24服目:2024/5/25(土)風炉 桑小卓(炭手前/濃茶)
道中、四季を実感
2ヶ月弱ぶりに先生のご自宅でのお稽古。
前回の往訪は4月頭、満開の1本桜を眺めながら駅まで歩いた。
その前は、梅が連なって咲いているのに見惚れていた。
そんな景色が懐かしく思えるくらいすっかり初夏の今日。駅を出て早々、暑さに耐えられずカーディガンを脱ぎ、ノースリーブで先生のお宅まで向かう。風が心地いい。5月はできるだけ外にいたい。大好きな季節。
風炉にも炭手前アリ
炭手前を教わる。炉のそれは全体的にうやうやしい感じがあったが、風炉のそれはどこかおままごとのようで可愛らしく見えた。自分自身が炭のお道具に少し見慣れてきたから? 炉と比べると道具も炭も小ぶりだから? いずれにせよ炉の炭手前とは印象が変わって新鮮。
呪文がどんどん増えていく
手順の大枠は炉と同じ。呪文というかおまじないというか語呂合わせというか。「は・かん・ばし・こうごう・かまのふた」も健在。
ありおりはべりいまそかり
サインコサインタンジェント
すいへーりーべーぼくのふね
はかんばしこうごうかまのふた
と、半年の間にあやうく「意味は忘れたのに一生勝手に口をついて出る呪文」の一つになりかけていた。あぶないあぶない。
この呪文は、「炭をつがせていただきます」と建付(たてつけ)でご挨拶をし、道具一式を運び出してすぐに行う動きの手順の覚えかただった。
はかんばしこうごうかまのふた
羽…風炉の右側に置いた炭取りから、まずは鼻をつまむ手つきで柄を取り出し、敷板と炭取りの間に縦に置く。
鐶…右手で鐶の両サイドを持ち、炭取りの手前正面に置く。
箸…火箸を上から取って、羽の左横に置く。
香合…香合を上から右手で取り、左手でいったん扱って、右手で敷板の左(風炉のお点前で蓋置を置く場所)に置く。
釜の蓋…帛紗を草(そう)にさばいて、釜の蓋を閉める。閉めたら帛紗は右側を持って持ち上げ、腰に付け直す。
新しく覚えた呪文もメモしておこう(呪文)。
かんつき・かましき・かまをおく
これは「はかんばし〜」の後の所作の呪文。
鐶付…釜に鐶をつける所作。右手で鐶を横から取って、左右の手に分けてパッと開き(先生は「割る」とおっしゃっていた気がする)、釜に引っ掛けて90度回転させて取り付ける。次に、釜の蓋のほうに鐶を傾けて置く(=釜に預ける)。
釜敷…胸元に入れた釜敷を取り出す所作。右手で横を持ち少しだけ引き出したら、下を持ちすべてを引き出す。左手で扱って右手で斜め向きに置く(先生は「てなりにおく」とおっしゃっていたかも)。
釜を置く…釜を釜敷の上に置く所作。右、左と前に進んで鐶をつかんで釜を持ち上げ釜敷の上に載せる。いったん鐶を釜に預けて、釜の方に体を向き直す。ふたたび鐶を持ち、釜と釜敷一緒にズズズッとすべらせるようにしてお正客の向きへと釜を移動させる。
よことりのたておき
鐶を上げ下げする時の所作の呪文。
横取り…手に取るときは横から持つ
縦置き…置くときは手を縦にする
言語を学ぶことはルールや文化を知ること
これらの呪文だけでなく、「建付」「運び出し」「草にさばく」などなど、茶道独自の言葉遣いに触れることも毎回おもしろい。
共通言語を体得していくことでその世界に馴染んでいくのは、どの環世界も同じなのかも。最初は口にするのが若干気恥ずかしいのも同じ。
アジャイル、デバッグ、コンポーネント
レイヤー、埋め込み、アウトライン
ナッペ、ルセット、フィユタージュ
どれもその環世界でしか使わないけど、その世界では頻出することば。
最近新たに覚えつつあるのは着物のことばだ。
袷(あわせ)、単(ひとえ)、絽・紗・上布(じょうふ)
帯揚げ、帯締め、名古屋帯
伊と忠、関づか、カレンブロッソ
半衿、肌襦袢、長襦袢
はぁ〜、世界は呪文だらけ!!!
