自己信頼が、人との関係性に与える影響とは？

前回の記事では、自己信頼は他者信頼を生み出すこと、そして自己信頼と他者信頼があることによって課題を直視できたり、主体的真理をぶつけ合って創造的な活動につなげることができたりすることをお話ししました。

今回の記事では、自己信頼と他者信頼があることによって、人との関係性がどのように変わるのかについてお話しします。

信頼があると、縦の関係ではなく横の関係となる

自己信頼と他者信頼があると、人との関係性の質感が変わります。それは、「縦の関係」ではなく、「横の関係」になるということです。これはアドラー心理学でも言及されている内容になります。

「縦の関係」というのは、地位や能力や経験などの何らかの基準によって、上下の違いが意識的あるいは無意識的に規定されている関係性です。「横の関係」というのは、そのような基準による上下の違いはなく、お互いの存在や個性や主体的真理を尊重する対等な関係性です。

縦の関係（落合の定義）：
地位や能力や経験などの何らかの基準によって、上下の違いが意識的あるいは無意識的に規定されている関係性

横の関係（落合の定義）：
お互いの存在や個性や主体的真理を尊重する対等な関係性

この定義を見てもわかるとおり、縦の関係は何らかの基準による判断がありますから条件付きの信用がベースとなっており、横の関係は無条件の信頼がベースになっています。

「縦の関係」ではなく「横の関係」が築けるようになると、いいことがたくさんあります。

横の関係は、無条件の信頼がベースになりますので、自分は自分らしく、相手は相手らしくいることができます。そして、以前の記事でも書いた通り、お互いに信頼があることで、課題を直視することができたり、お互いに主体的真理をぶつけ合うことができたりするので、新しい価値が生み出しやすくなります。

ここで大切なことは、縦の関係と横の関係は、体感覚が全く異なるということです。縦の関係はどこかに外部の基準に合わせていく要素を含み、自然な自己表出が難しいことが多くなります。端的にいえば「自分らしくある」ことのハードルがあります。横の関係は、自然と「自分らしくある」ことができますし、相手も「その人らしくある」ということができます。

私の個人的な感覚としては、横の関係は幼馴染の友人との関係というイメージです。私は、大変有難いことに今でも、小学校の同級生とSNSでやりとりをしたり、一緒にテニスをしたり、食事をしたりということがありますが、会うたびにいつも、幼馴染特有の暖かい、安心・安全な感覚を持ちます。

それは、今どのような仕事をしているとか、肩書きをもっているということは関係なく、幼馴染の友人としてお互いを尊重して、信頼し合っている感覚です。私の幼馴染である山田くんは、どんな仕事をしていても、何歳になっても、やっぱりあの山田くんです。

幼馴染との関係性を、仕事における人間関係と一緒に語ることに違和感を覚える人もいるかもしれません。

仕事における人間関係は、上司や部下、部署同士の関係、顧客とベンダーという具合に、何らかの基準や慣習によってすでに規定されている場合が多くあります。そのような環境の中では、私たちがどのような関係性を個人的に望んでいたとしても、すでに規定されている関係性を壊さない振る舞いをすることが必要となるでしょう。

上司や部下の関係性で言えば、仕事の役割という意味での上下関係があることは確かです。そのような中では、部下は一定程度で上司の指示に従うということが求められます。

顧客とベンダーの関係性で言えば、上下関係ではありませんが、顧客の期待にベンダーが応えることで、顧客から対価をもらうという関係性が規定されていることが多いでしょう。そのような中では、ベンダーとして顧客の期待に応えることが求められます。

このような役割上の関係性を円滑に保つことは大切であることは言うまでもありません。しかし、役割上の関係性を円滑に保つというところにとどまらず、「横の関係性」もあった方がいい、というのが私の立場です。

職場において、すべての人と横の関係を築くというのは難しいことかもしれません。自分が横の関係を築きたいと思っていても、相手は縦の関係を前提としたコミュニケーションをとってくる場合もあるでしょう。それでも、私は職場においても、自己信頼と他者信頼をベースとした横の関係を基本とすることをお勧めします。

すべてうまくいくという話ではありませんが、そのような信頼関係を築くことができる人が1人でも2人でも増えていくことが、職場で仕事をすることの楽しさ、充実感につながることは間違いないですし、前回の記事でお話しした通り、関係性の話だけではなく、仕事の質や成果という面でもポジティブな影響があります。

横の関係性があると、自分らしくいられる

先ほど、横の関係性が築けると、自分らしくいることができると言いましたが、もう少し詳しくお話ししたいと思います。

横の関係性とは「お互いの存在や個性や主体的真理を尊重する対等な関係性」ということですから、本来の自分をだしても大丈夫であるという安心感が自他共にある状態です。

人は、本来の自分の性格（キャラクター）に対して、役割性格（ペルソナ）と言われる社会適合のための性格を持っています。これはいい・悪いという話ではなく、多かれ少なかれ、殆どの人が持っています。

