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読んだ本

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自分が読んだ本についての、感想、コメント、連想を、気ままに書いています。
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2021年12月の記事一覧

#179:國分功一郎・千葉雅也著『言語が消滅する前に』

 國分功一郎・千葉雅也著『言語が消滅する前に』(幻冬舎新書, 2021年)を読んだ。書店の店頭で見かけて新刊コーナーに並んでいるのを見つけて購入したもの。本書は、國分氏と千葉氏が、2017年から今年にかけて、別々の機会に行った5つの対談を収録したものである。分量はコンパクトであるが、そこにラジカルで刺激的な内容がぎっしりと詰まっており、私は非常に楽しんで、大いに思考を刺激されて、一気に読み終えた。  5つの対談を通底するのは、本書のタイトルに示唆されている通り、現代社会にお

#178:源河享著『感情の哲学入門講義』

 源河享著『感情の哲学入門講義』(慶應義塾大学出版会, 2021年)を読んだ。本書は店頭で見かけて手に取った。「はじめに」によれば、本書は著者が実際にいくつかの大学の授業で講義した内容をまとめたものとのこと。「あとがき」によれば、コロナ禍で授業がオンライン化したことへの対応として、学生が読んで理解できる講義資料を作成したことが、本書のもとになっているとのこと。なるほど。  本書の主題は感情にあるが、そのタイトル通り、主として哲学の立場からの講義、考察が展開されている。ただし

#177:知念実希人著『硝子の塔の殺人』

 知念実希人著『硝子の塔の殺人』(実業之日本社, 2021年)を読んだ。本書は、新聞広告で見て、名だたる作家たちの推薦文を見て購入したものである。年末恒例の『このミステリーがすごい! 2022年版』(宝島社, 2021年)では、国内編ベストテンの第9位にランクインしている。著者の作品を読むのは本書が初めてである。  以下、気をつけて書くつもりだが、ネタバレに繋がる記述が含まれる可能性があるので、本書を未読でこれから読む予定のある方は、この先は読まない方が良いかも。  本書

#176:国谷裕子+東京藝術大学著『クローズアップ藝大』

 国谷裕子+東京藝術大学著『クローズアップ藝大』(河出新書, 2021年)を読んだ。何という著者とタイトルの組み合わせ(笑) 新聞広告で見かけた瞬間に入手を決意した。  本書に登場する12名の東京藝大の教員のインタビューはどれも興味深い。それにはインタビュアーとしての国谷氏の力量が与っていることは間違いないだろうが、やはりそれぞれのインタビュイーの生き様がそれぞれに現在取り組んでいる課題とその背景にある問題意識と結びついているあり方が、読む側の興味をそそる。  全体を通読

#175:ちょっとどうかなと思った本

 とある本を読んだ。著者名と書名は伏せる。30年くらい前によく売れていた本で、その文庫版を中古書店で手に入れた。ジャンルとしては、ポピュラー・サイエンス本というべきか。読み始めの印象は悪くなかったのだが、読み進めるにつれて、だんだん不快な気持ちになっていった。人々の行動を、ある一つの原理で説明して見せて、「何々という人たちのこれこれという行動は、つまりはこういうことなのです」という記述の繰り返しと積み重ねが、揶揄的な視線に見えてきて、すっかり嫌になってしまった。最後まで読み通

#174:巻田悦郎著『ガダマー入門 語りかける伝統とは何か 新装版』

 巻田悦郎著『ガダマー入門 語りかける伝統とは何か 新装版』(アルテ, 2019年)を読んだ。私が読んだのは新装版として刊行し直された廉価版のようで、元の本は2015年に刊行されているとのこと。  本書はタイトルの通り、ガダマーの哲学への入門書である。「はじめに」で指摘されているのを読んで気づいたが、ガダマーに関する日本語で読める入門書は極めて少なく、丸山高司著『ガダマー 地平の融合』(講談社, 1997年)とジョージア・ウォーンキー著『ガダマーの世界 解釈学の射程』(紀伊

