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自動運転の進展で自動車保険はどう変わるのか?AIが進化する世界で生き残る保険代理店/保険営業とは?

先日、FINOLABでのInsurTech Startup Meetupにて、自動運転と保険に関するイベントを開催しました。

イベントでは、明治大学商学部教授で保険学・リスクマネジメントを専門とされており明治大学自動運転社会総合研究所所長でもあられる中林先生、そして東京海上日動火災保険株式会社で自動運転領域のアライアンスやソリューション構築を担当されており、内閣官房での自動運転政策の立案・遂行にも携われたこともある清水様の2名にご登壇いただきました。

本記事ではそのイベントで言及された内容をなぞりながら、自動運転の現状と保険業界の未来について考察しました。


意外と自動運転の実現はまだまだ先?!

昨今、TwitterなどのSNSでは自動運転車がハンドルを触られることなく公道を走行する動画がよく出回っています。下記のロイターの動画はその一例です。実際の自動運転はどのくらい進んでいるのでしょうか。

自動運転にはLevelが0から5まであります。私たちが自動運転と聞いた時にイメージしがちな、ドライバーが全く運転に関与しない完全自動運転はLevel5です。特定の条件下での自動運転がLevel4、特定の条件下で自動運転するもののシステムからの要請でドライバーがいつでも運転に戻らなければならないのがLevel3です。

出典:国土交通省「自動運転のレベル分けについて」

日本では自動運転の実現に向けたロードマップが国土交通省により引かれています。そのロードマップによれば、2025年にレベル4を”自家用車ではなく商用車の領域”で、全国40ヶ所で実現するというのが、”チャレンジ目標”とのことでした。

出典:国土交通省「自動運転の実現に向けた動向について」

東京海上日動火災保険株式会社が資本業務提携済の自動運転技術を提供するMay Mobility社は、都市部におけるLevel4の自律走行型シャトルバスサービスの提供に取り組んでいるとのことでした。
また、長崎県対馬市では低コストな自動運転方式として地面に引かれたグレー線のターゲットライン上を走行する方式のLevel2の実証実験が行われているそうです。
高速道路での事故発生は全体の一桁パーセントであることから、自動運転が進みやすいのは高速道路だろうとのご意見もありました。

全ての道路でLevel5が実現するのはまだ先だということが分かります。また、当面は自動運転車と人が運転する車の混合交通が続くだろうとのことでした。
自動運転の技術はどこかの企業が一社で独占する形ではなく、都市部・郊外、一般道・高速道路、普通車・商用車など、交通環境や車両の違いに応じて、それぞれを得意とする企業が提供していく形になるかもしれません。

自動運転では事故原因追及が困難になる?!

自動運転になると、人が運転する場合に比べて事故が減少することが見込まれていますが、事故が完全になくなることはないでしょう。万が一、事故が起こってしまった時の対応はどのように変わるのでしょうか?

自動運転では事故発生時に責任の明確化が困難になると考えられています。事故の原因が、車の部品の故障だったのか、センサーの故障だったのか、ソフトウェアの不具合だったのか、地図情報が古いせいだったのか、など幅広い可能性が考えられるからです。そして、関わるプレイヤーも自動運転車を開発する自動車メーカー・自動運転車向けのセンサーを提供する企業・自動運転のソフトウェア企業・走行ルートの地図を提供する企業と多岐にわたります。幅広い可能性・多数のプレイヤーが関わる中で、事故の根本原因を追求し、その原因を生み出したプレイヤーに責任を負わせることは、現実的には不可能に近いのではないかとも言われていました。原因究明を待っていては、被害者への保険金支払いが遅れてしまうことも想定されます。

また、補償プールのようなものをつくることも想定されています。これは、事前に関係者で補償用の資金をプールし、被害に遭われた方への迅速な補償を開始できるようにしようという考え方です。補償プールが実現すると、自動車保険の仕組みは旧来のものと大きく異なる形になるかもしれません。

