【源氏の道】1帖:D・キッサン『神作家・紫式部のありえない日々』

末摘花よ、ありがとう

茶道に入門以来、源氏物語にまつわる単語に触れる機会が少なくない。

中でも源氏物語を強く意識する契機となったのは、茶杓の銘に「末摘花」を使ったときのことだ。

初心者教室でいただいた手帳に、月ごとの銘の載っているページがあり、ある日、薄茶のお稽古の問答中、そこから銘を拝借し「末摘花です」と答えた。すると、先生と正客役の同輩が「あら、源氏物語ですね」「ですね〜、赤鼻の」と会話を広げてくださった。が、肝心の亭主役の私には、何のことだかさっぱり……。

借り物のことばを使ったこと、その結果、圧倒的な知識の足りなさを露呈したことが、とても恥ずかしかった。

もちのろんで、先生やご同輩は私を辱めようとは1ミクロンも思っておらず、むしろ私の一言から会話を広げ、その後も私の目線に立って源氏物語のことを教えてくださったので、そこには感謝! 

ただただ、お稽古の直前に手帳から適当に拝借しただけの、自分の浅はかさが恥ずかしかった。

という一件がきっかけで「そういえば、源氏物語ってどんな物語なんだろう」と興味が湧いた。

源氏の道も一歩から

高校の国語の授業で習った記憶があるにはある。国語の先生が源氏物語をお好きで、熱を入れて授業されていた記憶もうっすらある。「ろくじょうのみやすんどころ」の読み方がテストに出たような気もする。「あおいのうえ」「きりつぼ」「いずれのおんときにか」といった単語(単語?)も記号としてなんとなく知っている。

そんな浅薄な茶道初心者、かつ、源氏物語初心者の歩みの記録として【源氏の道】というnoteも始めることにした。

何かを知ると知らなかった頃の自分には戻れないので、「あの頃はあんなふうに考えてたんやねえ」と思い出すための備忘メモ。

これもまた茶道によって開いた新しい扉。

マンガ大国よ、ありがとう

最初に手に取ったのはコミック。D・キッサン『神作家・紫式部のありえない日々』。

「源氏物語、読んでみたいな〜」と思っていた矢先に、茶道の先生が貸してくださった。お導きのタイミングが最高すぎて! 神先生!

初手から原書にあたるのは悪手だと思っていたのでいかにもとっつきやすそうな漫画はありがたかった。

実際、今ドキのオタク視点のストーリーなので、めちゃくちゃ読みやすいかったし、何よりめちゃくちゃおもしろかった!

まず設定がおもしろい。
紫式部は同人誌作家で、彼女の描く同人誌が源氏物語。宮中で紫式部の隣で寝食を共にするのがその同人誌のファンである腐女子の小少将さん。

ベースラインは史実に即しながらも、今ドキの細かな設定が天才すぎる。そして怒涛のギャグに何度も声に出して笑ってしまったよ!

たとえば、源氏物語という作品タイトルについての紫式部のセリフ。

いきなり帝の前で同人誌のタイトル言わされることとかある!? 「ステータスチートで生まれてきたのでとりあえずいろんな人と寝たけど本命は義母です」とかにしなくてよかったよマジで!!!

神作家・紫式部のありえない日々1巻より

そのタイトルはぜったいダメだろ!
オタクカルチャーとのMIXが絶妙で、一気に親近感が湧いた。

創作者に対する敬意と寄り添い

おもしろいだけじゃなくて心に響くシーンもあってその緩急も見事。

あなた作中で古い歌や漢詩を引用なさるじゃない。
あれとかね。
わかる人は「作者さんもこれ好きなんだ」って思うから
あたくしなんかフフッとしちゃうわ。
創作物って作者の人となりがもろに出るものだと思うの。
だからたとえ同じ経験をしても、同じ物語を読んでも
あなたというフィルターを通して描いたものは
あなたのオリジナルな作品になるはずよ。

神作家・紫式部のありえない日々2巻より

藤式部さん。
動機はなんにせよ、書きたいと思って実際に書いて
同人誌にまで仕上げるのはとてもすごいことよ。
普通の人は「書きたいなあ」で止まっちゃうの。
頭で考えていることを形にするのがどれだけ大変か。
その先に行けたあなたはもっと自分を誇ってもいいと思うわ。

神作家・紫式部のありえない日々2巻より

どちらのセリフも、紫式部より先に宮中で暮らす歌人、赤染衛門によるものだ。

創作に携わる新人作家としてこういう先輩が身近にいたらどれだけ心強いだろう、周囲の風当たりの強さに心が折れそうになっていた紫式部には刺さっただろうなあと、グッときた。

大河の源氏オマージュにフフッ

それと、先に引用した赤染衛門さんのことばの前者は、つい先日大河ドラマ「光る君へ」を見ていて、まさに感じたことでもあったので思わず共感。

第3話で出てきたこのシーン! 源氏物語の「箒木」の帖で出てくる「雨夜の品定め」をベースにしてるよね! ぜったいそうだよね! ねっ! あたくしもこれを見て、思わずフフッとしちゃったんですー!(オタク特有の早口で)

平安文学meets令和のオタク

漫画に対して文章で感想を綴るのは難しいけれど、とにかくギャクセンが高くておもしろかった〜! 個人的に特に気に入っているのは、第6帖の扉絵。

筋金入りの腐女子である小少将の君が、東京ビッグサイトの前で、光源氏×頭中将のカプ推しとわかる痛バやアクキーを手に、恍惚の表情をしている絵で、平安文学 meets 令和のオタクの感じがギュギュッと詰め込まれていて、拍手喝采でした。

残念ながら私はアニメや漫画に対する知識が浅いので、きっと楽しみきれていない小ネタもたくさんある気がするけれど、「源氏物語」に対する敷居の高いイメージが払拭されたので、源氏の道をこのコミックからスタートできてよかった。

新刊も楽しみだ〜。


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