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#335:吉田夏彦著『デジタル思考とアナログ思考』

 吉田夏彦著『デジタル思考とアナログ思考』(NHKブックス, 1990年)を読んだ。本書は中古書店で購入したもの。著者の本は、過去に『なぜと問うのはなぜだろう』(ちくまプリまー新書, 2017年/国土社, 1977年)を読んだことがあるのみ。

 著者は論理学を専門とされており、本書はNHKブックスという一般読者向けのシリーズの中の一冊でもあり、文章そのものは平易なのだが、内容はガチガチにハード。気楽に読めるかと思って読み始めたら、読み進めるうちに段々に背筋を伸ばして読まなくてはという気分になってくる。一方で、著者の控えめなユーモアのセンスにも思わずくすりとさせられるのだけれど。

 現在では、デジタルとアナログの対比というレトリックは、あまり見かけなくなった気もするが、本書出版当時は、頻繁に出会うフレーズであった気がする。「デジタル」と冠するだけで、何やら未来志向でメカニカルで精密なイメージが湧いたものだったような気がする。

 著者は、「デジタル」と「アナログ」の語源から説き起こし、いかに当時の世間における「デジタル」と「アナログ」のラベリングが単なる気分を表すものとして使われているかを、やんわりと指摘しつつ、「デジタル」なものの見方や思考と「アナログ」なものの見方や思考の、それぞれの特徴と本質、そして互いの関係を軽い筆致で、しかし着実に掘り下げてゆく。

 一般に、離散的なもの・事象を「デジタル」に、連続的なもの・事象を「アナログ」にと単純に割り当てがちであるが、私たちが日常的に何となく連続的な事象と思い込んでいるものが、意外に離散的な事象の積み重ねであることを、具体例を挙げながら指摘していく著者の議論の進め方の鮮やかさには、蒙を啓かれる思いがしたし、「恐れ入りました」という気分になった。何と自分は、雰囲気だけで、「デジタル」と「アナログ」という表現を気分のままに使っていたことか・・・。私にとっては、とりわけ、「第七章 自然言語と人工言語」を読んで考えさせられることが多かった。

 本書は、一見したところそういう「顔」をしていないが、そして必ずしも体系的に記述されているわけではないが、繰り返し納得がいくまで読み込めば、論理学や科学哲学や認識論の基礎的な素養が身につくことをアシストしてくれるような、立派な哲学書であると思う。自分の「基礎部分」の素養の足りなさを、思い知らされました・・・。