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読んだ本

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自分が読んだ本についての、感想、コメント、連想を、気ままに書いています。
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2020年12月の記事一覧

#30:井上真偽著『聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた』

 井上真偽著『聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた』(講談社ノベルス, 2016年)を読んだ。この本も中古書店で入手。この作家の作品を読むのは、シリーズ第1作にあたる前作の『その可能性はすでに考えた』に続いて、2作品目。  登場する主要なキャラクターとその基本設定にかなり強い癖がある(と私は感じる)ので、「真面目な」読者からは敬遠されてしまうかもしれない。探偵役による推理が話の中心という点では本格ミステリに分類されると思われるが、探偵の推理力が、次々に繰り出される敵役の(し

#29:高階秀爾著『名画を見る眼』

 高階秀爾著『名画を見る眼』(岩波新書, 1969年)を読んだ。これも中古書店で入手した本で、手元の本には2010年発行の第64刷とあるので、ロングセラーであることがわかる。  高階さんの文章は、新聞などで時々見かけてきたし、NHKの『日曜美術館』などでそのその姿にも接してきたが、その著書を読むのは初めてかもしれない。記憶に全くないだけで、遠い昔にまさにこの本を読んだことがあるのかもしれないけれど。  15世紀のファン・アイクから、19世紀のマネに至るまでの、15点の西洋

#28:青澤唯夫著『名指揮者との対話』

 青澤唯夫著『名指揮者との対話』(春秋社, 2004年)を読んだ。入手先は中古書店。タイトルの通り、音楽評論家である著者が、主に1970年代および80年代に行ったインタビューを再構成した本である。  取り上げられている指揮者は、登場順に、チェリビダッケ、バーンスタイン、マルティノン、クルツ、ブーレーズ、ショルティ、ハイティンク、ボド、ケーゲル、リヒター、ガーディナー、ロストロポーヴィチ、アバード、クライバー、マゼール、エッシェンバッハ、マルケヴィッチ、ホロウェイ、フルネ、朝

#27:一丸藤太郎著『対人関係精神分析を学ぶ 関わるところに生まれるこころ』

 一丸藤太郎著『対人関係精神分析を学ぶ 関わるところに生まれるこころ』(創元社, 2020年)を読んだ。「対人関係精神分析」は、フロイトにはじまる「精神分析」の流れを汲む精神分析および心理療法である。アメリカで誕生し、アメリカで発展を続けている精神分析の一派であり、ハリー・スタック・サリヴァン、クララ・トンプソン、エーリッヒ・フロム、フリーダ・フロム=ライヒマンといった人々が、パイオニアとしてその生成と発展に力を尽くした。  著者は、この対人関係精神分析の中心地である、ニュ

#26:トマス・ネーゲル著『哲学ってどんなこと? とっても短い哲学入門』

 トマス・ネーゲル著『哲学ってどんなこと? とっても短い哲学入門』(昭和堂, 1993年)を読んだ。中古書店で見かけて、気になって入手した。ネーゲルの本は、30年ほど前に『コウモリであるとはどのようなことか』(勁草書房, 1989年)を読んだことがある。  こちらの本は、日本で言えば高校生、あるいは大学の1、2年生を読者に想定した本だと思われる。私が入手した本は、奥付によれば、2011年発行の第25刷とのことなので、大学の教科書として長く使われているのかもしれない。  取

#24:ケネス・J・ガーゲン著『関係からはじまる 社会構成主義がひらく人間観』

 ケネス・J・ガーゲン著『関係からはじまる 社会構成主義がひらく人間観』(ナカニシヤ出版, 2020年)を読み終えた。ガーゲンの本は、数年前に『あなたへの社会構成主義』(ナカニシヤ出版, 2004年)を読んだ経験がある。『あなたへの〜』が、ガーゲンの考える社会構成主義へ(的心理学)の入門書であるとするなら、今回読んだ本は、「社会的構成」のテーマを、「関係」というより大きく包括的な視点から位置付け直して、さらに展開を深めた本ということができそうに思う。  ガーゲンが基本とする

#21:ぼくらはカルチャー探偵団編『ミステリーは眠りを殺す 「カル探」おすすめミステリー・ブックガイド』

 ぼくらはカルチャー探偵団編『ミステリーは眠りを殺す 「カル探」おすすめミステリー・ブックガイド』(角川文庫, 1988年)を読んだ。中古書店で手に入れた本である。初級〜中級者向けという感じの、気楽にパラパラと読める海外ミステリ案内。さすがに情報は古く、消費期限切れの趣ではあるが、当時を知る読者にとっては懐かしく思われることだろう。私はもっぱらそのような点で楽しく読んだ。当時から知ってはいたが読み残している作品も少なくなく、改めて紹介されてみると、「読んでみたいなあ」と思う作

