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進化が求められるクリエーターという仕事

3歳児の落書きレベルの絵をリアルな風景写真に変換できる驚異的なお絵かきAIがあります。NVIDIAが開発したGauGANという技術で、こちらの動画でその驚きの変換性能を見ることができます。

他にも、出だしの一文さえ書けばそれを元に記事をまるまる書き出してくれるような自動文章作成ツールもあります。ちなみに、こちらのGPT2は、あまりに精度の高い文章を生成するため、悪用された場合のリスクが高すぎるということで、技術詳細の論文公開が延期されるほどです。

音楽においても、イメージビデオのBGMなどで使えるような著作権フリーの楽曲をAIが即座に作曲してくれるAMPER MUSICというサービスが登場しています。

こうした創作領域でのAI活用はまだまだ始まったばかりで、現時点ではあくまで補助的な使い方しかされていませんが、飛行機がプロペラ機から音速ジェット機に進化したように、将来的には人間とAIが創った作品の区別がつかなくなるでしょう。

芸術性や審美性の観点から、AIの作り出したコンテンツを作品としてみなすべきかどうかという議論も大変興味深いのですが、より客観的な問題として、AIの創作に著作権を認めるべきか、という議論があります。

法律的な解釈については、こちらの「AI(人工知能)の法律問題【著作権・特許権】を弁護士が解説」という記事が非常に分かりやすくまとまっているので詳細はこちらに委ねるとして、結論から言うと、少なくとも日本の法律においては、完全にAIが単独で作り出したものに関しては、基本的に著作権は認められません。

人間と同じレベルのクオリティの作品をAIが作り出せるということは、全体的な創作コストが下がることを意味するわけですが、その低コストの創作物に著作権が認められないため、無償利用可能な創作物が大量に出回ることになります。それはつまり、希少性を前提に著作権によって守られた「クリエーター」というビジネスは、このままでは成り立たなくなるということでもあります。

例えば、ある小説が大ヒットしたとします。そのヒット小説をAIに解析させ、登場人物や時代背景などを微妙にアレンジした小説を書かせる(著作権侵害にならないギリギリのラインまで変更するようチューニングする)と、オリジナルほどではないものの、そこそこ面白い作品が出来上がるようになります。この仕組みを、最新のヒット作だけでなく、過去の小説も対象に入れて回すと、そこそこ面白い「オリジナル作品」が超低予算で大量生産できるようになります。そのような技術が出来上がる頃には自動翻訳の精度も凄まじいレベルになっているでしょうから、そういったAI制の自動小説は当然あらゆる言語で読めるようになります。ここでポイントとなるのは、このAI小説は著作権の保護対象にならない、基本的には無償利用可能な作品であるということです。

そこそこ面白い作品がいくらでも無料で手に入る。それも、小説だけでなく、アニメや漫画、最終的には実写映画(厳密にはほぼ実写のCG映画)すら、AIがすべて自動生成できる未来が確実に来ます。そのような世界において、お金を貰えるクリエーターと貰えないクリエーターの違いはどこにあるのでしょうか。少なくとも、楽器がうまいとか絵がうまいといったテクニックの問題で無いことだけは確かです。

自動生成されたコンテンツが氾濫する未来においては、今以上に創作物そのものよりも作家自身、コンテンツではなくクリエーター個人を好きかどうかが重要になります。「この絵が好きだから買う」ではなく、「この絵を書いたこの作家が好きだからお金を払う」になっていきます。絵画自体のクオリティではなく、その画家の生い立ちやライフスタイルといったストーリー、風貌やファッションセンスなども重要になってくるでしょう。結局のところ、創作物の商品性が著しく低下する世界においては、創作者自身がコンテンツになる以外に、お金をもらうことは極めて難しくなるということです。もはやコンテンツは、その作家が自身の個性を世に知らしめる伝達手段の一つでしかなく、それだけで収入を得ることは現実的ではなくなってきています。

音楽業界においてはすでに随分前からこの傾向が顕著だったと思いますが、それが他のあらゆる創作分野においても広がってくるでしょう。そして、漫画家のアシスタントやゴーストライターといった、作家として表に出ずに創作活動をサポートするような仕事は、10年以内に無くなる可能性が高いです。ちょっと前にドラマで話題になった校閲という仕事も、間違いなく数年でAIに取って代わられます。映画の字幕付けやメディア記者のような高いクリエイティビティが必要となる仕事も、個人としてファンを獲得できるようにならない限り、いずれAIに職を奪われるでしょう。

端的な言い方をすれば、これからの時代にクリエーターという生き方を仕事にしたいのであれば、作品のクオリティを上げるという努力以上に、自分自身の人としての魅力を高めること、その魅力を伝えて行く努力を続けることが重要になります。そういう意味では、Youtuberというのは、今の時代にとても適したクリエーターの在り方なのかもしれませんね。

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