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おすすめの映画「パブリック 図書館の奇跡」

 皆さんは路上生活をしたことがあるでしょうか?
 僕は去年仕事を辞めてから職が決まらず、今年の始めにお金も食料も尽きていよいよ死ぬかという状況になったことがあります。
 その1か月ほど前に、大阪の南エリアに友人と出かけたことがあるんですが、寒空の下ホームレスの老人が段ボールを集めている姿を見ました。

 「明日は我が身だね」と僕は笑いましたが、内心はかなり不安に取りつかれていたました。マンションのロビーに入る時も、徐々に「家を失ったらここで寒さをしのげるかな」とか「食べられる雑草はあるかな」とか色々と考えるようになりました。

 僕自身は衰弱して餓死していくところを、家族に救われてなんとかなりました。しかし、今、この瞬間も寒空の下、路上で暮らしている人たちは居ます。僕が昔バイトしていた会社の社員さんが、「大阪のある地域に行くと、冬場はホームレスが公園のものを壊したり、時にはこちらに攻撃をしてきて、警察を呼ぶように言うんだ」という話を聞きました。何故そんなことをするのかを聞くと、「留置所に入ることによって、極寒の寒空から逃れることが出来るからだ。これからどんどん、身分の差は広がっていくんだろうなあ」と語っていました。


 それから、僕が昨年働いていた映画館は、夜中の2時や3時まで開いている日もあるので、23時頃からホームレスの方が来られることもありました。大きな袋に生活用品を入れて、ロビーのベンチに腰かけて朝を待っているようでした。夏の終わりだったせいか悪臭などはありませんでしたが、靴は破れ、爪も伸びきっていました。
 1度だけ映画料金が安くなる日に、その人が映画を観に来たことがあります。夜中の回で人がほとんどいない時でした。電子パネルでチケットが買えずに窓口に案内して発券したのを覚えています。
 映画を観終わると、彼はわざわざ僕に感想を言いに来てくれました。それから「ありがとう」と言い、去っていきました。それから、そのホームレスの人には会っていません。

 今回紹介する「パブリック 図書館の奇跡」は、まさに今観るべき映画でしてね。まずは、予告編をチェックしてみましょう。

 いやあ、これを何故、去年映画館で観なかったんだっていうぐらい、僕には刺さりました。特に貧困問題とか無縁だぜ、という年収1000万円以上のシリコンバレー勝ち組のあなたも本が好きな方や本に人生を変えてもらえた方、図書館が好きな方だったら、是非お勧めしたい映画です。よく見て行くと、他人事とは思えない内容になっています。
 極寒の夜の話なので、どちらかというと、寒い夜に観るとライド感がありますよ!


【ここからはネタバレありでいきます】

 まずは、図書館という公共性のある場所について考えさせられました。
 みんなの場所であり、実は気軽に楽しめるサブスクでもあったわけですね(税金で前払いしてますが…)。大学生の頃はあまり図書館は利用しなかったんですが、大学院に入って読むべき本が増えると図書館の便利さに気づくんですよね。
 ちなみに、高校生の頃は通っていた工業高校の近くの図書館でカードゲーム「マジック・ザ・ギャザリング」のデュエルをして、高校に通報されてよく生活指導の先生にカードを没収されて、継続指導室行きにされていたものです。
 本当に図書館は色々な使い方が出来ますね(絶対に違う)。

 さて、この作品で最初ホームレスは「あっち側の人」なんですよね。
 冒頭で悪臭が原因で、ホームレスの人が図書館から追い出されたことが語られていますし、裸になって歌うなど、理解しにくいなと思わされる描写があります。
 主人公のスチュアートが、ホームレスの人々とコミュニケーションをとりながらも、ちょっと距離を置いている感じがします。ところが、物語の中盤でスチュアートの過去が明らかになるにつれて、実は彼は「あっち側の人」であることが分かるんですね。ただ、この頃には、もう観ている僕もホームレスやスチュアート側の目線で応援していました。
 

 で、途中出てくるテレビ局のアナウンサーのフェイクニュースを作る為の決めつけが酷くてですね。書き方に注意しなければいけませんが、今っぽいなあ、と感じました。正しさよりも、いかにフォロワー数やリプライ数を増やすか。「分かりやすい物語」を作ったり、一括りにしたりすることの怖さを感じました。

 そして、そんなムカつくアナウンサーとスチュアートが、電話で会話するシーンがあるんですが、「怒りの葡萄」の引用を本を読まずに語るんですが、僕はここで泣いてしまいました。文学を学ぶ意味ってこういうことなんだよな、と思いました。一番ふさわしい言葉で自分や人々の気持ちを伝えることが出来る。時には美しく、時には強く。
 スチュアート自身が図書館に座り、本を読むことによって、自分の人生をやり直すきっかけを得ることが出来たのも凄く良くてですね。酒に溺れ、犯罪を犯し、路上生活も経験した彼が、今は図書館を支える人間になっているのが凄く良くてですね。
 自分自身も本と出会わなければ、ただでさえいい加減な人間性が更に雑になっていたのではないか、と出会いに感謝しています。
 
 最後の終わり方も、「この抗議は歴史に残るぜ!」という全裸でニュースとかに流せないようにするというのも良かったですね。勿論、重箱の隅をつつけば、最初のあのホームレスの婆さんは図書館に避難しなくて大丈夫なのか、とか、ホームレスを美化し過ぎでは?というところもあります。ただ、「パブリック」って何だろう、と考えさせられる映画だと思います。


 「ビッグイシュー」基金を運営されている川上翔さんが「見た目だけでホームレスだと分からない人が増えてきたこと」を語られていましたが、映画の中に出てくるビルの息子さんも一見普通の身なりなんですが、路上生活者なんですよね。
 「自己選択・自己決定が大事で実は公共施設や市民にも同じことが言えるのでは?」と同じく川上さんが指摘していましたが、まさにそうだな、と思いましてね。誰かに責任や判断をゆだねたり、僕みたいに諦めたりするんじゃなくて、自分で考えて、結果を受け止めて行くことが重要だと感じました。「自己責任」という言葉で失敗した人間を叩いたり、梯子を外したりする世の中だと、チャレンジする人間がどんどん減っていくのではとも思いますしね。

 色々と書いてきましたが、図書館や本の価値について再発見させられますし、コロナ禍の現代だからこそ観て欲しい1作です。最近は、映画をネタに社会について多くの方と話すことが増えましたが、本を通しても語れたらいいなと思いました。

 あの映画館に来てくれたホームレスの人が、また、映画を観てくれていますように。こんな寒い夜だからこそ、少し凍えながら観て欲しい1作です。

 

ホームレスだけど、知的な人々が出て、なんとなくこの作品と違ったアプローチを感じさせる森博嗣の新作の感想はこちら!

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