海の向こうから
次はスーとの出会いについてご紹介しよう。
名前でお気付きだと思うが、スーは中国人だ。僕の初めての外国人とのマッチングである。どうやら不倫に国境はないようだ。
スーは日本人と結婚しており、日本への留学経験もあるため日本語は完璧だった。プロフィールにもそう書いてあるが、実際に話してみると日本人と話しているようだ。
お互いの職種が同じだったということもあり仕事の話などで会話は盛り上がった。写真も見せてもらったが雰囲気がビビアン・スーに似ている。年齢は20代後半でこのサイトの中ではかなり若い。写真を見てぜひ彼女に会いたいと僕は思うようになっていた。
僕たちはしばらく無難な会話を続けご飯に行く約束をした。
だが、ここから問題が発生した。
日程がなかなか合わないのである。
僕の乏しい経験の上で人妻の会いやすさを簡単にカテゴライズすると、子供が大きければ大きいほど外に出やすい。さらに相手が仕事もしていると平日の仕事終わりにも会うことができるのでほとんど密会に支障はない。
実際に僕が今まで会った人妻たちもみんな子供が中学生以上で、仕事もしている人が多かった。
だがスーの場合は子供がまだ幼稚園に行っている。しかも週に3日しか行っていないのだ。
さらに幼稚園に行き始めたばかりなので毎週のように体調を崩す。
実際に一度目の日程が決まった後に
「ごめん!子供が熱出て厳しいかも」
と密会が流れたこともあった。
時間も子供のお迎えが13時なので実質平日の10時~12時ぐらいの間でしか会えないのである。
この困難が僕のやる気をさらに引き立てた。
そして僕は決心した。今月2度目の有給を使おう。
普段有給を使わない、真面目に出社している人間が月に2度も有給を使うとなるとさすがに同僚も気になるようだ。
「ぽちょさん有給珍しいですね。何か趣味でもできたんですか?」
と同僚が聞いてくる。
「まぁそんなところだね」
と平静を装い、僕は苦笑いをしながら答える。
なにも嘘はついていない。
当日は大きなターミナル駅でランチすることになった。半個室のカフェを予約した。
彼女に会ってみると写真の通り美人だった。
僕はテンションが上がった。
「予定合わせてくれてありがとう」
と彼女は僕に笑いかける。
「こちらこそ忙しいのにありがとうね」
と僕は返した。
「今日彼女に会えてよかった」
心の中でそうつぶやきながら僕はにやけてしまった。
お店に入って僕が料理を注文しようとしたら
「お酒飲むね」
と彼女はビールを注文した。
「お酒飲んだらお子さんのお迎え大丈夫?」
僕はその注文に不意をつかれて思わず聞いてしまった。
「そんな1,2杯じゃなにも変わらないから大丈夫。私お酒好きなの。でも一緒に飲める人があまりいないからこういう時に飲みたいの」
と彼女は笑いながら返す。
確かにスーはお酒は強そうだ。
と同時に彼女が飲みたい理由を聞いてなんとも言えない気持ちになった。
そして僕はそんなにお酒は強くない。
しかも今日は仕事に行ってることになっているので嫁に一切アルコールについて悟られるわけにはいかない。
だがここで逃げるわけにはいかないという変なプライドが僕の中に現れた。
「私も生一つお願いします」
そのプライドにおされて気が付いたら生を追加で頼んでいた。
「実は私ぽちょさんがこのサイトで初めて会う人なの。ほとんどデートの経験もないからめっちゃ緊張した」
と彼女は話し始めた。
この発言は意外だった。正直彼女ほどの美人だと出会いはたくさんありそうだ。
今の会話のチャンスを逃すまいと僕はそこを切り口に彼女のバックグラウンドについてもう少し詳しく聞くことにした。
彼女は今の旦那と8年付き合った上で結婚した。そのためほとんど異性との経験がないという。遠距離恋愛の期間も長かったという。
「その間浮気とかしなかったの?」
と少しいたずらっぽい質問を僕は投げかける。
「その時は全くしなかったの、今思うと少し遊んでたほうがよかったかな」
と彼女は少し残念そうな顔をして答える。
その間旦那は毎日のように電話してくれたり、中国まで会にも来てくれたので彼女は旦那のことが大好きで一筋だったという。そしてそのまま結婚して日本で暮らし始めて子供ができたのだ。
でも旦那はかなりの仕事人間で出産後はあまり相手をしてくれないし育児も手伝ったくれないのだ。
「日本人男性は釣った魚に餌をやらないね」
この彼女からの思いがけないフレーズを聞いて僕は少し笑ってしまったと同時に、異国に来て一人で育児に奮闘している彼女を想像したら可哀想にもなった。
彼女は頼れる人がいないのだ。
ここで1杯目のビールをお互い飲み干したので2杯目を頼むことにした。
「じゃあ今は旦那さんと夜の営みはないの?」
アルコールが僕の脳を段々麻痺させて彼女に対する質問を大胆なものにしていく。
「全然ないの。何回か誘ったけど旦那は仕事で疲れたと言って逃げてばかり。それでまだ女を捨てたくないと段々思うようになってこのサイトに登録してみたの」
と彼女は寂しそうに言った。
これまでの僕の不倫する女性のイメージは、かなり異性と遊んでおり、結婚してからも刺激が足りない人が不倫をするというイメージだった。
しかし今のところ僕の想像は間違っており、どちらかと言うとあまり恋愛経験がない女性が不倫をするパターンの方が多い。
自分が疎かにされたときに彼女らは後悔の念が出てくるのだろうか。
その間スーは3杯目のビールを頼んだ。
つられて僕も頼む。ここまできたら2杯も3杯も大して変わらない気がしてきた。
そこからもう少し話して僕たちは解散することにした。
会う前は楽しみにしていたが、会ったあとは異国で旦那の助けもほとんど望めず、飲む相手もいない中で子育てに奔走している彼女の境遇を知ってなんだか切ない気持ちになった。
そんな僕の気持ちとは正反対にアルコールが元気よく体の中を走り回っている。
今日は酔い覚ましに散歩でもして帰ろう。
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