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映画「ソナチネ」から感じる疲れ

「ケン、やくざ辞めたくなったな」
「結構、荒っぽいことやってきましたからね」
「なんか、もう疲れたよ」
「金もってると嫌になっちゃうんじゃないですか」

この前北野武(ビートたけし)の「ソナチネ」を観た。
ずっと観たかった映画で見れてよかった。
たけし作品は「アウトレイジ」や「その男、凶暴につき」、「菊次郎の夏」を観てきたけど、「ソナチネ」が一番良かった。

「ソナチネ」って端的に言えば疲れを描いてる映画だと思う。
ヤクザ映画だけど、この醸し出される疲れた雰囲気は今生きてる僕らにも通ずるものがある気がする。

話の流れは至ってシンプルで、金を持ってるヤクザ達がハメられて知らずしらず殺し合いに巻き込まれて行く、そんだけなんだけど。
平和なシーンと暴力的なシーンがすごいシームレスに移り変わっていく。
どっちのシーンでもギャグがある。
生きてようが死んでようがどっちでもいい感じで人を遊んで苦しめてるシーンはなんかコントを見てる気分になった。
バトルマンガみたいに盛り上がるエンタメな戦闘シーンはほとんどなくて淡々と人が死んでいく。
全員が人を殺すのも殺されるのも受け入れてる感じがする。

まず暴力的なシーンについて。
俺は特に印象に残ってるのは、兎に角ヤクザ全員がつまんなそうっていうかなんか疲れてる感じがするんだよな。
「今から誰かを殺しに行く」って分かってるやつらの顔が全員虚無ってる。
目が死んでて退屈そう。
その虚無をごまかすかのように、蟻の巣に実験で水を流し込んでみる感じで人で拷問して遊ぶシーンがある。
無邪気にはしゃいでるんだけど、平和なシーンとは大分印象が違う。
惰性で夢中じゃない感じ。

なんかこういう表情ってどっかで見たことあるなーって思ったら。
仕事か。
仕事でこいつら人殺してるんやって気づいた。
仕事でつかれた表情にそっくりなんや。
終わりが無くて。その世界で生きるためにずっとやんなきゃいけなくて。
受験にしても労働にしても政治にしても恋愛にしても。
生存競争とか義務とかの人間のしがらみに疲れた奴らの顔っていうのをホントに上手く描写出来てる気がした。

平和なシーンが中盤くらいに結構長く入ってる。
沖縄の隠れ家でたけし演じる村川達は避難してる。
紙相撲ごっこしたり、落とし穴に仲間をハメたり、ロケット花火を打ち合ったり、沖縄の踊りを踊ったり、拳銃で度胸試しをしたり。
基本的にほぼほのぼのしてる。
みんな笑顔が多くて楽しそう、暴力の時に浮かべてる笑顔とは大分違う。
本気で楽しめてる感じがある。

恐らく沖縄の隠れ家は村川にとって楽園的なものやったんやと思う。
おっぱいが出てくるシーンがあるけど子どもが遊んでる感じでやらしさがない。
金、性、暴力、権力から生じる血腥さのない楽園に村川は浸ってたように思える。

でも村川はふと死を思い出してしまう。
ほのぼのとしたシーンの中でも死と隣り合わせであることをつい意識してしまう。
この楽園が仮初めであることを知っている。
「死にたくないし、ずっと平和であって欲しい。」と思う自分がいつつも、またヤクザとして生きてきた以上暴力に巻き込まれることを察している。
村川の持って生まれた性も暴力からは逃してくれない。
死に取り憑かれているから逆に平和も怖くなる。
平和の安心感と死の恐怖とのギャップに耐えられなくて、ロケット花火の打ち合いで拳銃を使ったり、仲間とロシアンルーレットをやったりして自他に死を意識させる。
この時の村川はいたずら好きな子どもみたいやけどどっか見てて痛々しい。

「あんまり死ぬの怖がってるとな、死にたくなっちゃうんだ」

あとすげえなって思うのは、ヤクザがヤクザっぽくないというか。
暴力を振るう人間が暴力を振るうまでそれだと分からない、普通の人間と変わらんのよな。
それは村川達もだし、村川の敵も。
どこにでもいそうなやつらが急に殺し合いをする。
そういう世界に身を置いてるとずっと緊張しっぱなしだよな、ストレスがかかるよな。
慢性的なストレスがかかると鬱になるよな。
それでソナチネに出てくるヤクザはみんな死んだ顔をしてるんだと思う。
特に人を殺す前に。

こん時実際たけしって鬱っぽかったらしいね。
死に取り憑かれていたたけしがヤクザの村川を通して死や虚無感を撮ろうとしたんやろな。
村川の描写されてる心情はマジで鬱の時の俺もあんな感じやったなって共感できるものやったな。
数ヶ月前に見てたら危なかったかも。
今俺改めて禅とか仏教とかやってて良かったって思えるな。

見終わった後は大学の4コマ目があった。
大学に通う時道行く人全員がホントに反社でいきなり殺しにきてもおかしくないなって思えてきた。
うわー、マジでどっぷりハマって見てたんやなー。
いい映画見たなー。たまには映画見るのもありやなー。

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