#172:赤川次郎他著『赤に捧げる殺意』

 赤川次郎他著『赤に捧げる殺意』(角川文庫, 2013年)を読んだ。ミステリ短編のアンソロジーである。底本は角川書店より2005年に刊行された単行本とのこと。  収録されている作家は、五十音順に、赤川次郎、有栖川有栖、太田忠司、折原一、霞流一、鯨統一郎、西澤保彦、麻耶雄嵩の8名。私見では、収録されている作品の平均的な水準は残念ながら高いとは言えない。私の印象に残った作品は2つ。  一つは鯨氏の「Aは安楽椅子のA」。調べてみると、これはのちにシリーズ化されて、2冊分の本とし

#171:とある本を読んで(消極的なコメントです)

 とある本を読んだ。私には不満な点が多かったため、主に消極的なコメントを書くことになると思うので、具体的な書名は伏せることとする。  本書を読んだのは、現在仕事で使っている本の代わりに使うことができそうな本を探すためであった。本書はあるカリキュラムのための教科書としてシリーズで刊行されている本の中の1冊であり、編著者も、分担執筆者も、それぞれの分野ではよく知られた人が多く、目次を見る限りでは章立てにも工夫が見られて、なかなかに期待できそうに思われた。  ところが、残念なこ

#170:河合隼雄・柳田邦夫著『心の深みへ 「うつ社会」脱出のために』

 河合隼雄・柳田邦夫著『心の深みへ 「うつ社会」脱出のために』(新潮文庫, 2013年)を読んだ。2002年に講談社から発行されたものを文庫化したものとのこと。本書は、柳田氏がホスト側として河合氏との間で折に触れて行われて発表されてきた対談を再編集してまとめたものである(最後に収められた対談のみは本書の底本に収録することを目的として行われたとのこと)。全編を通してとても読み応えのある本である。ちょっと残念なのは、本書のタイトルが必ずしも内容を適切に表しているとは、私には思えな

#169:坂野雄二・百々尚美・本谷亮編著『心の健康教育ハンドブック こころもからだも健康な生活を送るために』

 坂野雄二・百々尚美・本谷亮編著『心の健康教育ハンドブック こころもからだも健康な生活を送るために』(金剛出版, 2021年)を読んだ。仕事で使える本を探していて、試しに読んでみたのだが、私が考える用途にはマッチしないようだ。  「ハンドブック」というタイトルに相応しく、目次を見る限り内容は比較的網羅的ではあるのだが、「心の健康教育ってなに?」と題された第1部では、執筆者間で内容の重複が散見され、「実践例から学ぶ心の健康教育」と題された第2部では、章(執筆者)によって記述の

#168:安克昌著『新増補版 心の傷を癒すということ 大災害と心のケア』

 安克昌著『新増補版 心の傷を癒すということ 大災害と心のケア』(作品社, 2020年)を読んだ。底本となっているのは、『心の傷を癒すということ 神戸……365日』(作品社, 1996年)で、同書は同年の第18回サントリー学芸賞を受賞している。東日本大震災を契機に2011年に増補改訂版が出版され、さらに増補が行われて刊行されたのが本書という経緯になるようだ。  新増補版として本書が刊行されたきっかけには、震災後25周年を迎えるということに加えて、著者をモデルとしてNHKがド

#167:森嶋通夫著『続イギリスと日本』

 森嶋通夫著『続イギリスと日本 その国民性と社会』(岩波新書, 1978年)を読んだ。著者の本を初めて読んだのは1〜2年前のこと。中古書店で見かけて、タイトルに惹かれて、本書の前著にあたる『イギリスと日本 その教育と経済』(岩波新書, 1977年)を読んだ。いささか出版年の古い本ではあるが、経済に疎い私には、経済学者の視点からの分析が新鮮で興味深かった。そんなわけで、本書も中古書店で見かけた時に入手しておいた。  本書においても、前著と同様にデータの分析に基づいて、イギリス

#166:斎藤慶典著『危機を生きるー哲学』

 斎藤慶典著『危機を生きるー哲学』(毎日新聞社, 2021年)を読んだ。著者の本は、以前に『中学生の君におくる哲学』(講談社, 2013年)を読んだことがある。そもそも著者を知ったのは、野矢茂樹編著『子どもの難問』(中央公論新社, 2013年)を読んだことがきっかけ。  本書はおそらく若い読者を想定して、直接語りかけるスタイルで書かれている。哲学の専門用語を使うことは極力避けられており、使われている語彙そのものは平易であるが、内容は部分的に相当難解である。正直なところ、私の