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「ぼくんち」西原理恵子

漫画の紹介、全3巻のオールカラー作品。

大学生のころ、通学経路の途中に池袋駅があった。
東武東上線から山手線へ乗り換える時に通り過ぎる駅。
この時からずっと池袋が大好きだ。
この街と自分、どこか波長があったのかもしれない。

東武百貨店の7Fにある旭屋書店に行くことが、ほぼ日課になった。
地元駅には無い、初めての大型書店は、すごい宝物だらけの空間のように感じられた。
後に神田の神保町を訪れるまで、ここにないならどこにもない、と思うほどだった。

目的をもって訪れることもあれば、特に何を求めてるかわからない状態で、たくさんの本に囲まれるのを楽しんだ時もあった。
そんな時にエッセイマンガのコーナーで見つけたのが、西原理恵子の「鳥頭紀行」だった。
今まで読んだことの無い種類の作品、エッセイも初めてだったしこんなに下品な笑いもはじめてだった。
一瞬で虜になった。

そこから西原理恵子のエッセイマンガを読みまくることになる。
どれも面白くて、後に「毎日かあさん」が一般的にも有名になった時、この作家はもっと面白いんだぞ、と叫びたかった。

本作はそんな西原理恵子のストーリー漫画だ。
これが腹を抱えて笑うぐらい面白いし、ほろりと涙が出るほど感動する作品だった。
うすうすエッセイの中でも感じていたが、作者の人生がすごい濃密で、それがぎゅっとつまっているから、、、深いんだと思う。

あらすじ。
一太と二太は父親違いの兄弟、母親と3人暮らしをしていたが、ある時母親はどこかにいってしまう。
帰ってきたときは姉を連れてきた。
そしてまた出て行ってしまう。
母親は家を出てしまったのではなく、家を出てこの二人をこさえていたとのこと。
それから、姉と兄弟の3人暮らしがはじまる。
姉はピンサロ嬢、貧乏人ばかりが集まるひどい街で、小さな犯罪を犯しながら金を稼ぐ兄弟、まわりの人間もド底辺のどうしようもない人ばかり。
そんな中で、なんとか家族として生きて行こうともがく3人の様子が面白おかしく、そしてどこかせつなく描かれる作品だ。

エピソードはどれも秀逸だし、どん底にいる人達だから出る名言が心を打つ。

「どんなに喧嘩しても、どんなにどうしようもなくても家族は一緒に飯を食わなければいかん」とか、
「泣いたら腹がふくれるか?泣いたら世間がやさしくしてくれるか?泣いてる暇があったら笑え!!」とか、
「早く大人になるのは大変だけど、いいこともあるんよ?」とか。

こんなエピソードがあった。
ヤクザにすらなれないチンピラの親父が小学生の娘を酔っぱらって殴る。
体を守るために小さくなる彼女は背中が痣だらけ。
二太は彼女を”よわねこ”みたいだという。
”よわねこ”は近所に住んでいる猫で、喧嘩が弱い為に背中が傷だらけなのだ。
ある日少女が”よわねこ”の見に行く。
二太が声をかけると、少女は”よわねこ”の死体を見ていた。
「よわねこ死んでた。よわいから死んだんや。」と。
後日、二太が家にいると少女は上半身裸でやってくる。
そしておなかにある痣を見せて、笑顔でピースする。

底辺でどうしようもなくて、でも必死でもがく人たち。

全編そんな感じなのに、どこか笑える不思議な作品。
この言葉はたぶん帯コメントだったような。。とても記憶に残っている。
本作をものすごく的確に表現していたから。

”ぼくんちはすごくヒサンであったかい”

作者は高須クリニックのCMに出てます笑

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