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青い花はない

あの女性(ひと)はないと笑った青い花今を盛りと野辺に溢れて


「青いお花なんてないよ」

大好きだった担任に言われた言葉。

どんな時でも優しくて、悪戯ばかりする男子にさえも声を荒げることはなく、ちょっと困ったような顔をして笑っているような綺麗な女の先生だった。
たしか、小3か小4の頃。図工の時間。
水彩絵の具を使った授業だった。その日充てがわれたテーマみたいなものは、もう忘れちゃったけど。

青い花なんてない

この言葉にかなり衝撃を受けた記憶がある。

え?!ないん?
アタシないものかいてるん?
それ、あかんやん
どーしょー


無い花をかいた
無いものをかいた
無いものをかいた
ないものをあることにした
これはうそ?

嘘つきは泥棒のはじまりになってまう

と思ったかどうかまでの記憶はないけれど、たぶん感覚的にはそんな感じ。

叱られたわけじゃない、怒鳴られたわけじゃない。
でも、なんだかとんでもなく悪いことをしたような気分になった。

してはいけないことをした という罪悪感のようなものが湧いてきたのを覚えてる。

たぶん、彼女は相変わらず笑っていたんだと思う。
でも、それさえも怖かった。

大好きでいつも纏わりついていた女性。
教室の端から名前を呼んで振り向いてくれる。
それが嬉しかったのに。


これが事実でないことは、落ち着いて考えればわかることなんだけど。
紫陽花だって露草だって、青と言えば青。
園芸品種が今ほど多くない昔でも、紫陽花や露草ぐらいはアタシの町にも咲いていた。


だけど
あの先生何も知らないんだ…
とはならなかった。
正しいか正しくないか なんていうのとは、全然違う感覚。

青い花はない

この言葉は結構引きずった。
好きな人に全面否定されたという最初の記憶かもしれない。

この後長い間、実際に在るのか無いのか問題が、かなりの割合を占めてしまっていたようにも思う。

実際、青い花をかくのを未だ少し躊躇う。



幼い頃に大人(と、こちらが思っている人間)から言われた言葉って、未だにプスプスと燻っていて、何かの拍子に吹いたちっぽけな風のせいで、急に青い火がふわっと燃え上がったり、チロチロと小さな火のままでこちらの様子を伺ってきたりする。
擦り傷に風が染みるほどの感覚でチリチリと蘇ってくる。



耳元で囁く声に全世界丸ごと弾き飛ばされた日

微笑んで小さくなったその目にはきっとアタシは映っていない




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