自動運転の社会実装を支援する存在としての保険会社の進化

保険会社は自動運転が進む中でも安心安全な社会を実現する存在として進化しようとしています。

今回ご登壇いただいた東京海上日動火災保険株式会社では、自動運転時代への備えとして「被害者救済費用等補償特約」を打ち出しました。従来は運転者(被保険者)の法律上の損害賠償責任が明確にならなければ、保険金の支払いができませんでした。しかし、上述のように自動運転では原因追求に時間がかかってしまう可能性があります。この特約によって、ソフトウェアの不具合など、運転者以外の責任が考えられる場合でも保険金の支払いに向けた対応が進められるようになったのです。

また、保険会社はこれまでの事故対応に関するデータを駆使し、自動運転に関わる運行設計から事故対応までの幅広い領域でサービスを提供していこうとしています。保険会社の役割が保険金支払いだけではなく、幅広い領域に広がっていく可能性があります

自動運転が進んだ世界で保険代理店が活躍する方向性

保険代理店はどのような役割を果たすことになるのでしょうか。いくつかの方向性で想像してみます。

まず、自動運転に関する事故対応のノウハウは、一部のプレイヤーに集約されるのではないかと言われていました。
上述のように自動運転の事故原因追及の難易度は非常に高くなると考えられます。また、自動運転に関する専門知識がなければ、適切に状況を判断しながら対応を進めることも困難でしょう。従って、自動運転における事故対応は一部のプロフェッショナルに集約されると想定されます。
保険代理店の中でも一部の方は、こういった自動運転の事故や補償・保険に関する専門家として活躍していくかもしれません。

人にしかできないことは、感情面で寄り添うことではないかと考えています。
何度もお話している通り、自動運転車においてセンサーやソフトウェア、地図情報、交通状況、はたまた気象状況などにより、予期せぬ挙動はありえると考えています。予期せぬ挙動により、責任の追求のしようがない事故が発生してしまった際、被害者も加害者もやり場のない怒りや悲しみを抱えてしまうかもしれません。
保険代理店の方がコミュニケーションのプロとして、こうした感情面のフォローをしていくことになるかもしれません。

また、保険代理店の中には地域に根付いた活動をされている方が多くいらっしゃいます。
上述のように自動運転は、地域ごとの交通環境や車種に応じて、最適な仕組みや強みとする企業が異なる可能性があります。
自動運転を地域に合わせてカスタマイズして提案するところでも、保険代理店の方が活躍されるケースがあるかもしれません。

テクノロジーによる進化が進む世界で生き残る保険営業の特徴は?

本記事では自動運転について書いてきましたが、今後、自動運転以外にもテクノロジーの進化による人からAIへの置き換えが進む可能性が高いです。
その中でも生き残っていく保険営業とは、どんな人なのでしょうか。
私は、以下3つのタイプに当てはまる方は、今後も生き残っていくのではないかと考えています。

  1. 感情面で寄り添う力に長けている

  2. 特定領域の専門性が著しく高い

  3. 総合的な状況判断/提案ができる

1に関して、AIが進化したといっても、まだ人の感情面に寄り添うことまでは難しいです。保険加入時に人の保険に対する不信感や億劫といった感情に寄り添い、一歩踏み出す手助けをしてあげる。保険金請求時に辛い心情に直面されている方の心に寄り添ってあげる。そういった人の感情に寄り添い、支える力が強い方は今後も生き残るでしょう。

2に関して、十分なデータが集まっていなければ、AIも学習することはできません。また、専門性が高い保険の場合、いくらAIによって最適化されていたとしても、そのリスクを理解するために手助けが必要になります。今回取り上げた自動運転もそうですし、サイバーセキュリティ・WEB3など、高い専門性が求められる最先端領域では人の力が必要でしょう。

3に関して、テクノロジーは部分的なタスクの遂行を自動化することは得意です。画像を見て誰が映っているかを判断する、発言を聞いて解釈する、など、簡単なタスクは既に機械が実行可能です。しかしながら、様々な情報を考慮し、人の意思にも寄り添いながら判断することは人にしかできないでしょう。単一の保険種類の提案はAIに置き換えられる可能性が高いです。一方で、家庭環境・経済状況、将来の目標などを考慮して、複数の保険ひいては金融商品全体を提案できる方は中々AIには置き換えられないでしょう。

最後に

これからも、最新技術と保険の交点に関して、探索していきたいと思います!ぜひ、私の個人サイトもご覧ください。お読みいただきありがとうございました。


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