キャラクター
・ラテン語で「刻み込まれたもの」という意味
・本来の自分の性格
・もって生まれた先天的なもの

ペルソナ
・ラテン語で「仮面」という意味
・役割性格
・環境や役割に応じたもの

これは、白黒はっきりするような類の話ではなく、程度の問題です。キャラクターをどの程度まで自然とだすことができているか、ペルソナという鎧によって自分をガチガチに固めすぎていないかということがポイントになります。

横の関係性が築けることによって、キャラクターを自然とだすことが多くなり、ペルソナで自分を包み込む必要性が少なくなるので、自然で、楽な状態で過ごすことができます。

特に、対人関係に苦手意識がある方は（自分もその一人です）、このキャラクターとペルソナという両面があることを知ると共に、キャラクターがどのくらい自然と発露しているかに意識的になることで、自分を楽にすることができます。

ここで、疑問を持たれた方もいらっしゃると思います。「自分は横の関係を築きたいと思っていても、相手が縦の関係を求めてくる場合は、どうすればいいのか」という疑問です。

このような場面においては、自分がいくら横の関係を築こうと思っていても、自然で楽に自分らしくあるということは難しいかもしれません。ペルソナで自分を包み込む必要性がでてくる場面もあるでしょう。

この話は、別の記事でしっかりと扱いたいと思いますが、結論からいえば、アドラー心理学で言われる「課題の分離」が必要になります。「縦の関係性を求めてくるのは、自分の課題ではなく相手の課題なので、気にしないようにする」という姿勢です。

「え、そんなに簡単にわりきれない」という方もいらっしゃると思います。しかし、この課題の分離という感覚に慣れてくると、自己信頼と他者信頼をベースとして横の関係性を築こうとすることが自分の課題であり、他者がどのような関係性を求めてこようとも、自分は自分らしくあるという姿勢に近づくことができます。

横の関係性が築けると、部下がイキイキとする

皆さんのこれまでの上司の方を思い浮かべてください。あるいは、学校の先生や部活の先輩など、役割上の上下関係があった人を思い浮かべて頂ければと思います。

その人たちの中で、皆さんを含めた人との関係性を、「縦の関係」で捉えていた感じがする人は思い浮かびますか？また、「横の関係」で捉えていた感じがする人は思い浮かびますか？

そして、「縦の関係」を志向する上司の人と、「横の関係」を志向する上司の人の印象はどのように違うでしょうか？私の感覚では、次のような違いがあります。

「縦の関係」を志向する上司
・その上司の前では、基準や規範を満たすことの必要性を感じる
・基準や規範の前提となることについては、言いだしにくい雰囲気がある
・部下としての役割期待を満たせば、認めてもらえる感じがする

「横の関係」を志向する上司
・何でも相談できる、何でも意見具申できる雰囲気を感じる
・部下である前に、ひとりの人として尊重されている感じがする

ここで申し上げたいことは、部下の立場からすると、上司が「縦の関係」を志向しているか、「横の関係」を志向しているかは、明確に察知することができるということです。

上司の「横の関係」の志向性を感じ取ることができた部下は、安心して、自分の個性をだしていくことができます。そして、イキイキと働くことができます。また、上司としても、部下からのいろいろな意見を吸収することができます。全てが的を射ているとは限らないものの、その中には上司である自分も気づかなかった新しい視点が含まれていることもあるでしょう。

上司・部下というのは、役割上は縦の関係性ですが、人間関係という意味においては自己信頼と他者信頼をベースとした「横の関係性」を築くことをお薦めします。これは、自己信頼という奥深い概念がベースとなりますので、簡単に実現するものではないかもしれませんが、少しずつその状態に近づいていく努力は、必ずや報われる時が来るでしょう。

家族を横の関係で捉えてみる

最後に、家族についてお話ししたいと思います。当たり前の話ではありますが、家族には親子の関係、夫婦の関係、兄弟姉妹の関係など、血縁上で規定されている関係性があります。

また、多くの場合、「親子関係はこのようなもの」「夫婦関係はこのようなもの」という関係性についてのイメージを個々にもっています。

家族の関係性についても、「縦の関係」で捉えているか、「横の関係」で捉えているかということを意識化してみると気づきがあるかもしれません。

私の場合は、家族との関係性を「横の関係」で捉えられているときは、家族円満に過ごせています。ただし、何かのきっかけで「縦の関係」が混ざってきてしまうときに、関係性がうまくいかないことがあります。そのような時は、自分が家族との関係性を横と縦のどちらで捉えているかについて意識化するようにしています。

