あの頃のあなたへ
こんにちは。
夏休みがもうすぐ終わろうとしている。
学生の頃、小学生の頃から、夏休みが始まる前、いつも不安だった。この長い休みをやり過ごせるのかと。
そうして新学期が始まる頃には、とてつもなく不安だった。
身体がそう強くなかった子どもの頃の私は、よく熱を出した。
一度発熱してしまうとそうは簡単に治らない。
だいたい1週間から10日ほど欠席をしてしまう私は、復学しても授業には追いつけず、友達の話題にもついていけず、ただ目の前のことを一つ一つこなすも、そのスピードは限りなく鈍足で、体育の授業があれば着替えが間に合わずに遅れる、図画工作の時間があれば片付けが終わらずに次の授業が始まっている、そんな子だった。
今でも時折思い出す。
図画工作室の、美術室の片隅の水場で。絵の具のパレットを洗う私。
幼稚園の頃に絵画コンクールで副賞でもらった白いパレット。
学校の一斉購入で買わなかったクラスメイトのみんなと違う絵の具セット。
当時はポリチューブの水彩絵の具が主流だったのに。
私の絵の具セットに収まっているのはアルミチューブの小さな絵の具。
絵筆を使って懸命に大切なパレットを洗う。
あの時ぼんやり思っていたのは、もう思い出せないけれど。
なんでみんなパパッと洗えてしまうのかなぁ。
どうして次の授業に遅刻しないのかなぁ。
どうしてうまく、要領よくこなせてしまうのかなぁ。
思っているように頭が働かない、思考が途切れて分断される。
見よう見まねしようにも手足はいつも脳内にイメージされない。動かない。
叱られたり、笑われないクラスメイトが羨ましかった。
そんなこと。
絵を描くことも、工作をすることも大好きだったけれど。
水洗の湿った空気、絵の具の匂い、硬い椅子、生乾きの雑巾のカビ臭さ。
そのどれもに神経をやられていた。
学校の校舎の作りがものすごく苦手だった。
古ぼけた壁も、汗臭い体育館も、薄暗い廊下も、リノリウムの床も。定時に鳴る大きなチャイムの音も。休み時間のクラスメイトの喧騒も。
幼稚園の頃から何度か幼稚園を休んだ。
通園バスに乗るときに毎回私の右腕に噛みついてくる男の子がいた。
親の仕事の都合で半端な時期に転園した。
転園先の幼稚園の給食は作り置きで冷たくて食べられなかった。
どうしても食べられなくて残した1つの餃子。
ヒステリックな先生はお道具箱と私を中庭に投げた。
新しい幼稚園でもよく泣いた。
背の順で後ろの女の子はいつも怒っていた。私はその子につねられて背中じゅうアザだらけだった。お風呂に入ったときのお母さんの悲しい顏。園長先生の困った顔。女の子の辛そうな顔とその子のお母さんの恐ろしい顏。
前の幼稚園の先生から真夏生まれの私に誕生日カードが届いた。電子音でハッピーバースデーが流れるカード。何度も何度も押して聞いた。もう鳴らなくなったけれどいまだにとってある。
些細なことに猛烈にこだわる癖があった。
他の人から見たら取るに足らないくだらないことばかりだったのだろう。
どんなに泣いて癇癪を起しても理解してもらえない。語彙力の足らない当時の私。
今、もし目の前にあなたがわからない状況が起こっていたら。
どうか、こんな子もいるのかと思い出してほしい。
私たちは、毎日懸命に過ごしている。
それがわかりやすい態度や姿勢や言葉に表せなくて苦しんでいる。
その苦しんでいることすら発露できない時がある。
察してと、甘えるつもりはさらさらないけれど。
必死に生きていることを知ってほしい。
私は年を重ねて、言葉と知識を獲得して少しずつ楽な気持ちで生活できる時間が増えてきた。今はたくさんの人との交流を通してホッとできる時間も休める時間もぐんと増えた。
ふと思い出す。夏休みが終わるときに。
学校に度々行けなくて家族は泣いたけど。
でも私は生き延びた。
死ななかった。
自分で自分を終わらせなかった。
それで十分じゃないか。
わかりやすい不幸は持ち合わせていなかった。
両親がいた。三食食べられた。義務教育に通学できた。
それでも。
機能不全家族だった。
目に見えない不幸もある。
理解されない苦悩もある。
あの時、助けて、が言えなかった。親に。
親も大変な暮らしの最中だった。子どもが助けを叫べる先は知らなかった。
本だけが味方だった。
本を読んでいれば、現実から逃げていられた。
終わりのページが近づくのが怖くて悲しかった。
楽しい時間は永遠に続いてほしかった。
それでも。
夏は終わってしまう。
そんな時に出会った詩が今でもずっと私のお守り。
もし、図書館が近くにあったら、元気が出るまで通ってみて欲しい。
児童書を読みつくした市立図書館で、普段は立ち寄らないコーナーで読んだ詩がある。
「生きているって……」 葉祥明
空を見上げると
白い雲が浮かんでいる
お日さまが輝いている
この世はすばらしい!
生きているって不思議!
泣いても、笑っても
歌っても、倒れても
何が起ころうと、起こるまいと
全て、うれしいこと
ネコがいる、犬がいる
小鳥がいる、虫がいる
大好きな家族がいて
仲の良い友達がいる
皆がいるからうれしい
それもこれも
僕がこうして生きているから
生きているって、すごい!
【書 名】ステキな詩に会いたくて-54人の詩人をたずねて-
【作 者】水内喜久雄
【価 格】1,470円(税込)
【頁 数】157ページ
【サイズ】21.6×15.4×1.6cm
【出版社】小学館(2010/7/28)
もし図書館が近くになかったら。
ひと眠りするだけでも。誰かに電話するだけでもいい。
1人ぼっちじゃないよ。
必ず話を聞いてくれる人はいるよ。
#8月31日の夜に
#学校ムリでもココあるよ
#あの頃のあなたへ #不登校 #不登園 #大丈夫
#葉祥明 #