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双極症と脳のpH変化


最近の研究で、双極性障害(双極症)の患者の脳内では酸性に傾く傾向があることが示されました。脳の酸性化は、乳酸の増加と関連しており、これはグルコースの代謝によって生成されるものです。酸性化自体が双極性障害の病態に寄与している可能性があると考えられています。

大規模な動物モデル研究


双極性障害を含む精神・神経疾患における脳のpHおよび乳酸の変化を調査するため、世界7カ国から131名の研究者が参加し、109種類、計2,294匹のモデル動物を用いた大規模な研究が行われました。この研究では、遺伝子改変やストレス負荷によるモデル動物の脳サンプルを収集し、pHと乳酸量を測定しました。

その結果、双極性障害、統合失調症、自閉症、うつ病、てんかん、アルツハイマー病など、多くの疾患モデルで脳のpH低下と乳酸増加が共通して見られました。特に、作業記憶の低下と乳酸の増加が密接に関連していることが示され、脳の酸性化が認知機能に影響を与える可能性が示唆されました。

乳酸の増加と脳の酸性化のメカニズム


1. グルコースの代謝:


• 脳のエネルギー供給の主要な源はグルコースです。グルコースは血液から脳へ取り込まれ、エネルギーを生成するために代謝されます。
• 通常、グルコースは酸素の存在下でミトコンドリアで代謝され、ATP(アデノシン三リン酸)としてエネルギーが供給されます。この過程は好気的代謝と呼ばれます。

2. 嫌気的代謝と乳酸の生成:


• しかし、酸素が不足している状態やミトコンドリアの機能が低下している状態では、グルコースは細胞質で嫌気的代謝によって代謝されます。この過程で乳酸が生成されます。
• 嫌気的代謝では、1モルのグルコースから2モルのATPと2モルの乳酸が生成されます。これにより、乳酸の蓄積が進みます。

3. 乳酸の蓄積と酸性化:

• 乳酸が脳内で蓄積すると、pHが低下(酸性に傾く)します。これは、乳酸が水素イオン(H⁺)を放出するためです。脳内の酸性化が進むと、細胞の機能や神経伝達が影響を受ける可能性があります。
• 具体的には、酸性化は神経細胞の興奮性を変化させたり、神経伝達物質の放出や再取り込みに影響を与えたりする可能性があります。

4. 脳の酸性化の影響:


• 研究によれば、乳酸の増加とそれによる脳の酸性化は、作業記憶や他の認知機能の低下と関連していることが示されています。これが双極性障害の患者に見られる認知機能の変動や症状の一因である可能性があります。

所感

個人的個人的には、双極症の原因に「ミトコンドリアの機能障害」寄与していることまでは理解しておりました。
今回紹介した研究により、ミトコンドリアの機能低下によるグルコースの嫌気的代謝によって、乳酸の発生、蓄積が進む、その結果認知機能へ影響現れる、という、詳しいメカニズムまでわかることができました。
これにより、病態の生物学的理解が進み、新たな治療法開発の可能性が広がることが期待されます。

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