今回の記事では、自己信頼が、人との「横の関係性」を育み、自分は自分らしく、他者もその人らしくいられるようになるということをお話ししました。

本日の問いとなります。（よろしければ、コメントにご意見ください）

・「縦の関係」と「横の関係」という定義をみたときに、あなたと周囲の人（家族、友人、職場の人々）の関係性はどのように捉えることができるでしょうか？

縦の関係（落合の定義）：
地位や能力や経験などの何らかの基準によって、上下の違いが意識的あるいは無意識的に規定されている関係性

横の関係（落合の定義）：
お互いの存在や個性や主体的真理を尊重する対等な関係性

・自己信頼と他者信頼をベースとした「横の関係性」が築けると、あなたにとってどのようないいことがありそうでしょうか？

What is the effect of self-trust on our relationships with others?

In my previous article, I talked about how self-trust creates trust in others, and how having self-trust and trust in others allows us to face challenges and to engage in creative activities through the interplay of subjective truths.

In this article, I will talk about how having self-trust and trust in others can change the way we relate to others.

When there is trust, the relationship is horizontal, not vertical

When you have self-trust and trust in others, the quality of our relationships with others changes. It is not a "vertical relationship" but a "horizontal relationship". This is something that is mentioned in Adler psychology.

Vertical relationships are those in which the difference between superior and inferior is consciously or unconsciously defined by some standard of status, ability, or experience. A horizontal relationship is one in which there is no hierarchical difference based on such standards, but rather an equal relationship in which both parties respect each other's existence, individuality, and subjective truth.

Vertical relationship (Ochiai's definition):
A relationship in which the difference between superior and inferior is consciously or unconsciously defined by some standard such as position, ability, or experience.

Horizontal relationships (Ochiai's definition):
A relationship of equality that respects each other's existence, individuality, and subjective truth.

As we can see from this definition, the vertical relationship is based on conditional credit because there is a judgment based on some criteria, and the horizontal relationship is based on unconditional trust.

There are a lot of good things that can happen when we can build horizontal relationships instead of vertical ones.

Horizontal relationships are based on unconditional trust, which allows us to be who we are and the other person to be who they are. And as I wrote in a previous article, mutual trust makes it easier to create new value because it allows us to face challenges and to challenge each other with subjective truths.

The important thing to remember is that vertical relationships and horizontal relationships have completely different bodily sensations. Vertical relationships include an element of conformity to external standards, and it is often difficult to express oneself in a natural way. To put it simply, there is a hurdle to "being yourself. In a horizontal relationship, we can naturally "be ourselves" and the other person can also "be themselves".

My personal feeling is that a horizontal relationship is like a relationship with a childhood friend. Thankfully, I still communicate with my elementary school classmates through social networking sites, play tennis with them, have dinner with them, etc. Whenever we meet, I always feel a warm, safe, and secure feeling that is unique to childhood friends.

It doesn't matter what kind of work we do now or what kind of title we have, we respect and trust each other as childhood friends. Yamada-kun, my childhood friend, is still Yamada-kun, no matter what he does or how old he is.

Some people may feel uncomfortable talking about the relationship with childhood friends together with the relationship at work.

Relationships at work are often already defined by some standard or convention, whether it is between bosses and subordinates, between departments, or between customers and vendors. In such an environment, no matter what kind of relationship we personally desire, we will need to behave in a way that does not break the already defined relationships.

In terms of the relationship between superiors and subordinates, there is certainly a hierarchical relationship in terms of work roles. In such a situation, subordinates are expected to follow the instructions of their superiors to a certain degree.

In terms of the relationship between the customer and the vendor, it is not a hierarchical relationship, but the relationship is often defined by the fact that the vendor receives payments from the customer for meeting the customer's expectations. In such a situation, as a vendor, we are expected to meet the customer's expectations.

Needless to say, it is important to maintain smooth relationships in these roles. However, my standpoint is that it is better to have "horizontal relationships" as well, not just smooth role relationships.

In the workplace, it can be difficult to build horizontal relationships with everyone. Even if we want to build a horizontal relationship, the other person may communicate with us on the basis of a vertical relationship. Nevertheless, I recommend that we base our relationships in the workplace on horizontal relationships based on self-trust and trust in others.

I'm not saying that everything will work out, but increasing the number of people who can build such a trusting relationship, even if it's just one or two, will definitely lead to a sense of enjoyment and fulfillment in working at the workplace, and as I mentioned in my previous article, it will have a positive impact not only on the relationship, but also on the quality of work and results.

Horizontal relationships allow us to be ourselves

Earlier, I said that when we can build horizontal relationships, we can be ourselves, and I would like to talk about this in more detail.

A horizontal relationship is "a relationship of equality that respects each other's existence, individuality, and subjective truth," which means that there is a sense of security in both oneself and others that it is safe to express one's true self.