#20:宇野邦一著『ドゥルーズ 流動の哲学[増補改訂]』

 宇野邦一著『ドゥルーズ 流動の哲学[増補改訂]』(講談社学術文庫, 2020年)を読んだ。私がドゥルーズの名を知ったのは、大学に入学した後の80年代中頃。その頃は、フーコー、デリダ、ドゥルーズ、ラカンといった名前が、「フランス現代思想」「ポストモダン」の名で一括りにされていたように記憶している。それ以来、ずっと気になってはいたが、なかなか近づけずにいた。何度か、ドゥルーズを紹介した本にも挑戦したが、それらの本は、その時の私にはあまりピンと来なかった。  状況が一変したの

#18:池内紀編訳『ホフマン短編集』

 池内紀編訳『ホフマン短編集』(岩波文庫, 1984年)を読んだ。この本もたぶん25年くらい本棚に挿さったままだったのを引っ張り出して読んだ(手元にあったのは1991年発行の第13刷)。  ホフマンの作品は(たぶん)初読で、幻想味たっぷりな作品世界を堪能した。個人的には、「ファールンの鉱山」の哀切さが最も胸に残った。現実と幻想の間を危なっかしく行ったり来たりする作品の中でも、衝撃度では「砂男」が群を抜いているか。  そもそも、自分がどうしてホフマンの短編集を買って手元に置

#17:谷徹著『これが現象学だ』

 谷徹著『これが現象学だ』(講談社現代新書, 2002年)を読んだ。先日読んだ新田義弘さんの本に歯が立たなかったことを反省して、こちらの本を読んでみた。著者は丁寧にフッサールの基本的な発想とフッサールの現象学というプロジェクトの目的を解き明かしてくれており、私も何とかついていけた! 特に、フッサール特有の術語について噛み砕いて説明がなされており、大いに助かった。  それにしても、新田義弘さんの本を読んだときにも感じたことだが、フッサールは何と困難な問題に生涯をかけて立ち向か

#16:吉田秀和著『音楽 展望と批評 1』

 吉田秀和著『音楽 展望と批評 1』(朝日文庫, 1986年)を読んだ。私が吉田秀和の文章と出会ったのは、『LP300選』(新潮文庫, 1981年)が最初だった(現在は、『名曲300選』と改題されて、ちくま文庫から刊行されている模様)。クラシック音楽に魅せられ、熱心に聞き始めて間もない中学生だった私にとって、この本は紛れもなくバイブルだった(もう1冊、諸井誠著『交響曲名曲名盤100』[音楽之友社, 1979年]も、全ページ暗記しそうなくらい繰り返し読んだ)。その頃の私は、これ

#15:エドワード・S・リード著『魂<ソウル>から心<マインド>へ 心理学の誕生』

 リード著『魂から心へ』(講談社, 2020年)を読んだ。原本は青土社から2000年に刊行されていたもので、この度講談社学術文庫で再刊された。リードの著作は以前に『アフォーダンスの心理学』(新曜社, 2000年)、『経験のための戦い』(新曜社, 2010年)の2冊を読んでおり、それらの本の解説で紹介されていた本書もいずれ読みたいと思っていた。  リードが主として19世紀の文献を渉猟して描き出すのは、一般に流布されているのとは異なる、制度としての心理学と哲学が形作られた歴史的

#14:横山秀夫著『臨場』

 横山秀夫著『臨場』(光文社文庫, 2007年;原著刊行2004年)を読んだ。このところ比較的短期間のうちに未読だった横山作品を断続的にまとめて読んでいる(『半落ち』、『顔』、『真相』、『影踏み』、『震度0』)。一人の異能の検視官を軸となる登場人物とした連作短編集で、私の評価では、横山作品の上位ランクには入らないが、いつも通りに手堅い、この作家らしい作品世界を味わうことができた。個人的に一番評価したい作品は「真夜中の調書」。その次に「黒星」。  私にとっての横山作品の魅力は

#13:新田義弘著『現象学とは何か』

 新田義弘著『現象学とは何か』(講談社, 1992年;[原著]紀伊国屋新書, 1968年)を読んだ。ずっと(20年以上)書棚に挿さったままで、この度初めて・・・と思ったら、はじめの方のページに自ら赤ペンで傍線を引いた跡が。でも、通読はしていないはず・・・と思って読み進めた。ん〜、これは難しい。何とか理解できるところもあるが、全く歯が立たないところも少なくない・・・。これはある程度以上、現象学についての基本的な理解がある人向けの専門書だ。はじめの方にしか傍線を引いていなかったの