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#530:竹田青嗣著『現代思想の冒険』

 竹田青嗣著『現代思想の冒険』(ちくま学芸文庫, 1992年)を読んだ。本書は1987年に毎日新聞社から刊行された本を文庫化したものとのこと。著者の本はたくさん出版されているが、これまで私が読んだことがあったのは『現象学入門』(NHKブックス, 1989年)のみで、読んだのは約30年前のことになる。その本は、著者が読み解いたフッサール哲学の核心部分を読者にわかりやすく伝えるものであったと記憶している。

 本書もまた、著者の読み解き方に沿って、主に西欧の「現代思想」の系譜が、わかりやすく整理されていて、読んでいて頭がすっきりとする思いがする。自分の頭の中に、仮の見取り図を描くには大変助けになる本であると思う。一方で、著者自身も断っていることだが、本書に示されているのは、あくまで著者の読解による大づかみな流れであって、系譜のたどり方には別のルートもあり得るし、一人ひとりの哲学者・思想家の思索のどの部分に注目し、何を重視するかも、著者とは異なる視点があり得る(実際に多数ある)ということには注意が必要だろう。

 とはいえ、元になった本が刊行された1987年といえば、まだまだ「ポスト・モダン」という言葉が盛んに使われていた時期でもあり、関心を持った読者が、「それって何?」という興味からまず読んでみる本としては、役立つ選択肢の一つだったのだろうと想像する。ちなみに、80年代のちょうど真ん中頃に大学生になった私が手に取って重宝(?)したのは、『別冊宝島44 わかりたいあなたのための 現代思想・入門 サルトルからデリダ、ドゥルーズまで、知の最前線の完全見取り図!』(宝島社, 1984年)だった。

 第6章までは要領よく、主としてヘーゲルを源流としてたどられる現代思想の動向が噛み砕いて解説されている。そして終章では、それを踏まえて、著者独自のエロス論が述べられているのだが、著者が展開するその議論に、私はうまくついていくことができなかった。著者自身としては、終章にこそ力を入れていたのではないかと想像されるが、正直なところ私には、6章までの論述と終章との接続があまり成功していないように感じられた。単に、著者の問題意識と私の関心が噛み合っていないだけの問題かもしれないが。

 今となっては、著者のエロス論に関心がある人以外にとっては、あえて本書を読む意義は薄いかもしれないが(今なら、「現代思想」に関心がある人には、千葉雅也著『現代思想入門』(講談社現代新書, 2023年)が第一選択肢だろう)、80年代後半の時点で、ポスト・モダンの思潮が日本でどのように受け止められていたかの一例を知るという点では、本書は貴重なドキュメントと言えるかもしれない。