釜がよろこぶ
言葉といえば、濡れ釜の準備を教わっている時、先生が「たっぷり水をかけてあげてくださいね、釜がよろこぶから」とおっしゃっていて素敵だった。
炉の季節にシュンシュンと釜が音を立てているときにも「釜が喜んでいますね」とおっしゃっていたことを思い出す。無機物に人格を付与することで、モノを大切にする心が滲み出ていて素敵だな。
「釜爺、お背中流しますね〜。お水加減どうですか〜?」という気持ちで釜の外側に柄杓でザバザバと水をかけた。
濃茶手前
炭手前のあとは濃茶のお稽古。先週と同じく桑小卓。
四方(よほう)さばきにおいて、私は息を吐きながら帛紗を前に傾ける所作が大きすぎるようで、「ほんの少しでいいのよ」と先生からご指導いただいた。言われて気づいたが、帛紗を折り目に合わせてグッと寄せるようにしていた。もっと繊細にやるようにしてみよう。
それと、濃茶手前でほぼ全員が間違える動作があるそうで、先生が不思議そうにしていらした。茶入からお茶を全てふるい出した後、蓋を閉めて水指の前に置く際、本来は「左手」で置くところを、ほぼ全員が「右手」で置こうとするのだという。
そのお話を伺っていたにもかかわらず、まんまと私も右手で置こうとしてしまった。なんで……? 無自覚すぎて驚いた。茶入れは右手で持つものという思い込みがあるのかな。それとも、体の右側に置くから右手を使いたくなるのかな。全員同じように間違えるのもおもしろいし、自分で自分の動きの理由を理解できていないのもおもしろい。
ポニョ、炭手前、好き!
私、炭手前が好きかも。もしかしたらお茶を点てるよりも好きかもしれない。
まず道具がかっこいい。金属と植物の組み合わせが好みだし、そこに柔らかい羽や端正な炭が加わっている異素材ミックス感も美しい。
そしてそれらの道具ひとつひとつを丁寧に扱いながら、空間全体を清めていく感じ、お茶を点てるという本番に向けてルーティンで自分を整えていく感じも厳かな儀式感があって良い。
茶菓・茶花・お軸
茶菓
1.芍薬
ほんとに芍薬なんよ。外側の紅色の寒天が透明でありつつ濃淡になっており、それが茶巾で絞られることで花びらを表現しいる。寒天の透ける感じが「食」というよりも「メイク」「ファッション」寄りの感性に感じた。中にはレモンピールと白餡。おしゃれ…!
2.子規
ほととぎすの焼き印に、空の水色と、夕日っぽい赤、だけどおそらく夕日じゃなくて血の赤がさっと描かれた、アーティスティックな薯蕷饅頭。
生地にごまが練り込まれていて香ばしい。
「おそらく血の赤」と記したのは、お菓子の名前が正岡子規だったので「鳴いて血を吐くほととぎす」なのかなと。だとしたらお菓子で吐血を表現するって前衛的すぎて…!
薄茶のお稽古はつけていただかず早めに退席したので、先生からは「ホトトギス、正岡子規」とキーワードくらいしか伺わなかったので正解はわからないが、もし血だとしたらお菓子職人さんの視点と表現の鋭角さに震えている。
茶花
甘茶(あまちゃ)
ズイノコバナ
下野(しもつけ)
3つとも「久しぶり〜!元気そうでよかったよ〜!」の1年ぶりの再会。甘茶はミニ紫陽花という感じのサイズがかわいい。
下野は、博識な同輩が「N響で下野さんという指揮者の方がいてその方のオーケストラが良い」とおっしゃっていた。彼女は毎回しっかりと事前準備した銘を用意しているので、由来を伺うのもひそかに楽しみにしている。今日は伊勢物語をテーマにされていた。
お軸
閑坐聴松風(かんざしてしょうふうをきく)
以前も同じお軸を拝見しているが、同じお軸を見てもその日の環境や自分の状況次第で感じ方は変わるのかもしれず、それもおもしろい。
午後いくつか用事のあった今日は、午前中にお稽古に伺うことでまさにこのお軸のようなひとときを過ごすことができた。やっぱり多少無理をしても伺ってよかった。
御相伴:SMさん、IWさん
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