔吐するといったエピソードもありました。

精神疾患に苦しむ同僚は少なくなく、彼らの机の中は薬でいっぱいでした。精神疾患になると、外訪や顧客折衝ができず、電話応対すら困難になります。その結果、内部でのPCによる事務作業のみを行うか、事務センターやシステム部への異動を余儀なくされることがありました。正直、当時の銀行はシステム部門をかなり軽視していたと思います。このツケを今になって必死に返そうとしているように思います。

また、私が入行した直後にリーマンショックが勃発し、先輩行員たちが無理やり取引先に導入したデリバティブ商品が爆発し、トラブルシューティングに明け暮れました。デリバティブを無理やり導入し、莫大な損害を負わせた取引先は、多くが出禁になりましたが、先輩行員は出禁になった取引先を新人に担当させ、出禁解除まで執拗にババ詰めを行っていました。貿易のない肉の卸売会社やファミリーレストランを経営する会社に通貨オプションを売ったり、実需がないのにセールスしていた事例が昔はたくさんありました。

さらに、保証協会保証付きの融資では、真面目な与信判断が行われていないことが多く、東日本大震災特別融資枠(保証協会)の営業では、震災の影響を受けていない企業に対しても、減収理由を無理やり震災の影響にして特別融資を受けさせる営業が行われていました。

このような実体験を踏まえると、銀行員の仕事は精神的にも肉体的にも要求が厳しいものであり、ワークライフバランスの維持も大きな課題であることが明らかです。この記事を通じて、銀行員という職業の多面性と、その背後にある現実を理解することができたでしょう。

○キャリアパスと成長の機会

銀行業界では、多様なキャリアパスが存在します。一部の銀行員は顧客対応や資産管理に専念し、他の者はリスク管理やコンプライアンスなどの専門分野に進むこともあります。また、継続的な学習と専門性の向上は、この業界で成功するために不可欠です。銀行員は常に最新の金融知識を身につけ、変化する市場環境に対応する能力を磨く必要があります。今も銀行に残っている元同僚には、外資系金融機関から目が飛び出る程の年俸を提示されても断っている者もいます。彼らは志高く海外で活躍しています。多くの同期はすでに退職し、スタートアップや税理士などの士業で活躍をしています。

○業界の未来と変化

デジタル化の波は、銀行業界にも大きな変化をもたらしています。フィンテックの台頭により、従来の銀行業務はより効率的かつ顧客中心のサービスへと進化しています。これにより、銀行は新しい技術を取り入れ、柔軟な思考と革新的なアプローチが求められるようになっています。将来的には、AIや自動化技術の更なる進展により、銀行業界の仕事のあり方も大きく変わることが予想されます。

とくにPayPayなどの送金サービスは、銀行のトランザクション収益や与信管理に大きな影響を及ぼすように思います。また、バブル崩壊以降、銀行員の与信判断能力は格段に落ちたと、昭和ひと桁生まれの元銀行員の社長によく言われていましたが、銀行員の与信判断・財務分析の能力もAIの出現によってかなり淘汰されるような気がします。中小企業の社長の相手だけでは、なかなか収益は獲得できませんので、私が在籍していた時期から、かつて花形と呼ばれた法人営業はお荷物になりつつありましたので、とくにメガバンクは国内よりも海外に軸足をシフトしていくのではないかと思います。国内に釘付けにされている地銀は非常に厳しい戦いを強いられると思います。

○まとめ

今回の記事では、銀行員の日常業務、職業にまつわる誤解と現実、キャリアパス、業界の未来という観点から、銀行員のリアルを指が動くままに綴りました。銀行員の仕事は多様で挑戦的であり、高い専門知識と適応能力が求められます。また、デジタル化の進展により、業界は常に変化しており、銀行は新しい技術を学び続ける必要があります。この記事を通じて、銀行員という職業の多面性と、その背後にある現実を理解いただけたら幸いです。
また続編を書きたいと思います。

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