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自分から最も遠い人に向けて書くと、書く力は飛躍する

4年前、鹿児島の屋久島へ旅行したときの話です。

屋久島といえば縄文時代から生きている杉の大木・縄文杉。
そして縄文杉といえば往復8時間に及ぶまあまあ過酷な道のりが有名です。

もやし女子の私には一生縁のなさそうな場所なのですが、4年前の自分は何を血迷ったのか「ちょうど30歳の誕生日だし、記念登山だ!」と友人を誘って行ったのでした。

当日は案の定、2合目あたりのウィルソン株(ハート形の穴になっているので有名)辺りで貧血で倒れてしまいました。そのときは私と友人の他に、当日九州の方から来ていた3人の方+ガイドさんが1人というチーム構成でした。

ガイドさんから引き返すことも提案されましたが「一人だけ脱落なんて絶対やだやだヤダァ!!」と駄々をこね、頂上を目指したのでした。

当初は私が一番歩くのが遅いので、6人の列で一番後ろを歩いていたのですが、ガイドさんから「私の後ろにつきなさい」といわれて、列で2番目を歩くことになりました。

ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、登山では何人かで列に並んで進むとき、2番目、つまり先頭を行くガイドさんの次の位置が一番楽な位置とされています。

理由はガイドさんが止まったら、一番列の後ろを歩く人が揃うまで若干休んでられるからだそうです。一番後ろを歩いていた体力のない私は、2番目の位置で歩くことによってなんとか頂上までたどり着いたのでした。


ライティングのお仕事をしていると「わかりにくい文章と言われる」「書いても伝わらないのがしんどい」とお悩み相談を受けます。
そのとき私がよくお伝えしているのが「登山のガイドさんになったつもりで書く」ということです。

ガイドさんというと、だいたいの人が「旅行グループの先頭で旗をふって、名所の説明をしている人」と、前を向いているイメージがあると思います。
しかし実際のガイドさんというのは常に「全員ついてきているか?」と絶えず後ろを振り返ってらっしゃるものです。
屋久島でお世話になったガイドさんも、おそらくあの登山グループで最も気にかけていたのは一番後ろをフラフラと歩いていた私だったと、今では思うのです。

文章を書いている時も、絶えず「この文章は、隣のおじいちゃんが読んでも伝わるだろうか?」「この文章は、小学生が読んでも理解できるだろうか?」と、自分から最も遠い人・離れている人に伝える、という意識で書いてみるのがおすすめです。

例えば、以前私はリトリートを主宰したとき「事前コール」というものを設定しました。
いきなり知らない人たちでリトリートにいくより、リトリートの前にオンラインで顔合わせをした方が当日楽しめると思い、何の気なしにこの言葉を採用したのです。

しかしその企画書をコピーライターの先生に見て頂いたとき「事前コールが何のことか、わからない」と指摘を受けて、目からうろこが落ちる思いをしました。
なぜなら私はそれまで仲間内でこの「事前コール」という言葉が通じなかったことがなかったからです。
どれだけ同じコミュニティの、同じ言語を使っている仲間しか見ていなかったのかと痛感した出来事でした。

長くなりましたが「文章を書くときいまいち伝わらない」とお悩みの方は、ぜひ自分から最も遠い存在の方に伝えてみようという意識で書かれることをおすすめします。

読者は書き手が思うより簡単に離脱してしまいます。絶対に読者を全員ラストまで連れていってやるという意識で、最も自分から離れた場所にいそうな読者に向けて書いてみて下さい。最も離れたところにいる読者に届けば、近い場所の人にも届いているはずです。

それは自分と同じコミュニティの人に伝えるよりも大変なことですが、きっと書く筋肉は飛躍的にアップすると思います。