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海老名|ロマンスカーミュージアム|オレンジの流線形が紡ぐ旅の夢


こんにちは。CONOMACHI STORIES編集部です。

旅を楽しむ電車として人気を博してきたロマンスカー。
鮮やかなオレンジ色の流線形の車体がハイスピードで駆け抜ける姿は、多くの方の夢やあこがれであり続けています。
そんなロマンスカーの魅力を伝える「ロマンスカーミュージアム」が海老名にあります。
ロマンスカーの運転士として長年勤務し、現在は館長として活躍する高橋孝夫さんにお話を伺いました。

ロマンスカーミュージアム館長 高橋孝夫さん

■「常設でロマンスカーを観たい」という声からスタート

ロマンスカーミュージアムは2021年4月19日にオープンしました。
以前はイベントでロマンスカーや通勤電車などを公開していましたが、お客様から「常設で観たい」という声が多く寄せられたため、2011年から本格的にミュージアム建設の検討を始めたそうです。

海老名駅に隣接する海老名検車区に面し、床延面積約4,300平方メートル、地上2階建ての屋内常設展示施設が造られました。「"子ども" も "大人" も楽しめる鉄道ミュージアム」をコンセプトに、新たな街のシンボルとなっています。

小田急線海老名駅の西口に直結し、雨風にあたらず入館できます

■大切に保管されてきた車両たち

ミュージアム内は小田急電鉄の歴史に沿って順路が設定されています。1階の「ヒストリーシアター」には、1927年の開業から1960年まで活躍した車両「モハ1」が展示されています。

「稲田登戸」は現在の向ヶ丘遊園駅です

モハ1は引退後に熊本電鉄で使用され、1981年からは相模大野の車庫に保管されていました。

(高橋館長)
「古い車両を保管することはとても難しいのです。戦後、小田急沿線の人口は増加し続けてきました。通勤・通学など沿線の方の重要な移動手段を担うために列車本数を増やさなければなりませんが、そのためには車両の数を増やす必要があります。しかし引退後の使わない車両が車庫にあると増車できないので、廃棄せざるを得ません」

(高橋館長)
「先輩社員の皆さんがどうにか工夫して古い車両を残し、各車両基地に大切に保存していました。そのおかげでどの車両も非常に良好な状態に保たれていました。沿線の方々の思い出や記憶の中に残る姿を『いつか観ていただきたい』という願いがあったのでしょう」

「ロマンスカーギャラリー」には、SE(3000形)や小田急初の展望車NSE(3100形)など歴代のロマンスカーが5車種展示されています。

複数の車庫に保管されていた車両をミュージアムへ搬入する作業は、大変な苦労だったそうです。

(高橋館長)
「自走できない車両を他の車両にけん引させて運んだり、クレーンで車両を持ち上げてミュージアム内に搬入したりと大掛かりな作業でした。最終電車の通過後に行ったのですが、安全確保のため非公開だったにもかかわらず多くの鉄道ファンが見学に集まり大変なにぎわいでした」

待ち望まれてようやく誕生したミュージアム。光に照らされて輝く車体の一つひとつに、たくさんの熱い思いが込められているように感じました。

■様々な想像をかきたてるジオラマ

2階には「ジオラマパーク」があります。新宿から小田原・箱根・片瀬江ノ島までの小田急沿線を忠実に再現した巨大な鉄道ジオラマです。10車種のロマンスカーと5車種の通勤車両が、都市・山・川・海など多様な沿線の風景の中を駆け抜けます。

街並みは80分の1、建物は200分の1ほどのサイズで精密に作られています。ストーリーのある演出がされており、沿線の朝から深夜までを表現した2種類のジオラマショーを楽しめます。

(高橋館長)
「夕方になり窓に明かりが灯ると、このビルの人は残業しているのかな、この家では晩御飯の支度をしているかなと想像して、沿線の方々の暮らしに思いをはせたりします」

小田急沿線ならではの楽しいギミック(動く仕掛け)もあります。片瀬江ノ島駅最寄りの新江ノ島水族館では昼間の時間帯はイルカショーを開催しています。相模大野駅最寄りのJAXA宇宙科学研究所の上空には小惑星探査機「はやぶさ2」が飛んでいます。

東京農業大学がある経堂駅付近では大根踊りをする学生がいます

45分に1度ショータイムがあり、新宿から小田原・箱根までの旅をテーマにしたプロジェクションマッピングとオリジナルソングが流れます。

(高橋館長)
「ロマンスカーでの旅の気分を味わっていただける演出です。オリジナルソングの歌詞には、小田急線の駅名数の『70』や先頭車両の形状である『流線形』など小田急線やロマンスカーにまつわる言葉が登場します」