In contrast to our original personality (Character), we have a role personality (Persona) that is designed to fit into society. This is not to say that it is good or bad, but that most people have it to a greater or lesser extent.

Character:
・In Latin, it means "something imprinted.
・Your original personality
・Inborn nature

Persona:
・Latin for "mask that covers the face"
・Role personality
・Personality according to the environment and role

This is not a matter of black and white, but a matter of degree. The key is to what degree we are able to bring out our Characters naturally, and whether we don't harden ourselves too much with the armor of Persona.

By building a horizontal relationship, we are more likely to let our Characters come out naturally and less likely to wrap ourselves up in a Persona, which makes us feel natural and at ease.

Especially for those who are not good at interpersonal relationships (I am one of them), knowing that there are two sides, Character and Persona, as well as being conscious of how naturally our character emanates, can make us feel more comfortable.

Some of you may be wondering, "What should we do if we want a horizontal relationship but the other person wants a vertical one?"

In these situations, it may be difficult to be ourselves naturally and effortlessly, no matter how much we try to build horizontal relationships. There will be times when we need to wrap ourselves in a Persona.

I would like to deal with this topic thoroughly in another article, but in conclusion, we need to "separate the tasks" as it is called in Adler psychology. It's an attitude that says, "I don't care if they want a vertical relationship because it's not my task, but theirs."

Some of you may say, " No, it's not that easy to separate." However, once we get used to this sense of separation of tasks, we can come closer to the attitude that our task is to try to build horizontal relationships based on self-trust and trust in others, and that we are being true to ourselves, no matter what kind of relationship others request.

Horizontal relationships help subordinates become more energetic

Think of your previous bosses. Or think of someone you have had a hierarchical relationship with in terms of role, such as a teacher at school or a senior member of a club.

Can you think of any of these people who seemed to have a "vertical" relationship with other people, including you? Can you think of anyone who seems to have had a "horizontal" relationship with others, including you?

And how does your impression of a boss who is oriented toward "vertical relationships" differ from that of a boss who is oriented toward "horizontal relationships"? My sense is that there is a difference as follows.

A supervisor with a "vertical relationship" orientation
・The need to meet standards and norms is felt in front of the boss.
・There is an atmosphere in which it is difficult to speak up about things that are prerequisites to the standards and norms.
・There is a feeling that if I fulfill the role expectations as a subordinate, I will be recognized.

A supervisor with a "horizontal relationship" orientation
・I feel that I can consult with them about anything and can express my opinions about anything.
・I feel that I am respected as an individual, not merely as a subordinate.

What I want to say here is that from the standpoint of a subordinate, it is possible to clearly detect whether the boss is oriented toward a "vertical relationship" or a "horizontal relationship.

Subordinates who are able to sense the "horizontal relationship" orientation of their superiors will feel at ease and be able to express their individuality. They are then able to work with vigor and vitality. As supervisors, we can also absorb various opinions from our subordinates. While not all of them may be right on point, some of them may contain new perspectives that we, as supervisors, may not have noticed.

The relationship between boss and subordinate is a vertical relationship in terms of roles, but in terms of human relations, I recommend building a "horizontal relationship" based on self-trust and trust in others. This is based on the profound concept of self-trust, so it may not be easy to achieve, but our efforts to gradually approach this state will surely be rewarded.

View family as a horizontal relationship

Lastly, I would like to talk about family. As a matter of course, families have relationships that are defined by the kinship between parents and children, between husband and wife, and between brothers and sisters.

In many cases, people have their own image of what a parent-child relationship is like, or what a marital relationship is like.

In terms of family relationships, we might gain new insights if we become aware of whether we are viewing the relationships in terms of "vertical" or "horizontal" relationships.

In my case, when I am able to see my relationship with my family as a "horizontal relationship," I am able to have a happy family life. However, there are times when the relationship does not go well when the "vertical relationship" gets mixed up for some reason. When this happens, I try to become aware of whether I am viewing my relationship with my family horizontally or vertically.

In this article, I talked about how self-trust fosters "horizontal relationships" with people, allowing us to be true to ourselves and others to be true to them.

Here are the quests of the day. (If you'd like, please share your thoughts in the comments.)

・When you look at the definitions of "vertical" and "horizontal" relationships, how would you describe the relationship between you and the people around you (family, friends, people at work)?

Vertical relationship (Ochiai's definition):
A relationship in which the difference between superior and inferior is consciously or unconsciously defined by some standard such as position, ability, or experience.

Horizontal relationships (Ochiai's definition):
A relationship of equality that respects each other's existence, individuality, and subjective truth.

・What would be good for you if you could build a "horizontal relationship" based on self-trust and trust in others?

Bunshiro Ochiai