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館長のしごと.01

「館長に対して、一番期待していることはなんですか?」

新米館長として何をしたらいいのか、自分はスタッフの支えになれるのか、不安でいっぱいだった初日、私はひとりひとりのスタッフの元を訪れて聞いてまわった。

そもそも今まで正規職員の館長さんがいらっしゃらなかったので、正規なだけで心強い。
教育委員会や関係各所との連携を強化してほしい。
若いエネルギッシュな視点で新しい風を吹かせてほしい。
町の方の思い入れがある図書館、斬新さと歴史の融合が楽しみ。

各々の視点からご意見をいただいて、しかもそれらを語ってくれるお姿が前向きで歓迎的なことにほっとする反面、少ししっくりこない感覚もあり、お話しながら質問を変えてみた。


「館長が変わるにあたって、正直不安に思われていることはないですか?」


そうするとある1人のスタッフが、少し考えたあと、こんなことを伝えてくれた。


「図書館って、本当に色んな人がいらっしゃるんですよ。いい意味でも、悪い意味でも。話の全く通じない方も中にはいるんです。ヒヤッとするトラブルが起こった時に守ってくれる安心感が、館長には欲しいと思っていました。とりあえず館長呼んどこう、みたいな」

― 新館長と一緒に働くのが楽しみですが、とてもお若いし、女性で、何ならお育ちも良さそうで、そういうトラブル丸投げっていう期待よりは、お互いに助け合って解決していかなきゃなと思います。あ!全然悪い意味じゃないですよ!問題を起こされる方は相手が偉そうか、威厳があるかどうか、見た目で判断されることも多いですし、それはもうしょうがないですよ。笑

と、その方は続けた。



かなりグッとくる本音だった。
館長はプロデューサーではなく、経営者なんだなという感覚を一気に呼び起こしてくださった言葉でもある。
いざというときに、絶対に逃げずに最後の砦となる存在なのだ。


確かに、図書館は誰にでも、本当に「誰にでも」広く開かれている。
だからこそ、極稀ではあるが何度お伝えしてもルールを守られない方や周囲の利用者に恐怖を与えてしまうような暴言や暴力行為をされる方も中にはいらっしゃる。
静寂で開放的な図書館で急に怒号が飛べば、子どもだけでなく、大人でもびっくりしてしまう。


私もまだ働きはじめてからほんの数ヶ月だが、実際に2回ほど「おーこれはピリッとする」瞬間を味わった。

身がすくんで動けないことはないが、本当に申し訳ないのは、館長は請求書業務や労務管理、渉外活動等に割く時間がどうしても多く、館内をずっと注視していることができないのだ。(もちろん、手の空いた際やリサーチ程度の簡単な作業をするときはipad片手に受付に出向くようにしているが)
そのため、ルール違反の方や、やや不審な動きをされている方を発見し、一番に「あの…」と声をかけるのはスタッフであることが多い。


「うるっsえぇんだよ!!!!」
という怒号が急に静寂を突き破ってきて、館長席から飛び上がる。


あー…怒鳴られてるのが私ならまだよかったのに…


そう思っても、こればかりはタイミングなので仕方ない。


走っていって直ぐに対応を変わるが、こういった場面をどのようにより良い状態で解決に導くかはまだまだ試行錯誤の段階だ。全然、これでいい、という対応ができた試しがない(と言ってもまだ2回だが)
それに、正直、怖い時は怖い。


しっかりと対話を試みることも必要かもしれないし、(現実で起こっているのは、スタッフがルール違反を注意したということだが、それが、その方へのリスペクトや自分の大切にしていたことを傷つけられたと感じられたのかもしれない)
毅然とした態度で挑むのも必要かもしれないし、引き際を見極めること、そういうトラブルが起きた時に他の利用者のケアや理解をいただくことも必要かもしれない。

今は一旦、最も早急に多数が平穏を取り戻し得る「上手に引く」ことを主たる戦法(と言ってもまだ2回)にしているが、何が本当に平穏なのかはわからない。


でもわかってきたのは、大事なのは威厳ではないということである。

とにかく、状況を見て適切に判断すること。悪質なクレーマーでない限り、誠意を持って理解しようと努めること。無理な時は抱え込まずにちゃんと頼り先を見つけておくこと。

そして、シンプルに、相手の話をよく聞くこと。それに尽きる。



私が勝手に、図書館運営の師匠だと思っている方は
「館長はクレーム処理や頭を下げる仕事だとか言われたりもしますからねえ」
と仰っていたこともある。

その時は「そっかー」程度に思っていたが、今はしみじみとなるほど、と思う。



館長の仕事のひとつは、とても泥臭いです。
でも、それも結構気に入っています。
スタッフの皆が、一緒にどうにかしようとしてくださるので心強いです。



みんなが過ごしやすい図書館を目指して頑張る日々ははじまったばかり。

記事をお読みいただけるだけでとても嬉しいです。ありがとうございます。 もしもサポートをいただける場合は、図書館企画の運営費として大切に使わせていただければと思います。図書館の進化プロセスを今後もご一緒できたら幸いです。