ORB手法
はじめに
ORBはOpening Range Breakoutの略。「球体」を意味する「orb」と同じスペルであることから「オー・アール・ビー」ではなく「オーブ」と読む。
市場オープンからある一定の時間につけた高値と安値で形成される範囲(レンジ、ボックス)からブレイクアウトしたことを確認し、ブレイクアウトした方向にエントリーする手法のことをいう。
Toby CrabelがORB手法の考案者ということになっている。1990年出版の「Day Trading With Short Term Price Patterns and Opening Range Breakout」で広く世に知られるようになった。
ちなみに、絶版で今となっては手に入らないこの本は10万円以上の高値で取引されている。私は遠い昔に通常の値段で買った。もし金に困ることでもあればこの本を売ろうか。
その後多くの人々による膨大な検証作業と改良・工夫が加えられより完成度の高い手法として流通するにいたったのが今日のORB手法である。統計的には80%前後の勝率が算出されている。
「市場オープンからある一定の時間における高値と安値で形成される範囲」と上で書いた。「ある一定の時間」とは何時間なのか?または何分なのか?実はこの変数(variable)によって勝率は大きく変わる。また、適切な一定時間は銘柄によって異なることも知っておく必要がある。
ORBは米国の先物や米国株をデイトレすることを念頭に開発されている。これゆえマーケットプロファイルと密な関係を有する。よってマーケットプロファイルの最初の区切りである「寄り付きから30分」をオープニングレンジ(OR)と規定することが一般的であった。寄り付き後の30分で買い方(ブル)と売り方(ベア)の攻防はひとまず決着しその日1日の方向性がある程度定まる、という想定に基づく。
しかし、これはPCもインターネットもAIもなかった大昔のはなしだ。いまは個人トレーダーがリアルタイムデータを自室のPCで(いやスマホで!)受信できる。アルゴによる高速売買が取引の8割以上を占めるともいう。これらの現状を踏まえてORはどんどん短期になっている。15分、5分、3分、2分、ついにはオープン後の最初の1分足の高値と安値という手法まで現れた。ORといえば30分が鉄則だったのは過去のことで、今ではトレーダーの数だけORがあるといっていい。堅固なバックテストを個人が行える環境が整備されたこともこれに寄与しているだろう。
代表的なORB手法を以下に解説する。忘れる前に付言する。ORBは米国先物と米国株で十分に検証されているが、FXやCFDではまだそれほど検証データがない。なお、FXとCFDで使う場合には、東京、倫敦、紐育それぞれの市場がオープンする時間を起点として戦略を立てることに留意されたい。
1分足ORB手法その1
データ処理速度が速くなり取引時間が短くなる現代のトレード環境において、執行足に1分足を用いることはさほど珍しくはない。30分または15分のORに対してエントリーは1分足というのはよくある。しかし、ORもエントリーも1分足はユニークだ。M. William Scheierが米国株価指数先物に用いた手法。
Scheierは、1分足チャートに89と200のEMAを表示し、さらに、1300 EMAと1300 SMAをバンドに見立てる。1300は1時間足の21という理由だ。
また「Momentum Grid」と呼ぶMTFストキャスティクスを使う。
1分足の%K=14, %D=3, Smoothing=3
10分足の%K=14, %D=7, Smoothing=3
1分足ORB手法その2
OR:3分~10分
エントリー:1分足
推奨銘柄:米国株(テスラなど)
NY時間9:30~10:00までトレード。10:30以降はトレードしない。
トレンドラインを引いてそれをブレイクしたらエントリー。
あるいはラインへのpullbackを確認してエントリー。
ここでいうトレンドラインとは、日足や4時間足に引くような何十本というローソク足の高値や安値を結ぶものとは異なる。ヒゲ2本あれば引いてしまえるトレンドラインである。
同じくpullbackといっても、数本のローソク足である必要はない。陽線連続のときに突如陰線が出現しそれよりもはるかに大きい陽線がその陰線を打ち消す場合、この陰線をpullbackと考える。プライスアクションについての記事の中で「Green Bar Ignored」「Red Bar Ignored」として説明したパターンである。
さらに詳しく知りたい人は、Matt Diamond(@MattDiamond)のYouTubeチャンネルをご覧あれ。
15分ORB手法その1
