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#595:鮎川哲也編『シグナルは消えた トラベルミステリー①』

 鮎川哲也編『シグナルは消えた トラベルミステリー①』(徳間文庫, 1983年)を読んだ。巻末に注として、「 小社刊トクマノベルズから徳間文庫に収録するにあたって、新しく編集しなおしました。それにしたがって、作品の並び方も変えました。」との説明書きがある。

 それ以上の記述がなく、詳細を知りたかったのでネットで調べてみたところ、どうやら1976〜1978年にかけて(?)『鉄道推理ベスト集成』として全4巻(?)で刊行されたものが元になっているようだ。ただ、文庫版の方は全6巻のシリーズとして刊行されているようなので(先日中古書店でセットで入手した!)、一冊あたりの収録作品数も変わっているはずで、「作品の並び方も変えました。」という記述はずいぶん奥床しい(笑)

 本書に収録されているのは、順に、本田緒生「撒かれし種<秋月の日記>」(1925年)、葛山二郎「股から覗く」(1927年)、海野十三「省線電車の射撃手」(1931年)、大阪圭吉「狂った機関車」(原題は「気狂い機関車」)(1934年)、夏樹静子「山陽新幹線殺人事件」(1975年)、山田風太郎「吹雪心中」(1963年)の6作品。その中で私の印象に残ったのは大阪氏と山田氏の作品。

 大阪氏の作品は有名な作品だが、その作品世界の異様さは抜きん出ている。そのイメージの禍々しさは、ちょっと比類がないと思う。山田氏の作品は、この数年以内に何かのアンソロジーで読んだことがある(比較的最近読んだはずだがどのアンソロジーだったか思い出せない・・・)。男女の偶然の再会が悲惨な結末を生む物語で、視点人物の男性が不運な偶然の積み重ねに翻弄されるうちに、そのエゴイズムが剥き出しの醜さを露呈していく過程に、ストーリー上の誇張はあるとしても、リアルさが感じられ、凄みがにじむ。いやあ、怖いなあ。

 残り5冊もぼちぼちと読んでいこう。