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使い続けることができない靴を、使い続けたい/On Cloud Dip

白いソールのスニーカーが苦手だ。

正確に言うと。
新品に限りなく近い、真っ白な靴底がそのスニーカーのデザインを完成させている…そんなスニーカーを美しく履き続けることが苦手である。

特に耐えがたいのが、黄ばみである。モノトーンの美しいスニーカーの白いソールが黄ばむというのは、白いシャツにカレーの染みがついたように感じてしまう。

他人の所有物の状態は特に気にならず、自分のモノではとことん気になるのは何故だろう。隣の芝生は青く、隣の経年変化は美しいのは、何故なのか。

自分のモノの染み汚れに嫌気が差すのは、全くの不注意や不十分な後処理という怠惰なストーリーを、憧れて買ったモノに付与してしまうことにあるからだと気づいた。日々使用するなかで自然と風合いが変わる分には良いのだが、うっかりミスや納得できない汚れは、なるべく避けたい。もしくは気にならないものがいい。

そんな思考性の人間なので、多少のダメージは気にならず、経年変化によって魅力が増すものしか基本的には買わない。

しかし…ランニングシューズは別腹だ。

ランニングシューズの面白いところは、使い続けることができない、という点にあると思う。思い出の品として残すことはできても、履けば履くほど、ランニングシューズとしての機能は落ちる。靴底が丸ごと交換ができるような革靴とは正反対だ。

だからこそ、ランニングシューズは日々進化していくし、走るほど必要な数も増えてくる。3万円出せば殆どのブランドで最上位モデルが買えるというのも、やはり革靴では考えられない。ランニングシューズというジャンルの特徴として、この回転率の高さが挙げられるだろう。

話を本筋に戻すと、ランニングシューズは回転率が高いジャンルゆえに、基本的には新品の状態が最も美しいデザインとして打ち出されている気がしてならない。むしろ、ランニングに悪影響が出る状態まで劣化したのなら、分かりやすく劣化している方が親切ですらある。

(SNSによって、使用されている状態のシューズも肯定的な印象で消費者の目に届きやすくなったことは、時代の変化の象徴かもしれない)

しかし、最近の私の気分としては、かなり土っぽい、地球よ〜といった服に惹かれている。昨年から茶を飲むようになったからか、以前よりもさらにその気が強い。

Onというブランドの素晴らしいところは、こんな我儘で気分屋な人間にとっても、楽しめるランニングシューズを揃えてくれているところだ。

2020年初にして、我が12足目のOn、Cloud Dipを自慢したい。

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これは手にして1日目の姿。Cloud Dipは防弾チョッキなどに使用される強靭なコットンをベースに、さらにゴムを手塗りすることで強度を上げている、Onの中でもかなりタフなモデルの1つだ。
何も手を加えなくても撥水性などを備えた素材だが、せっかくなのでさらに錬えることにする。防水スプレーを全面に吹きかけた。

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2日目、改めてスプレーを吹く。指先で塗り込み、ここからさらに24時間乾燥させ、2層目を完成させる。

Cloud Dip / Desert | Clay は、ロード用シューズとしての機能美を備えながら、最も土っぽい佇まいのOn…という点に魅力を感じた。

Onの本社は、スイス・チューリッヒに位置する。都市と自然を1日の間に往復できてしまうライフスタイルが、このシューズのデザインに息づいている。

Onで働く条件にランナーである必要はない。しかし顧客との打ち合わせやマネジメント会議が、近くにあるリマート川沿いでのジョギング中や、近郊の山を自転車で登りながら行われることがあるため、従業員は必然的にランニングの魅力に取りつかれてしまうという。
引用元:swissinfo.ch | スタートアップから多国籍企業へ スイスのシューズメーカー「On」

そして。
今回は初めての試みとして、シューズにウェザリング=汚し塗装を施すことにする。

身につけるものを人の手でダメージ加工するというのは、代表的なものとしてデニムが挙げられる。デニムはその強靭性ゆえに、多少メンテナンスすれば何年も履き続けることができる。それゆえ、プレーンなものを履き潰して経年変化させる美学もあれば、ビンテージを美しく履く美学も、徹底的に人の手で加工されたものを履く美学もある。

履き潰しては買い直すランニングシューズにおいて、人の手でダメージ加工されたものなんて、そういえば見たことがない。それもそのはず、ランニングシューズは量産品であり、かつ製品によって差があってはならない。「手作りなので、一点一点履き心地が違うんです」という訳にはいかない。
(ライフスタイルスポーツとしてランニングが発展すれば、いずれ誕生するかもしれないが)

このシューズ…On Cloud Dipの実物見たとき、思ったより明るいなという印象だった。初めから躊躇なく身につける為には、多少の使用感が欲しい。

普段はプラモデルにするウェザリング(汚し塗装≒メイクで例えるならアイシャドウやチーク)を、応用してみた。その結果がこちら。

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コンセプトは、デッドストック(新品のまま長期間放置されていた在庫品)×オーパーツ(発見された場所や時代と整合性が取れないもの)とした。分かりやすく言うと、何十年も前の靴みたいな質感なのに、デザインが現代的すぎて謎!みたいな。

全体的にトーンを下げつつ、陰影をつけて引き締める。最初はススっぽい汚しだけでよいかと思いブラックを乗せたが(画像左側)、汚れた上履きのようになって絶望した。一晩寝て冷静になり、ブラウンも足したら満足の行く状態に仕上がって一安心(画像右側)。

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ん〜、大満足である。ゴム紐は汚していないので、コットンとの対比が美しい。

Cloud Dipは、ただでさえ強靭な素材を使用した靴だ。例えランニングシューズとしての寿命を終えたとしても、普段履き用のシューズとしては、長く使えるだろう。

長く使い続けたい。

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(次は、真っ白のシューズを藍染めの工房に送って染めてもらったり…なんて、妄想が止まらなくなった。新しい沼に足を浸けて=Dipしてしまったのかもしれない。)

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