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自称"Yellow Fever"に初めて出会ったお話

「将来は日本人と結婚したいと思ってる。いや、国籍を限定してるってわけじゃないよ。でも日本語の勉強や日本文化を知ることにたくさん投資してきたから。だから日本人と結婚したいし日本人の彼女が欲しい」

20代前半のデンマーク国籍の彼は、流暢な英語で私にはっきりと宣言した。母語はデンマーク語。英語はビジネスレベル。日本語は中級くらい。英語の方が俄然コミュニケーションがスムーズに取れるしブリティッシュコメディが大好きな彼なので、その理論でいくとイギリス人でも良いのでは?と思ってしまうが、彼は日本人と結婚することが一つの夢で、現に今恋している女の子も日本人である。そして来年に計画している4度目の日本旅行が、今の彼の一番の楽しみである。

本当は彼の家族背景や私との関係性を書いた方が私の葛藤がよりクリアになるのだけれど、この狭いデンマークで日本に興味がある人は明らかに限られていて、彼の匿名性を守るためにそこには触れないけれど、私は彼と定期的に会わなくてはいけない関係にある(なんかヒミツの関係に聞こえるけど全くそんなことはないです笑)。

思えば初めて会って、何気なく私が婚約している彼がいることを告げた時、彼は少しびっくり&がっかりしていた。一目惚れなどでは全くなく、会う前から日本人というだけで恋愛対象だったのだろう。今思うとちょっと気持ちわるい。

彼が「結婚相手は日本人!」なんてことを言うもんだから、私は少し呆れて「Yellow Feverて知ってる?日本とか韓国とか、アジアの子は従順だから好きとかそういう人のこと」と言ったら「まあ僕はそうかもしれないけど。でも日本に何度も行ったことがあるけれど、日本人の女性は一般的にsubmissive(従順的)だと感じたよ。デンマークの女性はtoo strong and too demanding(強くて要求が多い)だからね〜」と彼は否定もせず、むしろ笑いながら言った。その瞬間、私はなんて返して良いか分からなかった。あの時の感情を文章にするのは難しい。少し悔しくて、悲しくて、バカにされているような気もして、でも彼の意見に納得する自分もいて。咄嗟にそれは社会構造に紐づいてて、とか、日本はまだ女性のリーダーのロールモデルが少なくて、とか言ってみたけれど、この不愉快な気持ちをどう言葉にして良いのか、その時は分からずにすぐに話題を変えてしまった。

そんな話を、チェコから来たクラスメイトに何気なく打ち明けた。彼女は私以上に彼に対して怒って、東欧女性に対して同じような偏見を持ってるイギリス人男性に出会った話を共有してくれた。そして「彼は何人の日本人女性を知ってるって言うんだろうね。そんな勝手に日本人をカテゴライズしてえいこ(私)の前で語るなんて何様のつもりなんだか!」と言い切った。私を励ます意味もあったのだろう。そして「彼と私の間に社会的な"Power relationship"がある場合は特に、相手が言った発言に対して即座にconfront(立ち向かう)のは誰にだって難しい。流した方が楽だし、気にしないように努めた方が上手く収まることだってあるし。でもえいこがストレスに感じたり不愉快に思うことが続くのは間違ってる。だからまずは私が不愉快に思ったという事実を伝えた方が良いよ。彼に悪気がないのであれば、彼はただ無知なのかもしれないし。もし彼に学ぶ余地があるのなら、意見を受け入れてくれるだろうし、もし学ぶ余地がないのならそれまでのこと。」と続けた。そんな彼女の話を聞きながら、私が不愉快に思ったことを咄嗟に伝えなかったのは、その場の雰囲気を悪くさせるのも嫌だったし、その場をまあ丸く収めれば良いや、という気持ちが咄嗟に働いたからだとも思った。相手に自分が不愉快だと感じることを伝えるのは、どんな場面だって勇気がいることだから。

そして、この発言以外にも、私が彼と話していると時々とても居心地が悪く感じる理由が分かった。それは「日本人女性である」ということを会話の節々で思い出させてくるからだ。いや、もちろん彼に悪気はないし、それは本当の事実である。でも、私は日本人女性であると同時に、デンマークに住んでいる一人の人間だ。もちろん会話の内容によっては全然構わないのだけれど、あらゆるトピックにおいて、そんな常に私を「一日本人女性」として見なくても....と思ってしまうのだ。というか、私は人にラベリングをして語りだがる人が、とても苦手なのだと思う。年齢とかジェンダーとか出身大学とか。いや、そんなんどうだって良いじゃん、とは言わないが、常にそれを意識して話してくるような人とは「同じ土俵で話してほしいなあ」と思ってしまう。

しかし自称"Yellow Fever"とよき人間関係を続けるのには違う問題もある。それは「日本人女性はsubmissive」なんて言うもんだから、あまり優しくしたらsubmissiveイメージを強くしてしまう!とか、こんなこと言ったらバカにされるからやめとこう....とか、会話をしている際に変に意識してしまい、どう関わったらよいか時々分からなくなってしまうのだ。彼の「日本人女性」というラベルがついたBOXに当てはまらないように無駄に意識してしまい、結果的に嫌なヤツになっているのでは、と思うほどである。

彼はある時、自分に自信がない、と私に打ち明けた。日本は英語を話せる人が少ないから、英語を練習したい人のmeetupイベントに行くと自分がpopularになれる、とも言った。いや、それは事実なのだけれど。でも彼のこれまでの発言を考えると「彼はデンマーク人女性と恋人になるには自信がないけど、日本人女性となら恋人になれると思っているのかな。それって日本人女性一般をある意味下に見てるってことなのかな。」なんて思ってしまった。もちろん、これは私の考えすぎなのだけれど。

ちなみにここまで書くと彼が超最低人間みたいだけど、一応彼の名誉のために補足しておくと、彼の発言に恐らく悪気は全くなく、基本的に彼はとても気遣い屋さんで優しいし、日本の社会問題にも詳しいので彼とそういう話をするのは楽しい(時々優しさすら少し気持ち悪く感じてしまうことがあるのは置いておこう)。だからこそ、チェコの友だちが言ってくれたように、機会を見つけて、きちんと私が不愉快と感じた、ということを話してみようと思っている。男女間でジェンダー問題を語るのは時に難しい。それが文化を超えると特に。でもまずは、自分が不愉快に感じたというその気持ちを伝えることから、会話はスタートすると思った。だから今度からは、彼の意見を論破しなければとか、説き伏せなくては、とかではなく、自分がその意見は不愉快に思う、ということだけでもその場で咄嗟に伝えようと思った。だって私もこのまま放置したら、また私以外の誰かが不愉快に思うかもしれないし、それは彼の本望ではないと思うから。少なくとも彼が来年日本に旅行する前に、私が思っていることを伝えて、彼が今までとは違った視点で文化やジェンダーのことを考えてくれたら良いな、と思っている。

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