運命の絆
運命の絆
二万年後の銀河シリーズ
第三弾
ミーターの大冒険
余白
第37話
ジュネーブの澄んだ空気の中、ハニスとヴァレリーはゆっくりと歩を進めていた。この地は、かつて19世紀に「フランケンシュタイン」の物語が生まれた場所でもある。ヴァレリーが話し始めた。
「先生、このジュネーブは、19世紀の英国作家メアリー・シェリーが『フランケンシュタイン』を書いた場所としても知られています。彼女の作品では、人間が自ら創り出した怪物が、自分の存在意義に苦悩する様子が描かれています。まるで、ロボットと人間の関係を予見していたかのようですね。」
ハニスは少しの間を置いてから答えた。「そうだ。あの物語が暗示するのは、人間が手にした創造の力が、時に制御できないものとなるということだ。我々の時代でも、ロボット第零法則がその一例だ。」
「第零法則…すなわち『人類全体の利益を守るために行動する』という規則ですね。しかし、ジスカルド・レヴェントロフの存在が示すように、それは完璧ではなかった。」ヴァレリーの声は、まるでその法則に潜む危険性を強調するかのように静かだった。
「そうだ、ジスカルドはその限界を自ら体現していた。彼はダニール・オリヴォーと共に行動し、そして多くの問題を解決してきた。しかし、彼の行動には常に孤独が付きまとっていた。イライジャ・ベイリーが亡くなると、相談できるのは同じロボットであるダニールだけだった。」
ジュネーブの静かな景観の中、ハニスは続けた。「だが、人とロボットの間にも絆は生まれる。ジスカルドとダニールの友情、そしてサートン博士がファストルフ博士に託した信頼は、単なる機械的なものではない。彼らは共同で作業し、共に未来を模索した。」
ヴァレリーはその言葉に頷きつつ、ガール・ドーニックの研究に話題を移した。「ガール・ドーニックの研究もまた、その絆を描いています。彼の微細心理歴史学は、過去を読み解くと同時に、未来への希望を繋げている。彼女が『故郷星探査報告書』に記した内容は、ボー・アルーリンの心理化学との共同研究によって生まれたものです。ボー・アルーリンは、古代地球の記号論理学の手法を掘り出し、ガールの新発見に貢献したんですね。」
「そうだ。そして、その研究の成果が人類とロボットの関係を再定義する鍵となった。ミュールのような例外的存在も、ロボット第零法則の限界から生まれた悲劇だが、その裏にはロボットと人間の間にある深い絆が見える。そもそもはジョン・ナックが福島原発の廃炉のデブリから微かな異常音を察知して、ジスカルド・レヴェントロフを掘り出したのがはじまりだ。」ハニスは思索的に言葉を重ねた。
彼らは静かに歩き続けながら、未来への可能性について話し合った。ロボットと人間が共に築いてきた歴史、その中に潜む友情と責任の重みが彼らの対話の中心となっていた。
次話につづく . . .
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