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【虎に翼 感想】 7/8 寅子の強烈な光は、影を作る



昭和26年

寅子の目がギラついている。化粧も濃くなって、自信が表れている。

アメリカの裁判所の視察団に参加していた。ニューヨーク、ワシントン、シカゴ、ロサンゼルス、サンフランシスコ。1か月くらいは日本を離れていたのだろうか。

久藤は総務局長、桂場は人事局長になっていた。

家庭裁判所調査官……先週の梶山栄二くんの件で家事部と少年部の連携が取りざたされたときに、この役割のことが頭をよぎっていた。当時、調査官は少年部だけに配置されていたが、少しずつ改革を進めて今に至っていることが理解できた。

「子どもたちとご家庭のために頑張りましょうねっ」
発言すればするほど、自分に跳ね返ってくるぞ。

英語のレシピ本……花江が女学校を卒業してから英語に触れる機会がなかったことを知っているだろうに、「花江なら読めるわよ」と渡されても。
それに子どもたち……特に優未は、日本語のテストで100点を求められるだけでなく、英語も習得するよう求められてしまう。
穂高先生が自分に良かれと思ってしたことに対しては超敏感な寅子であっても、他者に対しては鈍感になる。

「(家の中が)十分きれいだもの」
それは、花江が毎日掃除をしているから。
「お金は私が十分家に入れてるんだから」
そう思うのは、具体的な家計の支出を把握していないから。

はるさんが亡くなったあたりから、猪爪家では、寅子を “父” とする家長制の中で暮らしている様を、徐々に浮かび上がらせる形で描いてきた。
大学を卒業し中学教師になっていた直明は、直言の死後は “家長席” に座っているものの、すっかりお飾りと化している。

はるさんの味を、花江が完璧に習得している。そして、この味がいずれ優未に受け継がれていくだろうことが、今日の唯一の希望だった。


竹中次郎記者との再会

寅子とは10年ぶりくらいか。竹中は、今ではフリーの記者だ。物腰がやわらかくなっている。
”生きててよかった” という言葉も、昭和26年では、あまり出なくなっているのだろうか。
「お嬢ちゃん」
竹中としては、佐田寅子と知り合いだアピールも含まれていそうな言葉だが、それにも寅子は余裕の表情で意に介さない。穂高先生への恫喝が記憶に新しい多岐川と汐見は、ヒヤヒヤしなかっただろうか。
そして寅子は、家族に相談せず、猪爪家への取材の日程を決めた。

・・・・・・・・・・・・
竹中の目はごまかせない。
さすがは膨大な数の取材経験のあるベテラン記者はお見通しだ。猪爪家&佐田家が、虚構の家族であることを。

「(家のことは)皆で支え合っています」
どの口が言う。その濃い紅を塗った口か。花江のズッコケに笑ったが、面白くしておかないと気持ちが持たないようにも見えた。

寅子の料理姿を撮影する。まーっしろなエプロンを着て、ロールキャベツを作ってみせる。そもそも取材のコンセプトが、“仕事も家庭のことも頑張る女性” ということなのだろう。
メニューがロールキャベツなのもいただけない。
アメリカ視察帰りのキャリアウーマンに似合うメニューとして、洋風のものが選ばれたのではないか。亡き母の味を引き継いでいる姿ではダメなのだ。それはまさに、花江のこれまでの努力を否定するものになる。

寅子はなぜ料理の撮影を断らなかったのだろうかと、一瞬考えた。寅子としても、家事と優未のことを花江に任せっきりにしていることに引け目を感じているのだろうか。取材記事の読者に、”家事を一切していない” と思われることには抵抗があったようにも感じられた。

続いて家族へのインタビュー。直明も直人も直治も花江も、こぞって寅子を褒めそやす。

花江、直言のスクラップ、引き継いでいたんだね……しかも、昔より寅子が新聞に載る回数も格段に増えているはずだ。今となっては、花江のワンオペに多大な負荷をかける一因となってしまっている。
竹中見てくれ、あなたが書いた記事に、直言は “でかした” と書いてくれたんだぞ。

竹中にはいっそのこと暴露記事でも書いてもらいたいところだが、彼もフリーランスだ。使える人脈は使って仕事をする立場でしかない。

帰り際の皆への “ごくろうさんでした。あっはっは” に、竹中の違和感が凝縮されて表されていた。
寅子がいなくなった途端に家族っぽくなるのが、いたたまれないことだ。

そしてそしてそして……寅子が洗い物をしていなかったのが一番いただけない。
はるさんが亡くなった直後は、まだ手伝う素振りは見せていた。あくびをした後に言われても誰も頼まないこと承知の上だったろうけど。今ではすっかり、自分の仕事ではないと思っている。普段、料理をしないし、材料費は自分の収入から出ているから、気にせず肉だねも残す。日頃から家計のやりくりをして節約料理を心がけているであろう花江にこれを見せ、洗うのはお前の仕事だと、暗に、いや、隠さず言ってしまっている。

寅子なりに、優未への愛情や花江への申しわけなさを感じている様子は見受けられるが、花江の鬱屈の心を、寅子が少しずつ少しずつ、膨らませ始めていた。


寅子の強烈な光は、影を作る

女子司法修習生たちが “スン” を発動している。寅子が高等試験に合格してから、すでに12~3年経過している。しかし、どの時代にも印象強いキャラは存在するものだ。

取材が終わった後、寅子は彼女たちに「ごくろうさま」と言った。
「ありがとう」ではないのか。
竹もとでの女子修習生たちの取材に際して、メンバーを手配して、尽力してくれた人たちがいたはずだ。そして彼女たちは、わざわざ来てくれたはずなのに、そのお礼も言わずに、上の立場からものを言ってしまっている。

竹もとに集まった ”合格した者” たちに、”合格していない者” である梅子がおしるこを出す。修習生の皆さん、この方は先輩ですよ。
去っていった仲間たちを思い、穂高先生に吠えたはずの寅子が、今ではその存在に関心を持っていないようにも見えた。最近は、轟法律事務所にも顔を出していなさそうだ。用事もないしね。

リラックスしたいところなのに、寅子はアメリカの裁判所の話をし始めて、彼女たちの食べる手を止めさせてしまう。それに対しても「食べながらでいいよ」と言えないでいる。
法律や仕事の話だと饒舌になるが、雑談が苦手な法曹者はいる。寅子もそのタイプなのかもしれないなと思いながら、このシーンを見てしまった。

「あなたたちは恵まれている」
寅子に時間を与えてはいけない。このままでは、穂高先生とのいきさつを話し始めそうだ……竹中だけではない、”恵まれていない時代” を共に過ごしてきた梅子も違和感を覚え始めている。
竹もとを解散してからの女子修習生たちの会話がいくつも浮かんでくる……考えないようにしよう……。

寅子の強烈なギラギラに、その周りにいる者たち全員に、影が出来始めている。
異を唱える者は、現れるだろうか……。


「虎に翼」 7/8 より

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