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イラストのディレクションVol.2    ヒアリング編

コミュニケーションのコツ

僕はクライアントや案件ありきでしか絵を描かないタイプのイラストレーターなので、自分のインスピレーションよりも話し合いやヒアリングといった企画を汲む段階を大事にしています。

そのためサラリーマン時代からイラストに関する話し合いの場には極力自分で参加するようにしていますが、クライアント側の事情もありますし、そもそもあくまで外部の人間ですので、その全てに参加する事は出来ませんし、さらにイラストレーターアサインへの多くは基本的な内容が色々と決まった後になりやすいため、「イラストに関わるの話し合いの殆どは専門家不在の状況で完結」してしまいがちです。

前回の提案書編でも書きましたが、アートワークに関する事にせよ言葉によるコミュニケーションはとても重要ですので、ここに専門家が介在しないという状況は割と進行に重めのロスを招きかねません。

※提案書編
https://note.mu/obitadashi/n/n941f3f585f59

そこで今回は、クライアントからのヒアリングとコミュニケーションに関して、僕の考えるすごく簡単なコツをいくつか書きたいと思います。


「イメージ」ではなく「言語化」
業務で直接イラストを発注するような人の場合、さすがに「イラスト=子供向け」というまでの偏見を持った方は少ないと思いますが、それでもやはりあくまで「アート」の話だと高を括っているおかげで、「説明できなくても仕方ない」と思っている人は割と多いと感じます。

またそれは制作側の窓口にも往々にして言える事で、結果として雰囲気だけそれっぽい、中身のないビジネス然とした言葉回しでその場を煙に巻くような会話を双方で繰り広げた結果を持って「ヒアリングしてきました」と議事録を見せられても、専門家なら解読してイラスト制作用にろ過出来るような魔法のフィルターは存在しません。

よってこの場でするべきは企画の意図と目的を箇条書きでも良いので言語化し、イラストレーターに対してより良いヒントをなるべく多く持ち帰る事だと思います。

で、このタイミングではまた「決め切らない事」もすごく重要だと僕は考えています。

「貢献したい」「クライアントからの希望を100%再現したい」「自分が決めたい」「早く決めたい」と、いくつかパターンはあるかと思いますが、最初に全部決めてしまおうという考えは近道というよりむしろ手抜きに近く、むしろこれによって「イラストレーター自身でなければ出来ない提案の余地」を合理的に残す事に繋がります。

僕は一応僭越ながらこれを生業としている者として、それでも専門外の人と話す時に常々心掛けている事は、「専門的な内容ほど、なるべく易しい言葉を選んで使う」事です。

ここでの目的は「齟齬なく汲み取る」事であって、自分が出来る人っぽく相手の目に映る事ではあってはならないと考えているからです。



ニュアンス言葉に注意
再三、言葉による絞り込みの重要性を書いていますが、それでも言葉では表現出来ない余地はどうしても残るものですし、そもそも定義の広い単語も存在します。

・ポップ
・リアル
・かわいく
・おしゃれに
他にも色々ありますが、これらようなニュアンスの単語がまさにそれに当たり、さらにイラスト制作に関わるとその発生率が跳ね上がるため要注意です。

理由は、言葉の響きは共有していても頭の中の想像がそれぞれ全く別である可能性と、その確率の高さです。

更に言うとイラストのジャンルを一直線に指し示しているようにも見える点、加えてそれぞれ代用の利かない単語という感覚を持つため、互いに「説明し切った感」「聞き終えた感」をくすぐってしまう厄介さもあります。

これを野放しにせず意識の共有を確認する方法は、あまり恰好は良くないですが、その場で「ポップ イラスト」と画像検索して画面共有してしまう事だと思います。

対面でのディレクションはいわばヒントの追い込み漁です。

目で見て、「こう検索するとこんなのが出てきますが、おっしゃっているイメージと合っていますか?」と質問する事で意識のすり合わせの精度は格段に上がるはずです。

ただこれは、場合によっては相手をあげつらう事にもなりかねませんので、そこは話術と関係値の具合によって各自ご注意頂く事も同時に重要かと思います。



ディレクションの精度による効果
客先における1回目のヒアリングの目的は「これを作ります!」と確約する事ではなく、「こういう人を相手にこういう目的でどう見せたい」というキーワードを集める事です。

で、これはあくまで素材であって、これを揉み込んでお口に合うよう調理をするのが持ち帰った後の打ち合わせか、或いはイラストレーターとのコミュニケーションです。

イラストは常にゼロから作るものですし、イラストレーターの個性(クセ)と技量と理解度によって仕上がりは期待値に対してどうしてもバラツキが出ます。

お客様に期待させつつ、させ過ぎず、かつ作る側があくまで下請けとしてでなく、なるだけ同じ歩調でパートナーシップを築くためには、最初に強めのインパクトを残す事ではなく、お互いに逃げ道を残す事で段階的なシナリオが描かれるべきだと僕は考えています。

またディレクションという立場はあくまでコミュニケーションにおける舵取り機能の一部であって全部ではなく、外注とはいえ専門家としてイラストレーターにも頼るべきだと思っています。

強めに手綱を握っていないと不安になる気質の人もいると思いますし、イラストレーターにコミュニケーションが苦手な人が多い事もまた事実だと思うので、人員の構成にもよってはここまで書いてきたものがそれなりに覆るケースもあるかとは思いますが、結局個人のパフォーマンスはその場で跳ね上がるものではないので、イラストレーター側から言うのもなんですが「如何に引き出すか」と考えて頂ける方が合理的な気もします。


今回もやはりヒントの域を出ませんが、今回は特に人同士のコミュニケーションですので「向上はあっても完成はない」という事で、こんな感じでご勘弁頂けたらと思います。