■ロマンスカーの魅力とは

小田急電鉄に入社以来鉄道業に携わってきた高橋館長。ロマンスカーの魅力に気づいたのは入社1年目の駅員勤務の時だったとのことです。

(高橋館長)
「駅を通過するロマンスカーを見て、子どもたちが『ロマンスカーだ!』と大きな声で叫んでいたのです。その喜ぶ姿と、オレンジの流線形の車両が走り抜ける様子を間近で見て、初めて私も『かっこいい!』と思い、運転士を目指すようになりました」

高橋館長がロマンスカーの運転士になって最初に乗務したNSE(3100形)

しかし、運転士になってもすぐにロマンスカーを運転することはできなかったそうです。

(高橋館長)
「ロマンスカーの運転士になるには『3年間無事故で勤務態度が真面目であり、上長からの推薦があること』という条件がありました。ロマンスカーを運転できて初めて運転士として一人前という思いもあり、同期の仲間で励ましあって努力しました」

晴れてロマンスカーの運転士となった高橋館長は、ロマンスカーミュージアムに展示してある全車種に乗務し、後進の教育担当を務めた後、ロマンスカーミュージアム館長に着任されました。

高橋館長は、ロマンスカーには「乗り物としての魅力」「非日常へと誘う魅力」があるとおっしゃいます。

1957年にデビューしたSEは戦後の航空技術を活かして開発され、1964年に開業した東海道新幹線(0系)の誕生にも影響を与えました。SEは狭軌(※)の車両として当時世界一の時速145キロを実現するなど、日本機械学会の機械遺産に2023年8月に登録されました。
※ 狭軌(きょうき) 鉄道における線路のレール間隔のこと

高速走行の技術や乗り心地なども追求されてきました。

(高橋館長)
「時代とともにロマンスカーの姿かたちは変化していますが、『旅を楽しむ』というコンセプトは一貫しています。最大の特徴である展望車は最新車両にも引き継がれており、かつては2階建て車両やテレビ付きシート、個室などを備えた車両もありました」

乗る人にときめきや感動を与えて旅という非日常に誘うロマンスカーは、小田急の特急列車の名称として広く全国に知れ渡ることとなりました。

眺望性に優れた大きな窓と乗り心地を追求した「連接台車」が特徴的なHiSE(10000形)の説明をする高橋館長

■海老名のまちとつながる

ロマンスカーミュージアムが海老名に建設されたのは、駅近くにある海老名検車区に面していますが他にも理由がありました。

(高橋館長)
「小田急電鉄では乗降客10万人を超える駅を集客フック駅と位置づけ、街の賑わいづくりに積極的に関わりたいと考えています。海老名市の人口は約14万人、小田急線海老名駅の一日乗降客は10万人超です。東口に比べて栄えていなかった西口にミュージアムを建設したのも、街の賑わいづくりに貢献したいという思いがあったからです」

ジオラマのなかの海老名駅周辺の様子。手前が東口、奥が西口

(高橋館長)
「市内の中学校の職業体験や、幼稚園・保育園の見学も受け入れています。今後は地元企業とも連携し、街とのつながりを更に深めたいです」

■“子ども”も“大人”もみんなが楽しめるミュージアムへ

「キッズロマンスカーパーク」には、ロマンスカーアスレチックやロマンスカーシミュレーターLSE(7000形)など、子どもの好奇心を満たすたくさんの遊びがあふれています。

紙でできた街の中でペーパークラフトのロマンスカーを走らせることができます
インタラクティブアート「電車とつくるまち」では、壁に触れると街並みや電車が現れて動き出します

屋上の「ステーションビューテラス」は、海老名駅全体や行き交う電車を見渡すことができ、鉄道ファンにはたまらない場所です。

(高橋館長)
「館長になって『どうしたら幅広い層の方に"ワクワク"を感じていただけるか』と考えるようになりました。鉄道業はお客様の安全を守ることが第一です。でもミュージアムでは、安全に十分配慮しながら、従来の発想の枠を超えてワクワクするコンテンツを創造していくことが大切です」

(高橋館長)
「お客様の声を伺いながら、“子ども”も“大人”も楽しめる笑顔あふれる空間をこれからも創っていきます」

2023年12月には入館者数累計50万人を突破し、2024年4月には開業3周年を迎えられます。現在記念イベントを計画中で、今後公式ホームページやSNSを通じて詳細をお知らせしていくそうです。
幅広い世代に愛されてきたロマンスカー。
ミュージアムがたくさんの夢やあこがれを紡ぎ、海老名の街を賑やかに盛り上げていくことが期待されます。

高橋館長、貴重なお話しをありがとうございました!
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。