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ヴィーガン・ミニマリストと伝統的なクリスマス

「私の友だちみんながweird(変、不気味)でヴィーガンなわけじゃないよ」彼女は、お兄さんの彼女が、初めましての私に対して開口一番「あなたもヴィーガンなの?」と聞いてきた途端、ムッとした口調でこう返した。お兄さんの彼女は少し困った顔で「いやそういう意味じゃ無いし、別にヴィーガンはweirdじゃないよ。ただ気になっただけ」と慌てて言った。
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2019年のクリスマス。仲の良いドイツ人のクラスメイトの子が誘ってくれたので、南ドイツの田舎にあるその子の実家で4日間、その子の家族と一緒にクリスマスを思う存分満喫させてもらった。

環境アクティビスト団体で活動する彼女。私が出会った頃はベジタリアンだったけど、半年ほど前からヴィーガンになった。ヴィーガンは、動物に由来する全てのものを食べない。肉魚はさることながら、ミルク、卵、チーズなどなど。だから、一緒にカフェに行って、以前のようにケーキをシェアすることもなくなった。かといって彼女は私にヴィーガンを強要することはないし、一緒にヴィーガンカフェに行ったり、ヴィーガンお菓子をつくったりと、ヴィーガンな彼女とそうではない私は、一緒に楽しく生活している。(コペンハーゲンの学食は基本ヴィーガンコーナーがあり、カフェは動物性由来でないオートミルクなどを用意していることが多いので、ヴィーガンフレンドリーな街といえると思う)

しかし、伝統的なヨーロッパのクリスマス料理はそうはいかない。まず全てにおいて「肉」が基本である。野菜もあるが、クリーミーなソースには動物性由来の何かが使われているし、デザートやクリスマスクッキーも、卵や牛乳が使われている。クリスマスの1ヶ月ほど前から、彼女は「お母さんにヴィーガンの料理もつくろうって提案している。でも伝統を重んじる姉が難色を示している」と話をしていた。

彼女の家は超豪邸で、クリスマスは4人兄弟とそのパートナー、両親、おばあちゃん(+わたし)という大所帯パーティーだった。23日の昼から、昔から変わらないクリスマスメニューがスタートする。料理をして、ご飯を食べて、料理をして、ご飯を食べて。本当にその繰り返しだった。

白ソーセージ、牛肉のしゃぶしゃぶ、ハム、ローストビーフ。

なんちゃってベジタリアン生活を続けている私にですら「おおこれはちょっと....」と思わせるほどの肉のオンパレード。彼女は、と言うと、自分でヴィーガンのご飯を作ってそれを食べていた。「私の料理は全然なくならないね、まあ私一人しか食べていないからね」という冗談に、残りの我々は何も言い返せはしなかった。かといって、彼女は我々を非難することももちろんない。

そしてプレゼント交換タイム。家族のメンバー一人一人から一人一人へ。大量の包装紙、(お互い必要なのかも分からない)プレゼントの贈り合い。私はというと、両親にサプライズでプレゼントをあげたのはいつが最後だろう。全く思い出せない。その分ワクワクもあって、特に彼女の両親は4人の子どもたちが自分たちのことを考えて買ってきてくれたプレゼントを、とても嬉しそうに受け取っていた。私は素直に、その家族の絆が素敵だな、とも思った。

最近は、環境問題への関心の高まりも相まって、"体験"プレゼントの贈り合いも増えているらしいが、クリスマスのプレゼント商戦は今後も少なくとも数年はとどまることを知らないんだろう。彼女の「来年からは欲しいものを事前に伝え合うか、体験のプレゼントにしない?」という提案は、家族の苦笑いにより宙に消えていった。

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クリスマスが終わり、私が帰る最後の日の午前中。荷造りをしていると、私の友達が目を真っ赤にして私の部屋にいきなりやってきた。

「自分がconsumerism(消費主義)の象徴のような生活をしてるのがもう耐えられない」と。

彼女の姉と彼女は仲があまり良くない。「今までの家族の伝統を一番大切にしなきゃいけないのに、ヴィーガンになって伝統を壊さないで」と姉が彼女に言ってきたらしい。朝から晩まで食べ続けて、物が足りなくなったらよくないから、と、全ての食事を作りすぎて。自分が欲しくないものをもらって、包装紙というたくさんのゴミを出して。彼女がコペンハーゲンでしている生活とはかけ離れた生活をするのに耐えられなくなったのだろう。彼女は、もし彼女の姉が来年もそういう風に振る舞うのだったら、自分は来年クリスマスをこの家族と過ごすのか分からない、と言った。彼女の言いたいことはわかる。でもそれはとても悲しいことでもある。彼女も素直になるべき部分もあると思うが、彼女の姉も彼女の選択を尊重してあげて欲しいな、と心から思った。

日本はプラスチックフリーで過ごすのが難しい、という話を聞いたことがある。ヴィーガンというとマイナスな反応をされる、とも。確かにヨーロッパは、少なくともデンマークは、リサイクルが進んでいるし、政府の環境問題に対する取り組みも日本の立場とは段違いで進んでいる。ベジタリアン、ヴィーガンの人も多いし、そういう人対応のレストランもたくさんある。でも、文化に根付く伝統がエコフレンドリーかというと全くそうではない。

好んで「ヴィーガンハム(デンマークでは普通のスーパーでヴィーガン肉が買える)」を食べる彼女を見ながら、日本で育った人がミニマリスト、ヴィーガンの生活をするより、彼女がその生活を続ける方がとても大変なのかもしれないな、と思った。



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