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#26:トマス・ネーゲル著『哲学ってどんなこと? とっても短い哲学入門』

 トマス・ネーゲル著『哲学ってどんなこと? とっても短い哲学入門』(昭和堂, 1993年)を読んだ。中古書店で見かけて、気になって入手した。ネーゲルの本は、30年ほど前に『コウモリであるとはどのようなことか』(勁草書房, 1989年)を読んだことがある。

 こちらの本は、日本で言えば高校生、あるいは大学の1、2年生を読者に想定した本だと思われる。私が入手した本は、奥付によれば、2011年発行の第25刷とのことなので、大学の教科書として長く使われているのかもしれない。

 取り上げられているのは、哲学における主要な問題が9つ。哲学史や哲学者に関する予備知識を全く必要とせずに読んで考えることができるように書かれている。記述はシンプルだが、内容は歯応え十分。ネーゲルはかなりハードな議論に読者を誘い込んでいるように思われるので、拒否反応を起こす読者が続出するのではないかと、読んでいてちょっとヒヤヒヤする。いやむしろ、一般的な意味では、この本を読んで哲学に興味を惹かれることが幸福なことかどうかは、かなり疑わしいとも思える・・・。

 「どうやって私たちは何かを知るのだろうか」「他人の心」「心ー身問題」「ことばの意味」「自由意志」「正しいことと不正なこと」「正義」「死」「人生の意味」の9つのテーマについて、それぞれに何が問題とされるのか、ネーゲル自身の見解を明示することはほぼないままに、問いが問いのままに開かれたままの本である。親切とは言えない(もしかするとかなり意地悪?)、読者を選ぶ本だと言えそうだが、読者の思考を刺激して、それぞれのテーマについてより深く考えてみることに誘う力があるのは確かに思われる。惜しむらくは、訳者には申し訳ないが、間口の広い入門書だからこそ、訳の精度と読みやすさの両立を、もう一段上のレベルで実現してほしかった。