OR:15分
エントリー:1分足
34 EMAを表示
34 EMAへのpullbackおよびORの高値安値へのretestを重視する。
OR(つまり最初の15分足)にフィボナッチエクステンションを引いて、1 (100)以上のレベルをそれぞれ利確の目標値として使う。
15分ORB手法その2
OR:15分
エントリー:15分足
推奨銘柄:E-mini(S&P500先物)
最初の15分足の高値と安値に予約注文を置く。
一方が約定したらもう一つの予約注文は取り消す。
ORの値幅を1としてそれの1.5倍から2倍をターゲットに設定する。
なお、次の「その3」を応用することで勝率を高めることができる。
15足ORB手法その3
OR:15分
エントリー:15分足
推奨銘柄:米国株・米国株価指数
環境認識として、15分ORBが成功する確率が高い銘柄を選別する。
買いで狙える銘柄
日足において
① 期間15のATRが右肩上がり
② 期間14のRSIが右肩上がり
③ 平均を上回る出来高が見られる
売りで狙える銘柄
日足において
① 期間15のATRが右肩上がり
② 期間14のRSIが右肩下がり
③ 平均を上回る出来高が見られる
ATRはボラティリティを計測するオシレーターであるから、買いであれ売りであれ右肩上がりであることが重要。ATRが右肩下がりなのは売り目線を意味しない。売り買いに関係なくボラティリティが低下していることを示す。
ORBが成功する確率が高い銘柄を見つけたら、15分足でブレイクアウトを待ち構える。このとき以下の点に注意する。
① 大きく窓を開けて寄り付いた場合は、見送る。価格が乖離しすぎていることを警戒するからである。目安は1.5%~2%以上のギャップ。
② ORBがピボットのR2より上の場合は、見送る。
③ VWAP上でのブレイクアウトは、強い根拠となる。
④ 出来高プロファイルのHVNより上でのブレイクアウトは、成功する確率が高い。
利確については
ロングの場合、ORの高値 + 15分足のATR(期間は50)
ショートの場合、ORの安値 - 15分足のATR(期間は50)
30分ORB手法その1
OR:30分
エントリー:1分足
pullbackやretestは必須条件
9 EMAを終値で割り込んだらエグジット
大きなトレンドを狙わないスキャルピング手法
30分ORB手法その2
OR: 30分
エントリー: 5分足
推奨銘柄:米国株
1本目の5分足にフィボナッチリトレースメントをあてて、50%にラインを引く。これを「Trend Bias Line」と呼ぶ。寄り付きから30分後に高値と安値が確定したら、Trend Bias Lineとの距離に注目する。
Trend Bias Lineが、高値と安値(つまりOR)のほぼ中間に位置する場合はブルとベアの均衡が保たれている。
高値からTrend Bias Lineまでの幅がTrend Bias Lineから安値までの幅より広い場合には、ブル優勢。買いの方向にブレイクアウトする可能性が大きい。
高値からTrend Bias Lineまでの幅がTrend Bias Lineから安値までの幅より狭い場合には、ベア優勢。売りの方向へのブレイクアウトを期待する。
なお、1本目の5分足の半値線の代わりに、その5分足の出来高プロファイルのPOCをTrend Bias Lineとして使うこともできる。
60分ORB手法
OR: ロンドンオープン後の60分
エントリー:5分足
推奨銘柄:GBPUSD(ポンドドル)
SLを20 pipsに設定する。TPに関しては、20 pipsの利益でエグジットするのもいいし、半分だけ利確、SLを建値に移動してトレーリングでもいい。
次に、ここからは日本株と先物で使われるORB手法を紹介しよう。
9分ORB手法
OR:9分(寄り付きから3分足3本)
エントリー:3分足
推奨銘柄:日本株
寄り付き後の9分のレンジブレイクアウトを狙う。
3分足3本の高値ブレイクでロングエントリー。
3分足3本の安値ブレイクでショートエントリー。
ただし条件がある。
① 日足(上位足)のトレンド方向に仕掛ける。
② 3本のローソク足が小さいこと。大陽線・大陰線は見送る。
③ 3本のローソク足の安値が切り上がっていること。
高値は切り上がっていなくてもよい。
売りの場合は、高値が切り下がっていること。
安値は切り下がっていなくてもよい。
④ 3本目が陽線であること。売りの場合は陰線であること。
1本目と2本目は陽線でも陰線でも構わない。
寄り付きトレード①
推奨銘柄:日経225先物
厳密にはORBではない。前日終値で判断する。前日終値というのは大阪取引所の大引けのことである。夜間取引(ナイトセッション)は考慮しない。
