冬の風景
四角い花のモチーフを繋いだ毛糸の上掛けと布団を捲ると奥の方に火鉢が置いてある。
記憶の片隅に残る一番古いこたつの映像。
赤外線の赤い光に照らされることもない薄暗いこたつの中は、今のフラットヒーターのそれに似てるかもしれない。
足を伸ばさないようにというのが、その頃の決まりというか、親の教えだった。火鉢に足があたると火傷してしまうから。
足があたらないようにおそるおそる、少しでも長く足を伸ばせるよう向きを探った。
こたつの中には、時折り火鉢以外の物も紛れ込んでいる。
乾き損ねた洗濯物、着替え用の下着やパジャマ、それから毛布で厳重に包まれた大きな塊。
………
スーパーの売り場で麹を見かけた。
面倒なもの、手のかかるものとして敬遠していた麹を手にその日は帰宅した。
醤油麹を作ろう!
その日はそう思い立ったから。
醤油と混ぜて待つだけでできるらしい。私は塩麹より醤油麹の方がお気に入りだった。が、最寄りのスーパーではすっかり見かけなくなってしまった。あれから何年?自分で作ろうと思い立つまでなんと時間のかかったこと。
とはいえ、初めての醤油麹作りに麹一袋を注ぎ込む勇気はまだない。
あくまでも実験。そう、まだお試しなのである。
醤油麹は100gでチャレンジすることにして、残りの麹をどうしようか?
…というところで、祖母や母がよく作っていた甘酒を思い出した。
そう、記憶の片隅に残る毛布に包まれたあの物体は、発酵中の甘酒。
甘酒を作ろう!
今時は色々便利になっているから、簡単に出来るようになっているはずとレシピを探す。
必要なものは、ヨーグルトメーカー もしくは炊飯器
とどのレシピにもたいてい書いてある。
ヨーグルトメーカーなんてない。炊飯器はまだある。じゃ、炊飯器で作るかと、つらつらと考える。
炊飯器の保温設定は、機種によって様々なので布巾などを掛け蓋を半開きにし、1時間おきに温度管理などと書いてある。
ということは、一番必要なのは温度計ってことだ。温度計なんてヨーグルトメーカー以上に我が家には必要のないもの。
は?買うの?探しに行くの?台所遊びのために温度計?
いやいや、アタシは、今作りたいんだよ。
諦めの悪い奴は、その後もネットを流離まくって「温度計なしでの60度のお湯の作り方」なるものを探し当て、ついでに水筒でも可能だと知る。
我が家にある水筒は、500ml。これだと麹の限界量は何gだ?完成品の嵩を明記してるレシピって少ないよね…麹って発酵するとおそろしいほど嵩が増えたりするのか??
ええーい!!やってみたらええだけやん!(もう色々と面倒臭くなってきてる)
で、実験。
材料 麹 100g
湯 50ml
水 50ml
沸騰させたお湯に水を加え温度を下げてから麹を投入して馴染ませ、予め温めておいた水筒に流し込む。
きゅっと蓋を閉めて8時間放置。
4時間ぐらい経って蓋を開けてみると少し温度が下がってる感じがする。
水筒の中身を小鍋に開け極弱火で少し加熱。指で触れる程度の「あつっ!」が60度ぐらいだということなので、指先で温度確認。
また、ドボドボと水筒に戻して残り4時間。
結果…
無事に2人分の甘酒にはなった。
水筒では大量には作れない。けど、甘酒とはこれぐらいの距離感がいいかもしれない。
寺社の門前で、市販のパックで、様々な場面で何度か甘酒を飲んできたけれど、手探りで作った今回の甘酒が、祖母や母の甘酒に一番近かった。母はお粥を混ぜていたように思うけど、もしかしたら祖母は麹だけだったのかもしれない。
やってみてわかった甘酒の温度管理。大事なのは、60度を超える熱を加えないこと、ただそれだけ。
温度が低い時は、幾らでもいつでも追い熱すればいいようだ。
なぜそれじゃないとダメなのかが分かるだけで、肩の力は随分抜ける。それは絶対なのか、それとも許容範囲はあるのか…
温度管理が成功の秘訣!とどのレシピにもあったけれど、祖母も母も片手間でむしろ手を掛けなくていいからと甘酒を作っていた気がする。仕込んで放置で出来るものとして。手仕事って本来そういうもののはず。
本来夏の飲み物だというのも、そういうところに理由があるのかもしれない。夏場なら発酵は進みやすかったろうし。
来年の夏、冷たい甘酒もいいかもしれない。
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