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朝ドラ『おむすび』~TRY ME~歩は真紀ちゃんの言葉を信じた(第5週) 


権利関係強めな朝ドラ『おむすび』

福岡ダイエーホークスの映像に応援歌、安室ちゃんの楽曲にジャケット写真。
権利強めの本作は再放送のハードルが高いかもしれない。『てるてる家族』もミュージカル楽曲多いからそう言われている(オンデマンドでは配信されている)。
今ちゃんと見ておかないと!と思った。


平成7年1月17日 阪神淡路大震災発生

地震の描き方にはいろいろある。
東日本大震災を描いた『おかえりモネ』では、時計の針が午後2時46分に表示されたところでその日の回が終わり、翌日の回では、主人公と父親が自宅に車で戻ろうとしたけど渋滞でまったく進まないシーンになり、地震直後の混乱を伝えていた。

本作で、
「このあと地震の描写があります」
とわざわざテロップを入れてまで描こうとしているのだから、制作側でも議論を重ねてのことなのではないだろうか。

幼き結の「おばちゃん、これ(おにぎり)つめたい。ねぇ、チンして」の言葉。
避難先で寒い思いをしているときに出されたおにぎりは、とても有難いものではあるのだけれど、それがとっくに冷めているものだと気が付いたときの心の冷えは、想像を超えるものなんだとも思った。

永吉のこれまでの人生はホラばかりではないのだろう。神戸まで車で来る機動力を持っている。校内呼び出しをして聖人が現れた途端、「お前生きとったか!」と言うことからして、この避難所にたどり着くまでにあちこち探しまわっていたこともうかがえる。

永吉「糸島へ来い。今から、家族全員で糸島へ行くばい」
聖人は神戸の人たちに受け入れてもらえたと思ったからこそ、アーケード設置の責任者も引き受けたし、震災後には自分も被災したのにボランティア活動も積極的に行っていた。

それなのに、
「仮設住宅には、行き場のない人に住んでもらいたい。帰れる場所がある人は、そっちに行ってもらったら助かります」
との若林の言葉は、それが聖人一家を糸島に帰らせるための親切心だったとしても、聖人からしたら ”真に受け入れられてはいなかった” と思うのに十分すぎるものだったはずだ。
だからといってすんなり糸島へ帰る聖人ではない。折衷案として、愛子、歩、結を先に帰らせ、聖人は結局、半年間、神戸に残っていたようだ。

震災当時、愛子は義理の両親に対して敬語を使っていたが、今ではタメ口になっている。永吉と佳代に言われたからなのかは分からないが、愛子からしたら「ここ糸島で生きていく」という決意の表れなのかもしれない。

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真紀ちゃんは、倒れたタンスに挟まれて亡くなった。
災害の都度、私たちは対策を講じてきたけれど、この頃はタンスを固定する習慣がなかったのだということを、あらためて認識させられたのである。


そういえば、糸島フェスティバルの直後だった。そこからの米田家での打ち上げ。

海辺のシーンは、舞台を観ているかのようだった。本作は舞台みをチョイチョイ挟んでくれている気がする。結のアングルがずっと同じだから、神戸と糸島のセットが交互に転換し、それを座席に座って観ているような感覚になった。
四ツ木少年も観客だ。だから泣いたのだ。

そこに永吉が現れ、一気に現実に引き戻される(笑)
そうだ、これは糸島フェスティバルが終わった直後だったんだ。将来有望な野球選手を今から囲い込もうとする永吉なのである。

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打ち上げはめちゃめちゃ楽しそうだった(笑)
福西のヨン様、リアルヨン様に寄せるの上手。初めてじゃないな(笑)

結はルーリーたちと一緒にはしゃがないで恵美の隣に座っている。
結の本来の気質だから当たり前かもしれない。恵美がギャルのことを誤解している手前もあるし、彼女を一人にさせないようにと気を回しているようにも思える。
後から判明したが、恵美は陽太のことが好きなようだ。だから結が気を回さずともギャルたちと好きにやってくれていたら、恵美はちゃっかり陽太の隣に移動したんじゃないかな。
だが、その陽太は永吉から、結を守るよう言いつけられていた。あのストーカー的行動も使命感からなのかと思えば怪しさは半減したがの。

