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【虎に翼 感想】第72話 一方通行の寅子

寅子に足りないものは、“伝え方” と “もう一方の角度からものを見る” ということだったのではないだろうか。

「不貞行為に及んだ理由を教えていただけますか」
と、“有責配偶者” としての回答を求めるだけではなく、そこに至った背景を、もう一歩先まで踏み込んで聞けたらよかったのかもしれない。
「相手の気持ちに寄り添え」
と言う前に、あなたの気持ちを教えてと、伝えられたらよかったのかもしれない。

有名人の佐田寅子が担当裁判官、これにテンションが上がる女性。という構図は、これが初めてではない。先日の梶山栄二くんの件でも、栄二くんを迎えに来た伯母の勝枝さんがこうだった。勝枝さんのセリフをあえてナレーションにかぶせていたのは、この後さらにテンション高い女性が登場するという前触れだったということか。
自らの不貞行為により離婚を申し立てられた福田瞳は、あの佐田寅子が担当ということで、自分の味方だと錯覚してしまった。
期待値が高かったがゆえに、落胆も大きかったはずだ。先週金曜日の予告では大騒ぎになっていたから、その落胆ゆえの怒りが寅子に襲いかかることが想像に難くない。

美山加恋ちゃんが不貞行為……妻と離婚後、男手一つで育てた、今日が誕生日のパパこと草彅剛さんが泣いちゃうよ(2004年フジテレビ系ドラマ『僕と彼女と彼女の生きる道』より)。


「男女は関係ない。(略)家裁は女の場所といった思考は、いずれ必ず間違った偏見を生む。私は、真の女性の社会進出とは、女性用の特別枠があてがわれることではなく、男女平等に同じ機会を与えられることだと思います。私は、裁判所から変えていきたい」

ラジオの佐田寅子

寅子のこの言葉が、すべてを物語っていた。

新潟地家裁三条支部。
赴任先として、とても良いと思っている。
大きい裁判所だと細かく部が分かれるから、担当部の分野での専門性が高められるが、それ以外のことが手薄になる。
地家裁であれば、地方裁判所と家庭裁判所の案件、両方を担当するはずだ。
小さい裁判所は扱う案件の数は少ないが、コンパクトに集約されていて、多岐にわたる案件に携わることができる。
ここでの経験を踏まえ、オールラウンダーとして東京に戻ってくる機会を与えられたのだ。だから、判事に昇進して初めての赴任先として、うってつけだと思う。

そもそも寅子は、裁判官としては、同期と比べてスタートがかなり遅い状態だ。
だから、東京家庭裁判所に長く留まるよりは、なるべく早く異動して、さまざまな案件に触れたほうがよい。
想像でしかないが、桂場は、人事局長に就任した頃から寅子の異動を考え始めていたのではないだろうか。そして、そこには久藤総務局長も絡んでいたように思えた。ラジオで寅子が “はて” を発動したときの久藤の表情が、今までと比べて冷めた目で見ている気がしたからだ。
寅子がもてはやされているときに異動させると、各方面から反発が起きる。それに、夫が戦死して娘がいる身だ。異動を命じたら辞めると言い出す懸念もあった。だが、あのラジオで寅子は、自分から異動願いを出したと言っても過言ではない。それは、障壁がなくなったことを意味する。
異動が山本長官の意向だったとしても、桂場人事局長は、その中でも適切な赴任地を考えたのだと思っている。そしてその先に、寅子に “気づき” を与える人物がいることも、織り込み済みなのだろう。

「問題なのは、職員一人の異動で痛手を負うような組織形態」
最近の多岐川が寅子に執着していたのは否めない。自分の “愛の裁判所” の理想を寅子に託して、依存していた。

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寅子の “はて” に竹中が喜んでいた。そりゃそうだ。10年ぶりくらいに生で見たんだから。だけどその間、寅子の立場は大きく変わっている。大きな影響力を持つに至っている “はて” をどのように見ていくべきなのか。竹中の姿は、私たち視聴者の姿なのかもしれない。

穂高先生が亡くなったときに桂場が発した、「司法の独立」の言葉。
あれは、寅子が独立どころか権力を得たかのような増長に繋がってくるのかと思っていた。人事局長となった桂場本人の後ろ盾となる言葉になるのだとしたら、それはそれで怖いことではある。


「思ったことは口に出さなきゃ」を標榜していた猪爪直道氏の妻、花江の口から「言ったって仕方がないでしょう!」の言葉が出る。しかし、それで気づく相手ではない。結局その後に、1から100まで言葉を絞り出さなければならないツラさが待っていた。

「私たち二人で行く」
簡単に言えるのは、家事と子育ての日々のタスクの膨大さに実感がないからだ。
「家族のために必死に働いている」
それは花江も同じだ。
二人の言い合いは、まさに夫婦のそれだった。
女性である寅子が “父”、“夫” の役割で描かれているがゆえに、受け止める側も混乱が生じている。
だから、難しく考えるのを一度やめたい。それぞれの立場で見て、それぞれが気づきを得ることができればと、シンプルに考えてみた。

寅子は一度、離れたほうがよい。
東京家庭裁判所からも、多岐川からも、家族からも、娘からも、離れたほうがよい。


「虎に翼」 7/9 より

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