何もいらない


空気を孕んだまましなやかに動く指先をただただ眺める
視線を落とした睫毛の先のその影に気づく

欲なんて知らないふりをした横顔と
すべての光を仕舞い込むような目と
そこに掛かる前髪と
すっと口角をあげゆっくり繰り出される音の中に潜む地熱のような温かみと

何を見
何を思い
何を見据え

語り合おうなんて思わない


微かに上下する喉元や
三本の指でくられる本の頁や

そのひとこまひとこまをただただ拾い集め、時折り瞼の裏で連続再生する。

それだけでいい。
いいえ
それがいい。

あぁこれが愛しさというものか

身体がふぅわりと軽くなる








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