前日終値の10円上と10円下に予約注文を置いておく。一方が約定したらもうひとつは取り消す。SLは30円、TPは50円に設定。
これはずいぶんと昔からある定番の手法だが、ナイトセッションの流動性が高くなった現在においては、頻繁にギャップアップ・ギャップダウンするので、果たしていまでも優位性があるのかどうか。
ちなみに、類似の手法でナスダック先物をトレードする方法を「ボックスブレイクアウト手法」という記事で紹介した。これに関しては、優位性が検証によって確かめられている。
寄り付きトレード②
推奨銘柄:日経225先物
「寄り付きトレード①」は前日終値を基準とする。「寄り付きトレード②」は当日の寄り付きの価格(始値)で判断する。
当日始値の50円上と50円下に逆指値予約注文を置く。一方が約定したらもうひとつは取り消す。SL30円、TP30円で設定。
60分ORB手法
OR: 9:00~10:00の60分
エントリー:5分足
推奨銘柄:日経225先物
まず、日本ではORではなくIRと呼び慣わす。「Initial Range」の略。マーケットプロファイル由来の用語である。日本の先物トレーダーにマーケットプロファイル信奉者が多いことに起因する。
かつて225先物のオープンは9時だった、2016年7月に8:45という中途半端な開始時間に変更された。9時始まりだったころから先物取引しているトレーダーが今も過半数いるので、9:00~10:00をIRとする慣わしが強く残っている。なお、60分ではなく9:00~9:30の30分をIRと規定する考え方もある。
米国株や米国株価指数との大きな違いは、日本株と日経225先物が万年レンジ状態ということだ。トレンドになることは滅多にない。レンジ幅が小さいか大きいかの差だけだ。その特性を活かした225先物ならではの手法がある。解説している動画がYouTubeに投稿されているので、実際にそちらを御覧いただくのが手っ取り早いだろう。日本語の動画だから不都合はあるまい。
実際のエントリーは、1分足あるいは3分足でレビヤタンを使うとよい。
75分ORB手法
OR:8:45~10:00
エントリー:15分足
推奨銘柄:日経225先物
従来の9:00~10:00の60分を現状に合わせて8:45~10:00の75分にする考え方。同様に、8:45~9:30の45分をIRとする考え方もある。
おわりに
海外のZ世代(Gen Zers)のあいだでOrderblockやDR(Defining Range)がバズっている。なんのことはない、それらはWyckoffやCrabelの古の概念と手法をZ世代受けする用語や表現に置き換えたものに過ぎない。ひと昔前のトレーダーたちが30年40年の経験から身につけた手法を最新のテクノロジーのお陰で迅速かつ容易にバックテストできることが、デジタルネイティブたるZ世代の強みであろう。
OrdeblockとDRについては、日と稿を改めて解説するつもりでいる。
【追記】
ブレイクアウトはローソク足の確定をもって判定する。
pullbackとretestをエントリー条件にすることで、負けトレードを減らすと同時に勝てていたはずのトレードも見送ることになる。
ORの出来高プロファイルを分析し出来高の偏りやPOCに注意することで勝率を上げることができる。
ORを上にブレイクアウトしたら、ORの安値がその日の安値になることが多い。ORを下にブレイクアウトすれば、ORの高値がその日の高値となることが多い。
ORの高値(ORH = Opening Range High)と安値(ORL = Opening Range Low)はレジサポとしても機能する。
ORBとレビヤタンシステムを組み合わせることで、エントリーと利確を迷わなくなる。実際にエントリーする時間軸のチャートにレビヤタンを表示する。
ORBはオプション取引と相性がよい。海外でORB手法を実践しているトレーダーは、ほぼ例外なく株と先物のオプション取引をしている。日本ではオプション取引そのものがまだ身近ではないし、ましてやデイトレやスキャルピングでオプション取引を活用することなどほとんどないだろう。
Toby Crabel「Day Trading With Short Term Price Patterns and Opening Range Breakout」の解説動画
TOBY CRABEL - SECRET Trading Strategies of BILLIONAIRE Trader REVEALEDこの本の中でも日経225先物のORBについてほんの2-3ページだが触れている。
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