「飛び込んできぃ」と、海に入れと促す幼き陽太の姿は、なんとなく『潮騒』の「その火を飛び越えてこい」を想像してしまった……

子ども二人で水際にいたら危ないじゃん!と思っていたら、ちゃんと陽太のお父ちゃんが見守っていたの必須シーンだった。

ただ、結の気質は糸島に転居してからのものに思えた。
神戸に戻ることを諦めていない聖人の逡巡、透明感のある明るさを失った歩の姿を見るにつけ、幼い結から無邪気さが削り取られ、大人たちの様子をうかがう子供になってしまっていたようで……


TRY ME~歩は真紀ちゃんの言葉を信じた

安室奈美恵 with SUPER MONKEY'S 『TRY ME 〜私を信じて』が発売されたのは阪神淡路大震災の1週間後。真紀ちゃんは、安室ちゃんのブレイクを見ることなく亡くなってしまった。
歩は真紀ちゃんの「これからもっと売れる」の言葉に従い安室ちゃんのCDを買い続けたが、次第に曲を聞くことも辛くなり、地震で蓋のつぶれた缶の中に封印した。

歌詞を引用する。

受話器の向こう あなたの声 胸が痛い
彼女との恋 失くしたこと嘆かないで
新しい世界のドアを開く勇気
届けたい 誰より 熱く…
そうよ TRY ME あなたをつつむ 愛が待っている
いまは TRY ME 悲しい想い 消えなくても
そうよ TRY ME あなたをみてる 私を信じて
もっと TRY ME 違う明日の 夢をあげる

(「TRY ME 〜私を信じて」1番の歌詞。作詞:鈴木計見)

先週の歩の「最初からギャルなんかじゃなかったから」、今週の「ニセモノだから」の言葉の意味が分かってきた気がする。

歩は、真紀ちゃんが望む姿になりたかったのではないか。
真紀ちゃんが「この先もっと売れる」と推していた安室ちゃんが本当にブレイクして、ギャルのカリスマとなったのに、真紀ちゃんはその姿を見ることが出来なかった。
だから歩は、自分がその姿に近づけるようにと思ったんじゃないだろうか。

入学式が勝負なんだ。そこで高校3年間の自分の立ち位置が決まるかもしれないから。
歩はこの曲を繰り返し聴いていた。ロングヒットとはいえ半年経っても1年経っても聴いていた。
『TRY ME~』から聞こえてくる「あなたをみてる私を信じて」「違う明日の夢をあげる」などの言葉は真紀ちゃんからのメッセージだと受け止めて、歩は変わろうとしたんだ。きっと。

私もあの頃、曲を何度も聞いたし、テレビで安室ちゃんが歌うのも何度も観たし、コンサートにも行った。それなのに歌詞を見るにつけ、真紀ちゃんの想いが乗っかってきて悲しくなってしまう。
今になってこの曲をこんな風に感じることになるとは、思いもよらぬことだった。


聖人の逡巡

聖人は、トマトを食べることのできた結と、糸島東高校を受験したいと言う歩に、ここに根付くしかないと観念したのかもしれない。何度も読み返したであろう『神戸だより』を押し入れにしまい込んでしまった。

そこから時が経ち、糸フェスの打ち上げに乗じて、聖人は溜め込んできたものを全て吐き出すこととなった。クソ真面目な聖人は、”ギャル=不良” の数式以外の答えを見いだせず、歩をグレさせてしまったのは自分のせいだと、震災のせいにもせず抱え込んでいたから。

小さい頃から大人の様子をうかがうクセがついている結が、そんな父の姿を見て「ギャルをやめる」と宣言してしまうのも無理からぬことだ。
不良扱いされても聖人のことを「ウザい」と言わずに結の気持ちを慮ってくれるハギャレンの皆はいい子じゃないか。

父の大演説を聞いて歩はどう思ったのだろうか。ちっとも分かってないじゃん!もありつつ、親から愛されているという事実は、自分を1歩前に進めさせてくれるものになったのではないだろうか。安室ちゃんの曲を聞いて真紀ちゃんに導かれていた頃のように。

米田家の呪い……永吉は(本人いわく)いろんな仕事をしながら各地を渡りあるき、聖人は理容師を志し神戸へ向かった。歩は偽物のギャルのまま上京し、モデルをしていた。それなのに、結局は皆、糸島へ帰り着いてしまう。

さて……来週は歩の演説の番ですよ。歩の中の人がどのタイミングで仲さんに変わるのかが気になっています。

おわり


早いもので11月ですね。ともに年末まで駆け抜けましょう!!