19891999
ブレーカー墜ちたアスファルトの氷河
熱を忘れた冷たい街灯の隊列
しとやかな蛍だけが、刹那のワルツを繰り返して――
――夏/冬の境界線が歪む
1989年、狂い咲いた明滅
此処に「存在していた」線香花火は
黑蜥蜴の残像と、溶けだした記憶と共に
遠く遠く閉ざす吐息に紛れて消えてしまった
トを繰り返すトカトントン
ドを譜面から完璧に排除すれば
(始まりの無い音楽会)がはじまるという矛盾
ピアノ線にまとわりつく蜂蜜が五月蝿い
黒こげの鍵盤、ブリュレの罠、果糖の偽装
合成甘味料に秘められし毒素暗転して__
あの日、ベッドルーム/シースルーの海を抱擁すれば
剝きだしの心臓と脾臓が手招きをしていたのに……
1999年のシアトル・コーヒーハウス
幽かに揺れる殺人とステーキの残り香に
アンダルシアの犬とノスタルジアが涙を催す
月光に映る蒼白な肌は瞑瞑に深淵を
太陽の苛烈はオアシスアイス壊して__
零度を抱いたままの有刺鉄線が
私と世界の境界を色鮮やかにつくりだす時
わたしの脳裡にはいつかの水平線と、
澄みきった破傷風への恐怖が同居し始める
――此処にはもういられない
心を冒す暁にそう呟けば、渇ききった救済の音が
密やかに聞こえたような気がしたんだ
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