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#251:雨の会編『やっぱりミステリーが好き』

 雨の会編『やっぱりミステリーが好き』(講談社文庫, 1995年)を読んだ。基になった単行本は新潮社から1990年に刊行されたとのこと。再録作品と書き下ろし作品が入り混じったアンソロジーで、収録されている作品の作家は、収録順に、井上夢人、大沢在昌、折原一、坂本光一、高橋克彦、新津きよみ、東野圭吾、矢島誠。大沢氏による「あとがき」によれば、「雨の会」は当時若手の新進作家が集まった会だったようだ。本書が編まれたのは、その大沢氏自身や東野氏が大ブレイクを果たす前ということになる。

 平均的な水準は高い作品集だと思うが、やはり頭一つ抜けているのは大沢氏の作品『ベル』だろうか。アクションも盛り込んだエンタメ性豊かなハードボイルド作品で、なかなかスタイリッシュである。東野氏の『名探偵退場』はウェルメイドなパスティーシュ。のちの『名探偵の掟』を彷彿とさせるような、メタミステリ的な視点を含む作品でもある。井上氏の作品と折原氏の作品の趣向が似ているのは偶然だろうか。

 本書の姉妹編として雨の会の別の作家たちによる『ミステリーが好き』というアンソロジーも出版されているようなので、本書同様に中古書店で見かける機会があったら入手して読んでみたいと思う。