元芸人と元AV助監督の交換日記#6 (A先輩)

ここ最近、この交換日記とは名ばかりの青春回想録の為に、3、4年ほど前を思い出す必要があるのだが、これがなかなか難しい。寧ろ中学生の頃の思い出のほうがスラスラ思い出せるまである。「芸人やってました」などと言えばエピソードトークの宝庫のように思うか方もいると思うが、うだつの上がらない芸人だった僕からすれば虚無の期間である。祈から「芸人人生で忘れられなかったことは」と質問があるが、僕からすれば「芸人人生は忘れられたこと」なのである。空白の4世紀ならぬ空白の3年だ。

 とは言え、辛かった思い出はある程度覚えている。ライブでウケないことは茶飯事だし、色々な大人から怒られもした。どれも辛くやるせない思い出だが、とりわけ辛かったことを思い出した。当時の彼女との思い出だ。

 芸人をやっていた頃、僕は1歳上の女性とお付き合いをしていた。お付き合いをしていたのだから、僕は彼女のことがそれなりに好きだったが、彼女は様子が違っていた。「芸人をやっている僕」が大嫌いであった。もっと言えば、大学の旧友と遊んでいる僕も大嫌いであり、面白く振舞おうとする僕を嫌っていた。おかしな話である。唯一のアイデンティティが「芸人性」である僕と付き合っていたにも拘らず、その「芸人性」をひどく嫌っていたのだから。少しでもボケようものなら、彼女の機嫌は損なわれる。もともと、真面目に会話をすることが出来ない僕からすればこんなにも辛いことはない。就職し、芸人という肩書がなくなってからも続いた交際はあっさりと終わりを迎えた。原因はただ一つ。僕が真面目に物事を考えたり、真面目に会話する日が訪れなかったからだ。「芸人」ではなくなったが、「芸人性」はなくならない。人は急には変われないのだと悟った。

 「芸人人生で忘れられなかったことは」の問いとはやや離れてしまったが、以上が僕からの回答だ。芸人人生がどこまでの期間を示すのがわからないが、僕にとっては芸人人生も一遍の人生に他ならない。性格を変えることはできないし、場合によっては押し殺すしか選択肢がない場合がある。不真面目な性格。僕にとってそれが何よりも辛いことだ。

 余談だが、ではなぜ彼女が僕とお付き合いをしていたのか。正確に理由を聞いたことはないので真相はわからないが、彼女は機嫌が良いとき決まって僕にこう言った。「犬みたいだね。」と。彼女が好きなのは従順な僕であり、望んでいたのは従順性だったのではないだろうか。会話をするときも自分を出さず彼女に従えばよかったのだ。馬鹿野郎!出来るか!

 さて、最後に前回の祈からのオープンな業務連絡を受け、こちらから一つ提案をしよう。
しばらく質問をやめて自由に書いてみるというのはどうだろう。その日の出来事でも良いし、今考えていることでも良い。一度、文字通りの「交換日記」をしてみよう。ようやく「交換日記」をスタートしてみよう。

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