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#108:オットー・ペンズラー編『愛の殺人』

 オットー・ペンズラー編『愛の殺人』(ハヤカワミステリ文庫, 1997)を読んだ。本書は全編オリジナルの書き下ろしによるアンソロジーとのこと(最後の一編のみ例外)。ベストセラー作家をずらりとラインアップした執筆陣の豪華さには目を見張らされる。ほとんどの作品が、一定以上のクオリティの、読ませる作品であることは確かである反面、何だか「見本市」のような趣もないではない(あまり良くない意味で)。

 私の印象に残った作品をあげるなら、掲載順に、ジェームズ・クラムリー『ホット・スプリングス』、ジョン・ガードナー『愛の値打ち』、エルモア・レナード『カレンが寝た男』、マイケル・マローン『赤粘土の町』といったところ。一作だけ選ぶとすれば、『赤粘土の町』。古き良きアメリカ映画を思い起こさせる、深い余韻の残る作品である。実際に、本作は1997粘土のMWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞の最優秀短編賞を獲得したとのこと。もっとも、私は一人称の回想形式で語られる作品に対して、評価が甘い傾向があるのだけれど(笑)

 定型的なパターンの作品も少なくなく、意外な驚きに打たれるという作品は見当たらない気もするが、古書店などで見かけたら、読んでみて損はない短編集と思う。