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#27:一丸藤太郎著『対人関係精神分析を学ぶ 関わるところに生まれるこころ』

 一丸藤太郎著『対人関係精神分析を学ぶ 関わるところに生まれるこころ』(創元社, 2020年)を読んだ。「対人関係精神分析」は、フロイトにはじまる「精神分析」の流れを汲む精神分析および心理療法である。アメリカで誕生し、アメリカで発展を続けている精神分析の一派であり、ハリー・スタック・サリヴァン、クララ・トンプソン、エーリッヒ・フロム、フリーダ・フロム=ライヒマンといった人々が、パイオニアとしてその生成と発展に力を尽くした。

 著者は、この対人関係精神分析の中心地である、ニューヨークのホワイト精神分析研究所に留学して精神分析家の資格を取得し、長年にわたり分析療法を実践してきた第一人者にして大ベテランである。著者が本書で取り組んでいるテーマは、対人関係精神分析の特徴が、他の精神分析の伝統と比較して、どのような点にあるのか、そこでは心理療法はどのようなものと考えられていて、クライエントとセラピストの関係はどのようなものと考えられているのかを明らかにすることである。

 本書のユニークな点は、徹底して著者自身が受けた訓練の経験、著者自身が取り組んだ分析療法の経験に基づいて、上記のテーマについて考え抜かれている点である。対人関係精神分析の理論や技法の解説が中心ではない。著者がどのような訓練を通じてそれらを身につけていったのか、身につけていく過程でどのようなことを考えさせられたのか、そしてそうしたことを分析療法の実践の中でどのように生かしていったのかということを振り返る中で、対人関係精神分析の特徴が、心理療法としてのその特質が、くっきりと浮かび上がってくるのである。

 私には、全体を通読することで、著者のこうした本書の書き方そのものが、対人関係精神分析の基本的な姿勢とその根本の部分で深くつながり合っていることが感じられたことが、大きな発見であったし、それだけにいっそう深い納得を得ることができた。心理療法について学ぶうえで読まねばならない本、助けになる本、参考になる本はたくさんあるが、その中でも本書は独自の位置を占める、稀有な本だと言えると思う。心理療法に関心のある人、心理療法を学んでいる人、心理療法を実践している人には、強く勧めたい一冊である。