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おすすめの映画「あの頃」

 皆さんは、何かを過剰に摂取したことがあるでしょうか?
 僕の場合は、48グループのアイドル、SKE48です。
 1年365日、SKE48のことを考え続けています。
 あるカルチャーを過剰に摂取し続けると人はどうなってしまうんでしょう?

 ある人は学者になり、ある人はクリエイターになり、またある人はヲタクとなるのかも知れません。ただ、心の中ではみんな熱い風が吹いています。
 今回紹介する「あの頃」は、一見するとハロヲタの主人公とその仲間たちの「スキ」と、タイトルと反して今について考えさせられる映画です。

※予告編はこちら!


【ここからは、ネタバレ全開で書きます】

 ううむ、改めて予告編を観ると、前半のハロヲタ仲間での楽しかった日々にフォーカスが置かれていますね。
 まず、冴えない日々にアイドルと出会って、人生が変わったというのは、アイドルにハマったことがある方なら共感できるのではないか、と思うんですが、ここの松坂桃李が「見つける」過程が凄くリアルなんですよね。音を消して流し見していて、食べることの方が最初は優先なんですが、手が止まって、徐々に音が上がっていく。最初のスタジオのシーンでも無音だった、聴こえないという静かすぎる始まりだったので、ここで初めて世界が始まる感じがしていいですよね。

 そして、劔樹人さんの経験が元になっていることから、一人一人の登場人物も凄く人間味があって良いんですよね。誰もが完璧ではないし、なんなら今の価値観と照らし合わせた時に、心配になる人やイベントも作中でチラホラあったんですが、この辺りは描かれている時代の出来事と今の時代を生きる僕の価値観のずれですかね。
 でも、自分の好きな推しについて、熱く語るイベントは観ていて凄く魅力的でした。今、SKE48について、自分があそこまで熱く語れるだろうか、とふと思いましたし、あそこまで語れる場が欲しいなとふと思ったりしました。

 さて、前半のヲタクパートで一番印象的なのは、あややを見つけるシーンなんですが、忘れてはならないのが握手会のシーンです。
 握手会に行ったことがある方なら経験があるかも知れませんが、頭の中でぐるぐるとシュミレーションしたことが、実際に本物に会うとその10分の1ぐらいしか出せないことがないでしょうか?
 あの松坂桃李のレーンまでの歩き方も凄く良くて、ああ、これこれ、この感じだよ、と観ながら何度も頷いていました。序盤での少し痩せた感じの風貌も凄く良いですし、熱弁する時の話し方は「菅田将暉のオールナイトニッポン」で、遊戯王のことを語る温度とはまた違っていて良いんですよね。もう、この人が笑っていると嬉しいですし、ニヤニヤしているとこちらもニヤニヤしてしまう。
 あと、20年後の自分との会話。
 もう、言ってた通りになるんじゃ、と不安になってきますよね。
 実際に気になっていた女の子は離れてしまいましたしね。

 後半からは「恋愛研究会」の人間関係に主軸が置かれていくんですが、何度も作中で歌われる、モーニング娘。の「恋ING」がとても印象的でしてね。

 推しを見つけた主人公の不器用な生き方ととても、リンクしていてグッときました。
 でもね、あの「恋愛研究会」イベントが徐々に内輪ネタの方にシフトしていくのが、少し不満でもあって、ハロプロのこともっと語ってよ、と観ながら思ってしまいました。
 そして、この作品の影の主人公であるコズミンさん。
 まあ、人間として絶対傍に居て欲しくないですし、女性の捉え方がすっごい好きになれないんですが(彼が好きなものを並べていくとどう女性を消費しているのかがね…)。更に、食べるラー油を死にかけのコズミンの顔に近づける仲間たちもいかがなものかと思いますけどね。
 それでも、死んだコズミンと主人公との最後の会話が凄く良くてですね(このシーンでの仲野太賀さんの表情や背中の感じが好きです)。
 もう死んでしまったコズミンに、今のハロプロについて語るシーンが凄く好きで、「今が一番楽しいよ」という台詞。
 ここからは少しだけ僕の話をさせていただくと、今年の1月末ぐらいに僕は生きるのを諦めて、関西でもう死ぬかあ、思っていたんですね。色々あって2月ぐらいに四国の実家に帰って人生リセットしたんですが、もし、1月にあそこで死んでいたら、と時々おもうことがあるんです。
 先週の日曜日に、自分のSKE48の推しが半年の休養期間を経て復帰しました。とてもぎこちない部分もありましたが、それでも、彼女の魅力をまた観られる幸せを山奥で噛みしめていました。

 「今が一番楽しい」というのは、言い換えれば「今日も生きていれば楽しい」のではないかな、とコズミンの死を通して感じました。
 死に行く彼が最後に聴きたかった曲とは?
 音の無い静寂から始まったこの映画が、静寂に包まれた病室で音を手に入れて終わるのがとても美しくて、この構成のためだけにも観て損はないと思います。

 賛否別れると思いますが、死にたくなった時に見ても実は効果的な映画ではないかと個人的に思っています。
 好きなものがある方、今、好きなことを語る仲間がいる方、そして、あの頃好きなものがあった方、皆さんにおすすめしたい映画です。

こんな大変なご時世なので、無理をなさらずに、何か発見や心を動かしたものがあった時、良ければサポートをお願いします。励みになります。