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「自殺島」森恒二

漫画の紹介、全17巻で完結している。

森恒二の作品は、以前「ホーリーランド」を紹介した。
本作を読んでも思ったのだが、この作者は本当に10代、20代の若者たちの苦しみや悩みを描くのが上手い。
ホーリーランドの主人公もいじめられていて、トラウマを抱えた人物だった。
特に刺さったのは、同年齢の人たちが掲げる”イケてる”という価値観に対して違和感を覚えるシーン。
”イケてる””イケてない”という不明確な他者からの評価に右往左往してしまう、まだ自分が確立出来ていない若者たちの心、みんなと同じ価値観を共有しなければいけない、という焦り。
それらが上手く表れているシーンだった。

「ホーリーランド」の主人公は、葛藤と戦う方法を拳に託すのだが、本作の登場人物たちは、戦うのではなく自ら死を選ぶという選択をする。
題名の通り自殺がテーマなのだ。

本作では青少年の自殺の増加を受け、政府がある決断を下す。
自殺未遂を何度も繰り返す人物は、政府としてその生命と財産の保障をしないと決める。
書面では死亡したということにして、無人島に送り込み放置するのだ。

その島に集められた男女混合の若者たちが、国から見放された絶望からなんとか立ち直ろうともがき、命の価値を見出していくという話だ。

インフラも整備されていない、飲み水すら容易に獲得することが出来ないところで、若者たちが生きることに”のみ”集中し、自分を肯定していく姿を描く、だけならいいのだが。。

この物語では、国に見放されたことを”よし”として、好き放題やることに喜びを覚える無法者たちがあらわれる。
主人公たちはコミュニティを作り、秩序をもって協力しあいながら、時に恋愛なんてしながら、生きていくグループ。
対して無法者たちは女を自由に扱い、人に害を与えることを是とするグループを形成する。
この二つのグループの闘争も見どころの1つだ。
自ら命を絶つと一度は判断した若者たちが、仲間や自分の命を脅かす存在に対し、抗う為に相手の命を絶つという決断をする。
どう生きても命と向き合わなければならない状態。
なんという緊迫感か。

”死”が充満する中で、生きるために狩りをするシーンが出てくる。
これもまた、命と向かい合う行為だ。
非常に印象深い。

はっきりと、命というものに焦点をあてた、ここまでの作品はそんなになかったかと。
あったとしても、こんなにエンターテイメントしてなくて説教臭かった気がする。

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